第59話「やつらに果し状を送る!戦いはすでに始まるいるぜ!」
果し状をオタクバンドたちが通う学校へ送るため、放課後にみんなで集まって書くことになった。
「別に手紙じゃなくて、学校のホームページにあるお問合せから送ればいいんじゃねーの?」
紙に書いていた俺に、成瀬はだるそうに話す。
やつらの学校をネットで調べている時、たしかにお問合せファームみたいなページがあった。
「今どき、わざわざ手紙を書くやつなんかいねーだろ。それに、なんだ……そのきたねー字は」
「うるせーな! 果し状っていったら、筆ペンで豪快に書くだろう。なあ、小野寺?」
「いや……仙道。俺でもさすがに、書かないぞ」
神社の息子である小野寺ならば、わかってくれると思ったが違ったらしい。
俺の書いた字を見ながら、みんなはさらに顔を引きつっている。
「晴君……対バンのお願いを書くのに、倒すとか相手の悪口しか書いてないよ」
「いや、有本。おまえは、この字を全部読めたのがすごいな」
「あ? やるからには、これくらい書かなきゃダメだろ。なめられるわけにはいかねーからな」
バンドマンとして、相手に隙を見せるわけにはいかない。演奏だけでなく、こういった態度も必要だ。
書き終わった俺は、紙を封筒に入れる。そして、ポストに入れようと立ち上がる。
ーーガシッ!
すると、力強い重みが肩にかかる。
「待て、仙道……」
小野寺は俺の肩に手を掴み、なぜか俺を止めた。その力は、次第に強くなっていく。
「もしかして、その手紙を本当に送ろうとしているのか?」
「あ? 当たり前だろ、そのためにさっきから書いてたろうが」
シゲは無言で教室の扉の前に立ち、成瀬は俺を囲うように近づいていた。
「さっ、仙道。その手紙を俺に渡せ」
「なんで、俺が熱く書いた果し状をてめえに渡さないといけないんだよ……成瀬」
「まあまあ、いいから。ささっとよこせ」
成瀬は俺から手紙を奪おうと、手を伸ばした。反射的に俺は取られまいとして、封筒を持った手を遠ざける。
「てめえら、なにをしようってんだ! せっかく書いた俺の手紙をよう!」
「決まってんだろ、破り捨てんだよ! そんな内容を書いたバンドの一人と思われたくないんだよ」
「いいじゃねーか! 相手は、オタク野朗だぞ」
「もしかしたら、相手校の女子をナンパするかもしれねーだろ! イメージってもんがあるんだ」
成瀬の手を払いながら、俺は懸命に奪われまいと暴れる。揉み合う形で、俺と成瀬の攻防が始まった。
「こら! てめえ、離れろ!」
「おまえこそ、いい加減に諦めろ! 相手に送るのは有本に任せておけばいいんだよ」
「馬鹿野郎! バンドのリーダーは俺だそ」
バタバタと暴れ回っていると、手に持っていた手紙がどこかへ飛んでいく。
ヒラヒラと舞い、教室の扉を塞いでいたシゲの足元に落ちた。
「よし、シゲ! それを俺に渡すんだ。今からポストに入れてくるからよ」
俺がそう話すと、シゲはにこりと笑う。
ーーさすが、シゲだ。やっぱり、おまえは俺の味方だもんな。
シゲだけは成瀬たちとは違い、俺のバンドに対するロックな気持ちを理解してくれているはずだ。
オタクバンド野朗共に、挑戦状を叩きつける俺と同じ想いに違いない。
「ごめんね、晴君」
シゲはそう答えた後、封筒を手にして笑顔でビリビリと破り始めた。
「シゲェェェー! やめろおおおお!」
俺の叫びも虚しく、書いた手紙と共に、封筒は細かく破かれた。
結局、俺の書いた手紙はなかったことにされ、代わりにシゲが向こうの学校にメールで送ることになった。
「ふう! こんな感じでいいんじゃないかな?」
「うむ。丁寧でわかりやすいし、向こうにも失礼がないな」
「さすが有本だな! これなら、俺らの学校も納得するだろ」
「……っ」
俺を抜きにして、三人は書いたメール内容に納得している。
いかにも、シゲが書いたくそ真面目な文。それは、ロックバンドらしからぬものだった。
ーー仲良しこよしで、ライブを一緒にやるんじゃねー!対バンっていうのは、いわば戦いなんだよ。
どうにも納得いかない俺は、そう思いながらシゲたちを見つめる。
「では、その内容で送信しよう。有本、送信ボタンをクリックするのだ」
「そうだね、送ったら向こうからの返信を待つだけだから」
「後は……こっちの学校をどうにかしないとな」
このままでは、なんら普通の他校と交流する名目で話が進んでしまう。オタク共と、お遊びバンドのイベントになりかねない。
そう思った俺は、勢いよくみんながいるところに割って入った。
「そんな文章でいいわけねーだろう! どけえぇー!」
「え、晴君?」
シゲが持つスマホを素早く取り上げて、俺は流れるような速さで文字を打つ。
「おまっ! なにしてんだよ」
そんな俺を引き離そうと成瀬たちが動くが、もう遅い。
「よし……送信っと!」
「てめえ、仙道! なにしやがった!」
送信ボタンを押し終えた俺から成瀬はスマホを取り、送信画面を見る。
「仙道……てめえ、やりやがったな!」
「成瀬君! 晴君はなにをしたの?」
「ふむ。有本が書いた後に、仙道が文章を追加したらしいな」
ーー俺たちは最強最高のバンドを目指す! 貴様なんぞは、俺たちのバンドがぶっ潰す。
という文字が、最後に添えられていた。
「晴君……これじゃあ、丁寧に書いた意味がないよぅ」
「いいんだよ! 送っちまったんだから、これでよしだ」
こうして、俺が追加で書いたメールがオタクたちのいる学校へと送られた。後は、やつらからの返事を待つばかり。
「さあ、戦いは始まったぞ! バンド練習だ」
「……このくそったれ野朗が」
成瀬たちの冷ややかな目など気にせず、俺はギターを取り出す。
オタクバンドたちとの対バンが、この瞬間から始まるのだった。




