第57話「ギャルゲーソングを弾くやつら?許せん」
シゲのスマホから流れる曲を聴き終わった俺は、しばらく沈黙する。耳につけたイヤホンを抜き、それを手に握る。
「……晴君、どうしたの? そんな、真顔になって」
シゲは不思議そうに俺の顔を見ながら、そう口にする。
「んだよ、そんな悪い曲だったのか? 高校生アマチュアバンドのCDなんて、たかが知れてるだろうしな」
「うむ、プロではないのだし、そこまで驚く必要はないのではないか」
成瀬たちは曲をまだ聴いてはいないみたいで、適当なことを話している。
「まずは……これを聴いてからにしろ」
俺はその言葉に反応せず、ただそんなふうに答えた。こいつらも曲を聴けば俺と同じ反応をするだろう。
二人は俺からイヤホンを受け取り、片方ずつ耳につける。シゲにもう一度最初から流すように言い、曲を再生してもらう。
「……なんだ、これは」
「いや、なんつーかよ。どう反応していいかわかんねーよ」
曲を聴き終わった成瀬たちは、それぞれそう話す。
「けど、これがギャル? ゲームに使われているなんて、思わないよね。かっこいい」
そう。俺たちが聴いたのは、いわゆるギャルゲーソングというやつだった。
ゲームはあまり詳しくないが、シゲが言うにはこの曲は恋愛シミュレーションゲームに使われていそうなものらしい。
らしいというのは、あくまでイメージした曲らしく、いわばオリジナルソングだ。
「わりい、仙道。俺様は頭がくらくらしてきたから、休むわ」
「おめえは、曲の歌詞聴いてダメだったようだな。この手の歌には免疫なさそうだし」
「……歌詞が俺様に合わなすぎだわ。異次元すぎ」
そう言って成瀬は、床に座り込んでしまった。
「ふむ。歌の歌詞はいいとして、弾いた音はとてつもなく上手いな」
「そうだね、高校生が弾いたと思えないくらいのレベルだよ。僕のギターが悲しくなるくらい」
シゲはくやしそうに話す。俺が一番驚いた理由は、まさにそれだ。
歌よりも、オケの完成度の高さに度肝抜いた。曲のコード進行も良く、なにより弾いた音作りがすごい。
よほどの経験者じゃなければ、こんな音は出せない。
「くっ、くそう……」
俺はいっそう悔しさを滲ませる。
こんなにすごい演奏できるレベルなのに、それがよりによってギャルゲーソングなんぞに使われているのが、悔しい。
「俺は……認めねえ! こんな、音楽を!」
ロックバンドがこんなレベルの高い演奏ができるなら、納得がいく。しかし、ふざけたジャンルを弾く連中ならば認めるわけにはいかない。
「ええ……晴君。きっとこの曲を弾く人たちだって、なにか目的があってバンドを組んでるかもだよ?」
「うむ! CDに入ることができるバンドならば、俺たちにような目標があるとみた」
「最強最高のロックバンドを目指す俺たちと、一緒にするんじゃねー! どうせ、金持ちの道楽学生どものお遊びよ!」
そうだ。このCDだって、どうせコネで曲を入れてもらったに違いない。
ーーなにがギャルゲーソングだ! そんなもんは、ロックでもなんでもねー!
次第に、悔しさから苛立ちに変わる。
こんなふざけたバンドを、バンドマンとは呼べない。俺たちが、本当のバンドってやつをわからせてやる。
そう思い始めた俺は、あることを思いつく。
「よし! この曲を弾いた学生バンドに、対バンを申し込むぞ!」
俺がそうみんなに向かって叫ぶと、驚いた顔をする。
「いやいや……仙道よ。さすがにそれは無理だろう」
「あ? なんでだよ」
「そうだよ、相手はCDデビューしている学生さんだよ? きっと、かなりの有名人だろうし」
「ギャルゲーソングなんか聴く一般人がいるわけねーだろ! 有名人なわけあるか」
同じ高校生ならば、そんな面倒なこともする必要はないだろう。相手の学校を調べ出して、直接対バンを申し込めばいい話だ。
「そもそも、俺たちは部活としてバンドをやっていないだろう。他校に申し込むなど、まずできないのではないか?」
「向こうも、もしかしたら部活でしてない連中かもしれねーだろ」
「けど、学生同士でのことはきちんと学校に伝えなきゃだよ? 許可をきちんともらわないと」
俺たちの学校は、他校と交流する際は手続きをしなければならない。校長と担任の先生にオーケーをもらわないといけない。
「ちっ、手間のかかる規則だな!」
この曲を弾く学生バンドとの対バンは、まだ先の話になりそうだ。
とにかく、早急に手続きをしてライブを決行しなければならない。
「よし! やると決めたからには、まずはバンド練習だ! ライブまでに、さらに腕を磨くぞ」
すでにライブをやる気でいる俺に、シゲたちは呆れている。
「勝手に話を進めてんじゃねーよ。まだ、俺はやるとは言ってねーぞ」
成瀬が起き上がると、俺たちの話を聞いていたのかそう答えた。
「やるに決まってんだろ! こんなふざけた曲で、俺たちより優れているのを認めてたまるか」
「まあ、気持ちはわかるぜ。だが、野朗相手のバンドと対バンなんて、俺はテンションが上がらねー」
相手はきっと全員がオタク男に違いない。女好きである成瀬が、オタクとライブをやるつもりはないだろう。
「てめーはオタクに負けたベーシストってことで、いいんだな? もしかしたら、おめえよりモテてるかもしんねーなあ」
俺は挑発するように、成瀬に話す。すると、成瀬は不機嫌そうな顔をし始めた。
「負けるはずねーだろ! オタクより俺様がイケてるに決まってるわ! ベースもこのハンサム顔も」
「だったら、対バンでてめえの実力を見せてやれ!」
成瀬をその気にさせるのは、簡単だ。とりあえず、女とベースのことを言っておけば余裕。
「あっ、でも。たしか、このバンドに女の子が一人いた気がする」
シゲは思い出したように、そう話に入ってきた。それを聞いた成瀬は、さらに反応する。
「マジか? 可愛いのか?」
「ごめん……さすがに、顔まではわからないよ」
「どうせブスだろ? オタクと一緒にギャルゲーソングなんかやるんだし」
俺は勝手なイメージで、成瀬に話す。
「とにかく! このオタクバンドを俺たちが潰す! 俺たちのほうがすごいとわからせるぞ」
「……仙道よ。いつのまにやら、おまえの目的がわけわからなくなってきたようだな」
「いいんだよ! こんなオタクなんかより、俺たちのほうがすげえライブをやる。それが目的だ」
小野寺の声に耳をかざす、俺はそうさけんだ。
ーー次のライブは、こいつらと対バンだ。
まだやるかは決まっていないが、きっと実現するはず。なぜか、そう思えた。




