第56話「やつらとの始まりは、ある曲からだった」
ある日、俺はスマホで新しいバンドが出現していないか調べていた。
今の時代、アマチュアバンドは曲やライブ映像を簡単にネットに投稿している。
「ちっ、どいつもこいつもオシャレサウンドで弾きやがって」
画面に映る名もなきバンドの動画を見ながら、俺はそう吐き捨てた。上原が言っていたが、心にガツンと来るようなバンドがいない。
どれもこれも、うさんくさい理由で始めただろうバンドばかりだ。
「ああ! どこかにいねーのかよ、俺たちみたいな熱いロック魂を持ったバンドがよー」
スマホを置いて、俺は自分のベッドに倒れた。
イベントライブをやって以降、俺たちのバンドはライブをやる機会に恵まれない。
高村が話題のバンドだと言っていたが、そんなふうに思えないほど。街を歩こうが、誰も俺たちを知りはしない。
まだ、ただのアマチュアバンドの一つだろう。
「まあプロじゃないから仕方ないけど、やっぱりライブをこなして知名度を上げないとだな」
目標だけデカく抱えても意味はない。行動に移さなければ、なにも始まらないのだ。
俺は起き上がって、ギターをスタンドから取り出す。
ーージャンジャカ! ジャラランー。
とにかく練習するしかないと思った俺は、ひたすらギターを弾きまくった。
次の日になり、いつものように登校する。
「とりあえず、学校が終わったらみんなで集まって練習するだろ? それから、どこかライブイベントがないか調べるか……」
そうぶつぶつと口にしながら、学校へ向かって歩く。すると、前のほうでシゲが歩いていた。
「ようシゲ! 今日なんだけどさ、曲のギターについてだな」
俺は、シゲに近づいて話しかける。
「……ふん、ふん、ふふーん」
シゲは俺の姿に気がついていないのか、上機嫌に鼻歌なんか歌いながら進む。
「おい! シゲ、聞いてんのか?」
「……」
シゲに限って無視するとは思っていないが、まったく俺に気づいていない様子。耳にワイヤレスイヤホンをつけているみたいで、それが原因に違いない。
俺は耳にくっついているイヤホンを、思いっきり引っこ抜いた。
「うわっ! なんだ、晴君から」
「なんだじゃねーだろう! 何回も、声をかけたのによ」
「ごめん、ごめん。つい、音楽に夢中で」
登校中に、シゲが夢中になって音楽を聴くのは珍しい。ましてや、鼻歌を歌うくらいその曲にハマっているなんて。
「なあ、なにを聴いてたんだ? まさか、新しいメジャーバンドのやつか!」
気になった俺はそうシゲに尋ねるが、どうも歯切れが悪い態度をしている。
シゲはこれを聴かせていいものなのかと、思っている顔をしていた。
「うーん……多分、晴君が怒りそうだからなあ」
「なに言ってんだ、シゲ! おまえがハマるくらいの曲なら、俺にだってハマるだろ」
仮に俺の知らないメジャーバンドならば、なにかのヒントが掴めるはず。俺が、怒る理由はない。
「……本当に?」
「あったりめーだろ! もし、気に入ったら、そのバンドの曲をコピーしようぜ」
俺がそう答えると、シゲはそっと口を開く。
それと同時に、学校のチャイムがでかでかと鳴り響いた。
「あっ、早く校門に入ろう? 遅刻しちゃう」
チャイムに邪魔をされてしまい、結局シゲの聴いていた曲を知らずじまいになってしまった。
まあ、それは教室に着いてからでいいかと思った俺は、先に走るシゲを追いかけた。
その後もシゲに声をかけようとしたが、なぜか今日はやたらと邪魔がはいる。
「晴君、ごめんね? この教材を運ばなきゃなんだ」
バンドをやっている以外のシゲは、学校でいわゆる優等生だ。教師や他の生徒からの頼みを聞いては、こうやって積極的に取り組む。
なかなか話す機会がない日だなと思うけど、俺は朝の聴いていた曲が気になって仕方がない。
ーーどうにかして、曲を聴き出さなくては。
そう考えていると時間は過ぎて、気がつけば放課後。
「よく考えたら、学校が終わればバンド練習で会えるじゃないか」
「……仙道、貸しスタジオに向かわないのか?」
下校する途中に、小野寺とばったり会った俺たち学校の出入り口に向かう。
「というかよ、成瀬とシゲはどうしたよ! まだ、こねーのか」
「なにをピリピリしているのだ? 成瀬はわからんが、有本は遅れるそうだぞ」
「あ? なんで、おまえが知ってんだ?」
「廊下を歩いていたら、有本に会ってな。おまえに、そう伝えて欲しいと」
ーーシゲのやつは、いったいなにをしていやがるんだ。
成瀬が来ないのはいつものことだが、シゲまでとは。放課後になって、まだ学校にいるというなら、それは先生からまた頼まれ事に違いない。
「はあ……まあ、先に向かうぞ」
貸しスタジオの予約時間に遅れるとまずいし、仕方なく小野寺と楽器屋へ向かうことにした。
「ほう、有本が鼻歌を歌うくらいの曲か。たしかに、それは気になるな」
「だろう? けど、聞こうにも今日はタイミングが悪くてよ」
向かう道中、俺は朝のことを小野寺に話す。小野寺も気になったようで、興味深そうに話を聞いている。
「バンドの曲で思い出したが、俺たちと同じような高校生バンドがならにやら話題になっているらしい」
「また話題のバンドかよ! どうせ、そこまで話題になってねーだろ。俺たちみたくよ」
周りが話題にしているような噂話など、あてにはならない。
バンドでライブを成功させた程度で話題になったら、そんなもんはごまんといるだろう。
「いや、なんでもよくわからんジャンルの曲を演奏したらしく、しかもCDデビューもしたようだぞ」
「くそが! アマチュアバンドごときがCDデビューだと? うらやましすぎんだろ」
CD化できるなんて、業界に知り合いがいないとできない。高校生にレコーディング代を払えるほど、金など持ってないはずだ。
環境に恵まれ過ぎるそのバンドに、俺は羨ましさと苛立ちを感じる。
「俺たちは地道にコツコツと、やっていくしかねー! 今日も練習だ……ちなみに、そのバンド名は?」
そうは言っても、そのバンドが気になった俺は小野寺に尋ねる。
「うむ、たしか……ザ、アゴ? いや、アゴーなんたらだったかな」
「いや……曖昧すぎんだろ、名前くらい覚えておけよ」
シゲに続いて、小野寺からもバンドについて詳しく聞けなかった。
貸しスタジオに入り、俺と小野寺はシゲたちが来るまで軽くウォーミングアップを始める。
すると、しばらくして遅れた二人がやってくる。
「ごめんごめん、先生と学校行事について話してたら遅れちゃった」
「俺様はクラスの女子とトークしてたぜ! まあ、仕方ねーよな!」
対照的な二人の遅れた訳を聞いた俺は、さっそく練習を始めるように話す。
「ふむ……なんだったかな? 名前、バンド名は」
「あ? 小野寺のやつ、なに考え込んでいるんだ?」
「まだ、思い出していたのかよ……」
俺は小野寺の話を二人に話した。
「それより、シゲ。朝に聴いてた曲ってなんだったんだ?」
やっとシゲと話せた俺は、今までのモヤモヤを晴らすべく尋ねる。
「ああ、あの曲? 実は……」
シゲがそう口にした時、小野寺がいきなり叫び出した。
「思い出したぞ! ザ、アゴットだ!」
あまりの大声で話す声に、俺はびっくりする。それと同時に、シゲも驚いた顔をしていた。
「どうした? シゲ」
「そうバンドだよ! 僕が聴いていた曲のバンド」
まさか、二人が言っていたバンドが同じだったとは思いもしなかった。ということは、もしかしたらすごいバンドなのかもしれない。
そう思う俺は、そのジ、アゴットとやらのバンドがますます興味を持った。
「すごいんだよ? この曲はね、ギャルゲーっていうのに使われてる曲なんだって」
「うむ、なんでもギャルゲーソングで覇権を取ると宣言しているらしい」
ーーは? ギャルゲー? んだ、それ。
聞いたことがないジャンルに、俺はぽかんとする。
「なにがギャルだボケが! 金髪が好きなのか、そいつらは!」
「ちげーだろ、ゲームのキャラなんじゃね?」
成瀬に指摘されるも、そんなふざけたバンドを許すわけにはいかない。
「まあ、晴君。とりあえず、聴いてみなよ」
シゲはそう言って、俺にワイヤレスイヤホンを差し出す。俺が耳にくっつけると、シゲはスマホの再生ボタンを押す。
そして、その曲は流れ始めた。




