第55話「次なるライブを求めて」
イベントのライブが終わって、また俺たちの日常は戻った。
学校生活とバンドを両立している俺は、学校では毎日だらけてばかりいる。
「晴君、勉強もしなきゃだよ?」
「わかってるよー。けど、勉強よりギターを弾いていたいわ」
机でだれていた俺に、シゲはそう話しかけてくる。
あのイベントが終わってから、だいぶ月日が経つ。
「古川君たちのバンド、あれからちょくちょくテレビで見るね」
「そりゃあ、期待の新人バンドがデビューしたんだからな。テレビ局も黙っていねーんだろ」
古川たちのバンドはあのライブで、メジャーデビューを発表と共に観客を一番沸かせた。
出来レースとはいえ、そのイベントもテレビの映像として流した番組もあるらしい。
「成瀬のやつが悔しがってたぜ? 俺が映ってねーとか」
「ははは、古川君たちが中心だったからね。けど、ちょっとだけ僕らも映ってたみたいだよ」
「はっ! どうせ、他のバンドも頑張ってましたねーみたいな適当な紹介だったんだろうな」
どこの誰かは知らないが、勝手にカメラで映像を撮っていたのが俺は気に入らなかった。
他の出演したバンドになにも言わないようなイベントは、ただのクソッタレだ。
「ただ、見知らぬ人からの歓声をもらったのはよかったな」
「そうだね。知らないバンドだったのに、受け入れてもらえたのが嬉しいよね」
俺とシゲは、あの時のライブを思い出していた。すべての人でないにしろ、何人かに俺たちのライブが届いていた事実。
ライブハウスでしか味わえないものを、今でもはっきりと感じている。
「へえ、あの曲がそこそこウケたのねー」
思いふけっていると、上原とかなでが俺たちに近づいてくる。
「仙道君たちのライブ、私も見ればよかったな」
「なぬ! マジか、かなで! なら、おまえのためにライブを開催するぜ」
「いやいや晴君、そんなお金は僕らにないよー」
かなでの一言に反応してそう話す俺に、シゲは呆れながら答える。
「けど、上原さんがいたからギターフレーズも完成したし、曲もいいものになったね」
「ま、まあな……」
「あたしは大したことしてないわよ? あんたたちが考え抜いたから、いいフレーズになっただけでしょう」
シゲからそう言われても、上原は自分の手柄のような態度はせず、毅然とした表情で話す。
むしろ、俺たちの努力を讃えているようだった。
「でも、上原さんがいたからだよ? ありがとう」
シゲは上原に向かって、感謝しながら頭を下げている。
ーーそこまで、感謝する必要はねーだろ。おまえは律儀すぎるんだよ。
俺はそう思いながら、シゲの様子を黙って見ていた。
「ほら、晴君もきちんとお礼を言いなよ。まだ、ありがとうって言ってないでしょう?」
「はああああ? 俺がこいつにありがとうだって? 言うわけねーだろう」
「晴君……曲を完成できたのは、上原さんのおかげでもあるんだよ」
「はん! 上原が言ってただろう、ギターのフレーズは俺たちの努力だ。だから、礼を言う必要はねー!」
俺は嫌でもお礼を言わないと、そっぽを向く。その姿に、みんなは落胆している。
「別に、こいつからお礼を言われても嬉しくないわ。こういうやつだってわかってるからね」
上原はなにも期待していなかったのか、俺にではなくシゲに答えた。
「けど、あの古川がメジャーデビューか」
「そうだよね。わたし、テレビで知ったから驚いちゃったよ」
話は古川のメジャーデビューに変わる。上原とかなでも同じ中学だから、やつの悪評は知っている。
「二人は曲とか聴いた? たしか、メジャーデビュー曲のやつ」
「俺は聴かねー! テレビで流れたら、速攻で電源切るぜ」
「わたしもまだフルでは聴いてないかな?」
シゲの質問に、かなではそう答える。
「……上原さんは?」
「私は、一応聴いたよ。同年代のバンドがどんな感じかなって」
上原もバンドをやる人間だが、まさかあの野郎の曲を聴いていたことに驚く。ああいうタイプの人間は、上原は嫌いだろうからなおさら意外だった。
「どうだったよ? どうせ、しょうもないオシャレソングだったろ」
俺は聴いていないことを理由に、適当に話す。あの人気取りしかしないようなバンドの曲など、その程度だろう。
「まあ……曲の作りはやっぱりプロデュースされただけあって、悪くなかったかな。ただ……」
「ただ……なんだよ?」
「薄っぺらいのよね。響かないというか、曲を一回聴いたらもういいかなって思うレベル」
そう上原は、自分が曲を聴いた素直な感想を述べる。こいつがそう言うならば、それは間違いなくみんなが思うんだろう。
俺は上原のバンドに関する評価を、当てにするくらいだから。
「おまえが言うなら、なおさら聴かなくていいわな。あいつらのバンドを気にする必要ねーわ」
ーー薄っぺらい、響かないようなバンドか。
あんなバンドでも、世の中ではもてはやされていることに俺はなんとも言えない気分になる。
そういうのではなく、本物のライブストリームを起こすようなバンド。
俺はそんなバンドマンになりたい。
「おっ! いたか、俺様の登場だぜ」
しばらくみんなで話していると、成瀬が教室に入ってきて俺たちに声をかけてくる。
「んだよ……なにしに来たんだよ。おまえのクラスは隣だろうが」
「あ! 上原さーん、イベントに出た俺たちのライブ見た? 君のためにベースを弾いたんだぜぇ」
「……はあ、疲れるわね」
「おい! 無視してんじゃねーよ、こっち見て話せ!」
俺をまったく構うことなく、成瀬は即座に上原に声をかけやがる。おまけに、わかりやすい嘘までつく始末だ。
「うむ、俺もいるということを忘れては困るな」
「小野寺もかよ……おまえらはなにしに来たんだよ」
揃いも揃って、バンドのメンバーが全員教室に集まっている。
「あれ? 仙道、おめえは聞いてなかったのか?」
「あ? なにをだよ」
成瀬が俺に意外そうな顔で、そう話した。
「なんだろう、僕も知らないよ」
同じくシゲも成瀬の話を知らないようで、どうやら俺たちが知らない内容らしい。
「そうかーそうかー、しらねーのかー」
ニヤニヤした成瀬の顔が、妙にいらつく。
ーーもったいぶってないで、さっさと話せよ。
だんだん苛立ちが増す俺に、小野寺が答える。
「前に高村に町で会ってな、俺たちのバンドが巷で話題になったらしい」
「はあ? 話題って、なんかしたか?」
「おまえはバカだなあ、この前のイベントだよ」
「いや、そんな話題になるようなライブだったか?」
俺たちなりにはよくやったライブだが、そんな巷で騒がれてるとは思えなかった。
「他の出演したバンドから、すげえって言ってたんだと! ふっ、まあ俺様がいてこそだがな」
「うむ、高村だけでなく他のバンドマンにも影響を与えたということだ」
それが事実なら、すごい話だ。
他のバンドだって、実力派の中堅バンドが多かったはず。そんな人たちからそう言われるとは。
「しかもよ! 古川目当てだった人が、俺たちに乗り換えたって噂もあるらしいぜ!」
「へえ、じゃあ何人かは僕らのファンになってくれたのかな?」
「うむ! 俺たちもバンドマンとして、大成長している証だな。 悪くない気分だ」
浮かれたように話す成瀬たちは、上機嫌になっている。
「なに言ってんだ! そうなら、ますますバンド活動をやらなきゃいけねーだろう」
俺はそんなみんなに、勢いよく叫ぶ。
「いや……おまえ」
「晴君、顔がすごいニヤニヤしているよ」
叫んだはいいが実際、話を聞いてニヤついていた俺にシゲたちはそう指摘する。
「うるさい! とにかく、今日もバンド練習するぞ!」
巷で話題になっているなら、俺たちがやるべきことは一つだ。
さらに曲を作り、いいライブをやる。
俺たちの最強最高バンドは、これからが始まりだ。




