第53話「少しずつ変わる、ライブシーンは続く!」
オリジナルの一つであるBADBOY、GOODLOVEのイントロが鳴る。
開始からの歪んだギターサウンドが、アップテンポで響く。
ーーギュワァァァン! ジャカジャカ!
シゲが弾く左手は慣れたようにフレッドを押さえ、コードチェンジを繰り返す。
そこへ、成瀬が弾くベースの低音が合わさって噛み合う。ベースラインの流れるような音が、ギターと一緒に走る。
ーードンッ! ドンドン!
ドラムを叩く小野寺は、パワフルで正確。なにより、安定感があるリズムを叩き出していた。
さまざまなドラムセットを使いこなし、俺たちが弾く音を際立たていく。
ベース、ドラム、ギターの音が一体感となってステージから客席へと向けれた。
俺はみんなの音を耳で聴き、自分のパートを弾く。
シゲと同じようにギターのコードを弾きながら、マイクに唇を近づけた。
ーーさあ、いくぜ!
軽く息を吸った後、俺はマイクに向かって曲の歌を歌い出した。
この冷め切って退屈そうにしてやがる連中どもを、あっと言わせてやるような気持ちで歌う。
疾走感ある曲調に、俺が英語で歌うメロディが重なる。
もともと、かなでを想って考えた少し恥ずかしくなる歌詞。
だが、俺が伝えたい気持ちが詰まった歌を今は観客に対して歌っている。
ーーたとえ悪ガキでも、良い愛し方ができるんだぜ? という、意味を持った曲だ。
俺たちにしか弾けない曲で、紛れもないオリジナルソング。
それを今、ライブハウスで弾けるのは最高だ。
古川たちのバンドよりすげえライブをやってやる目的よりも、みんなで一つになって演奏するほうが気分が上がってくる。
俺はギターを弾き、歌いながらそう思った。ライブをやっている時は、自分たちの世界なのだ。
Aメロからサビへと変わったところで、次第に会場の雰囲気が微妙に違ってきたさことに気づく。
ほんのわずかな人だが、俺たちが演奏する曲に反応している。
リズムに揺れる体。曲のテンポに合わせて足を踏む。ステージから見ると、そんな姿を目にする。
ーーなんか、受け入れられてきていない? 僕らの曲。
シゲはそう言うような目線を俺に向けた。俺だけじゃなく、シゲも雰囲気が変わったことを感じているようだ。
ーーふっ、さすが俺様のベースプレイだな。それに反応したに違いないさ。
隣でベースを弾いていた成瀬は、俺に近づきながら、そんな風にベースを鳴らし続ける。
成瀬のおかげなど一ミリも思っていないが、間違いなく俺たちのバンドが弾く曲を意識していると思えてきた。
ーージャカジャカ! ジャララン!
俺の弾くギターの音色が、段々と陽気に上がっている。
まだ数名だが、俺たちのバンドが受け入れられたことに喜びを感じているからだ。
だが、曲をこれからさらに盛り上がらなければならない。
数名じゃあ足りない。この会場にいるやつらを全員、同じにしてやる。
そうさせるために、俺はギターの弾く手をアクションをつけて豪快に弾く。
それに合わせるように、声を張り上げて歌う。
ーー古川たちのバンドが好きなのはいいが、俺たちを見て聴け!
俺のそんな叫びを伝えるように、ひたすら歌い続ける。
曲はヒートアップしていき、ステージに立つ俺たちは今までにないくらい迫力を生み出していた。
すると、観客がいるほうから歓声が上がった。
この会場にいる人の何人かへ、俺たちの曲が届いている。
ファンでもない。初めて見るバンドの俺たちにも関わらず、誰かに曲の良さがたしかに響いているのだ。
少しずつ、ライブハウスであるような熱気が湧いてきている。
ーーこの雰囲気だよ、俺が欲しい最強のバンドに必要なのは。
俺たちは互いに目を合わせて、それを実感する。ステージから爆音で曲が流れ続けた。
曲はBメロへと変わり、サビに向かう。その後は、ギターソロが待っている。
シゲがギターソロを担当するのだが、俺はなにも心配はいなかった。
横でギターを弾くシゲの姿は堂々としていて、初めの頃みたいなぎこちなさはない。
ーーさあ、そろそろだぞシゲ。おまえが奏でるソロを見せてやれ!
サビが終わり、ギターソロが始まる。
俺はマイクから少し離れ、ギターのリフに集中する。
ギターのボリュームトーンのノブを回して、素早く調整した。
ーーキュイィィン! ギュワンァァン!
シゲは左指をフレットの下まで持っていき、チョーキングをしては素早くソロを奏でる。
なめらかな指の動きがギターの弦を揺らし、一音一音しっかりと鳴らす。
俺や成瀬はその音に合わせてるように、ソロを目立たせるために弾く。
イカしたギターソロがスピーカーから鳴り出すと、観客はわっと騒ぎ始める。
ーーどうだ、シゲの弾くギターソロはクソかっこいいだろう?
会場に響き渡る音を聴く観客に、俺はそうニヤリと笑う。
ステージに立った頃のような冷めた雰囲気は、なくなりつつある。
曲ももうじき終わり、ラストの曲が残っていた。
このライブでやるのが、初になるであろう二つ目のオリジナルソング。
BADBOY、GOODLOVEよりも、さらにかっこいい曲。
ーージャァァン! ジャンジャンジャカ、ジャァァン!
曲のエンドロールが鳴った。
最初から全力で弾いているためか、俺は息を切らしながら額に汗をかいている。
「えー、次の曲がラストです。この曲をやるのは、今日が始めてで……」
呼吸が荒いせいか、俺ははあはあと言いながら曲を紹介する。
観客がいるほうを向きながら話す俺は、辺り全体を見渡した。
俺たちのバンドを見て興味を持った人と、いまだに無反応の人と半々。
まだ、俺たちのステージは終わらない。
残りの無反応なやつらを、この曲で変えてみせる。呼吸を整えて伝えようとしていた。
「この曲がライブでどんな風になるか、俺たちにもわからない……けど!」
俺は力強い声で話すと、成瀬たちは楽器を構え直す。
そして、俺は言葉を続ける。
「今日、ここにいる人たちにとって特別なライブだったと、思わせてるぜ!」
叫び終わった後、小野寺のドラムが再び鳴り始めた。それは、これから演奏する曲のドラム。
それを聴いた俺は、ピックを握る手に力を入れて弦をはじく。そして、マイクに向かって叫んだ。
「ラストいくぜえぇ! 新曲のアンビシャス、マンズ!」
曲のタイトルを叫び、俺たちのライブが再開する。
待望の新曲を弾く、最高の時間が始まった。




