第52話「しらけらライブだな!だが、これからよ」
セットチェンジが終わり、ついに俺たちのライブが始まる。
俺たちは、それぞれの弾く位置へと立つ。
ーーふう、大丈夫だ。俺たちならやれる。
深く深呼吸をした後、俺はマイクスタンドの前で真っ直ぐ視線を向けた。
そこには、静まり返っていた観客の姿が見える。
仮にも複数のバンドがライブをやったはずなのに、熱気もなければライブハウス特有の空気感もない。
「なんだ……この感じは」
俺は思わず、そう口にしてしまう。
バンドがステージに現れたのに、拍手もない。ただ、冷たい視線だけがステージに向けられている。
「これ、あきらかに僕らのライブが目的じゃないよね?」
「うむ……まるで、修羅の国にいるようだな」
シゲたちも、この異様な雰囲気に困惑しながら横で話している。
こんな状況の中で、俺たちはこれからライブをやらなければならない。
ーー最初に出たバンドや、高村たちもこんな中でやったのかよ。
観客の静けさから、きっと演奏中もこんな冷めきった場で演奏したのだろう。
高村が去り際に見せた、屈辱的な顔の意味がわかった。
「こいつらは古川のバンドが目当てで、他のバンドなんざ興味ないんだよ」
ベースを背負って、腰に手を立てながら成瀬はそう苛立ちながら話す。と思いきや、成瀬が自分の前に置かれているマイクに向かって叫び出した。
「ハーイ、ベイビー! 今日のイベントに出るベーシストで一番のイケメン、成瀬省吾さあー!」
ばさっと髪の毛をなびかせて、格好つけ始める。
ーーざわざわ。
静まりかえっていた観客が、別の意味でざわつく。成瀬のナルシストっぶりに、俺たちも含む全員が引いている。
「あれ? みんな、俺の美しい顔でも見て言葉が出ていないのかな? ふっ、さすが俺様だな」
「ばか言ってんじゃねーよ! どうみても、気持ち悪がってんのがわからねーのか!」
今からライブを始まるのに、俺は大声を上げて成瀬に怒鳴る。
その声がマイクに拾われ、会場に響き渡った。
「あっ……おほん! 俺たちは、ロッケンローラースターズ! 目指すのは、最強最高のロックバンドだ!」
俺はなにごともなかったように、自分たちのバンドについて話す。
自己紹介をしたところで、場の雰囲気が変わるわけがなく、さらに状況が悪化したみたいだ。
「ははは……晴君、もうなにをしてもダメだよ。それより、ライブを始めよう」
シゲは呆れながら話す。まさにその通りで、このしらけた中でライブをやるしかない。
ーー俺たちのライブで、その冷めた空気を変えてやる。
俺はギターを構え、全員に合図を送る。
そして、一曲目であるカバーソングを弾き始める。
様々なカラーの照明がステージにいる俺たちへと当たり、それに合わせるようにギターの弦をはじく。
俺の弾くギターの音に、みんなの出す音が重なる。
ステージに置かれた大きなアンプから、爆音が鳴り響く。その衝撃が強く、心臓に波打つくらいだ。
そして、バンドで鳴らす音に俺はマイクに向かって歌い出した。
初めはカバーソングであるが、これもすべて英語の歌詞。それでも、歌のメロディに合わせて俺は歌う。
ーーイントロのギターもミスはない。歌も、今のところ音程は外れてないな。
俺は曲を演奏して、そう自信を持つ。
最初から気合いが入った演奏に、観客も揺れ動くはず。
だが、現実は甘くなかった。
観客の冷ややかな目や、曲を聴いても退屈そうな姿が見える。
目当てのバンドじゃないだけで、まさかここまでとは俺も思っていなかった。
ーーくそが……少しは、俺たちのライブに関心を持ちやがれ。
ギターを弾きながら歌う俺は、目の前にいる観客を見ながら演奏を続ける。
しかし、こんな状況の中でもみんなは動揺することなく、曲を弾いている。
普通ならば、弾いてこんな雰囲気を見たら集中が切れてしまう。けれど、シゲや成瀬。そして、小野寺は自分の演奏に全力を出している。
ーーそうだな、まだ一曲目だ。それに、俺たちのオリジナルもあるんだ。
みんなはそれをわかっているから、余裕を持って弾いているのだろう。
俺は気持ちを切り替えて、カバーソングを歌い弾いていく。
一曲目が終わり、次の曲に入るまで少し時間がある。その間に、足元にあるエフェクターを足で切り替えてた。
ーーカチッ、カチッ!
同じくセッティングを切り替えていた成瀬が、話しかけてくる。
「やっぱ、カバーはウケが悪かったんじゃねーか?」
「いや……選曲はいいんだよ。今回のライブを観にきた観客が難ありなんだ」
「まあな、俺様も最初はビビったぜ」
ーーカチッ、カチカチ!
「でも、まだライブは始まったばかりだよ?」
ギターのチューニングをし直すシゲも、話に加わってそう話す。
「だな! 次は初めに作ったオリジナルだ、まずはこいつで流れを変えてやる」
俺はすべてのセッティングを直した後、みんなに向かって言う。
「小野寺君はドラムの後ろで、なんか念仏を唱えていたよ」
「あいつ……家は神社だろうに」
クスッと笑う俺たちは、再び楽器を構え直す。
もう、次の曲を演奏する時間だ。
会場は、いまだに冷めたまま。それを、今から俺たちが変えてみせる。
ーー俺たちにだって、バンドの底力ってやつを見せてやるぜ!
俺はギターのネックに指を下げて、高い音を鳴らし始める。イントロのフレーズが、初めに鳴った。
それを合図に、小野寺のドラムが力強く叩き出す。
「次の曲……いくぜ! 曲はBADBOY、GOODLOVE!」
マイクに向かって曲名を叫んだ後、俺たちが一斉に演奏し出した。
疾走感ある、荒々しいロックサウンド。
歪むギターの音色に、重く低いベース音。
そして、迫力があるドラムのリズムが響かせる。
完璧なまでの、俺たちが生むオリジナルソング。
その時、俺はかすかに感じ取る。
会場にいる観客の何人かが、ぴくりと反応したのを。
ーー俺たちが作り出す、最高のライブ。
今、改めて始まろうとしている。




