第50話「決意の出陣! 俺たちは打ち勝つ!」
俺たちは、無言のまま楽屋へと戻る。古川に対しての苛立ちや、闘争心を燃やしながら。
「成瀬! リハが始まる前まで、楽屋で曲を練習すんぞ! ……っていない」
楽屋の中にいるはずの、成瀬がいなくなっていた。
「どこに行ったんだろう? まだ、リハーサルの時間になっていないよね」
「うむ。となると……トイレか?」
「あの野郎……肝心な時にいやがらねーな!」
今回のライブで、古川たちのバンドを超える演奏にしなければならない。
成瀬にも先ほどのことを伝えようと、やつが帰ってくるのを待つことにした。
ーー二十分後。
「どこいってんだよ! いくらなんでも、遅すぎるだろ!」
「晴君……イライラしないで、落ち着こうよ」
かなり、時間が過ぎているのに楽屋に戻ってこない成瀬に段々と腹が立ってくる。
暴れそうな俺を、シゲはそう言葉でなだめた。
「いやあ! まいったまいった、ライブハウスのスタッフに女がたくさんいるとは」
すると、成瀬がご満悦な顔をしながら楽屋へと入ってくる。
「成瀬、どこへ行っていたのだ?」
「え? ああ、ナンパよナンパ! 可愛い子がいてさ、つい声をかけちゃって。いやあ、それよりよ……」
小野寺に話しかけている成瀬に向かって、俺は飛び出す。
「こらあああ! この、バンドの風紀を乱すクソファッキン野郎が」
「うおっ! いきなり、でかい声を出すんじゃねーよ」
背後から叫ぶ俺の声に驚いた成瀬は、思わず小野寺の後ろに隠れる。
こいつには、毎度毎度呆れてしまうが、ひとまず先ほどのことを話す。
「なるほどな、それは許せねーぜ! バンドを人気になるための道具にするやつは!」
「いや……おめえが言うと、説得力がねーから」
成瀬だってベクトルは違えど、古川と似たようなものだ。
しかし、音楽に対する情熱やこだわりは成瀬のほうが本物だ。
少なくとも、人気取りのためだけに俺たちはバンドを組んではいない。
「だが、その古川ってやつは音楽的なセンスがカリスマなのだろう?」
「ああ。どんな楽器でもすぐモノにできるし、人を惹きつける魅力もあるやつだ」
「まさしく……天才的な人だと思うよ」
世の中には苦労もせず、いろんなことを完璧にできる人がいる。
シゲが言うように、古川もその一人だ。
間違いなく、天才の部類。
「チートじゃねーかよ! そんなやつのバンドより、すげえライブができんのか? 俺たちはよ」
敵は実力や実績もある、格上のバンド。
新人バンドに近い俺たちにとっては、雲の上の存在とも言える。
「俺たちの熱いロック魂で奴らを負かしてやるんだよ!」
絶対的に勝てる要素は、今のところはない。それでも、俺はバンドの力ってやつを信じている。
最強のバンドとして、最高のライブをやるのは俺たちだ。
「よくもまあ……恥ずかしげもなく、ロック魂とか言えるな。だが、やろうじゃないか」
「うむ! 皆が力を信じれば、奇跡も起きよう!」
俺の言葉に、成瀬と小野寺はそう話す。特に成瀬から、そんなことを口にするに感心する。
「まあ、その古川だっけ? そいつのバンドのベーシストがすごかろうが、俺様のベースがナンバーワンよ!」
ーーったく、こいつはすぐに調子に乗りやがるな。
高笑いをする成瀬を見ながらそう思うが、俺の中では成瀬のベースが本当にナンバーワンと信じていた。
成瀬だけじゃない。みんなは、俺がバンドを組みたいと思ったやつらばかり。
ーー最高のバンドマンたちだ。
「ところで、さっき成瀬君が言いかけたことってなんだったの?」
シゲはふと、成瀬に尋ねる。
「ん? ああ、そうだった。さっき、スタッフの女の子から聞いたんだけどよ……」
尋ねられた成瀬は、思い出したように話し始めた。その内容はこの場にいる全員が驚き、俺は怒りを露わにする。
ーー古川のバンドがメジャーデビュー。今回のライブは、そのための話題作りのために模様されるイベント。
「んだそりゃあ! そんな、ふざけたイベントがあんのか!」
あまりにも理不尽なことに、俺の叫び声が楽屋に響く。
「俺様にキレるなよ。他に出るバンドには、内緒にするんだとさ」
「ふむ……つまりは、ヤラセみたいなものか」
成瀬の話から、表向きでは普通のライブイベント。しかし、実際は古川バンドのために企画されたもの。
俺たちや高村率いる中堅バンドを集めさせた理由は、引き立て役にするためだった。
「そもそも、このイベントを考えたのがやつらが所属する音楽事務所らしいからな」
「俺たちに声をかけた、ブッキングマネージャーもグルか! 道理で、話がうますぎだったんだ!」
メジャーデビューするバンドは、音楽業界と繋がりがあると聞いたことがあるが、ここまですることに腹が立ってくる。
「去り際に古川君が言ってたのは、このことだったんだね」
シゲが言うように、古川はすべて知っていたからあんなに余裕のある態度をしていた。
それがますます、俺の怒りが増す。
「となると……どう頑張っても、やつらを超えるライブをやっても無意味じゃないか?」
小野寺がそう口にすると、みんなは黙る。たしかに、相手がメジャーデビューするバンドで音楽事務所もバックに存在している。
そんなイベントで、古川たちよりすごいライブをやっても意味はないのかもしれない。
だが、俺はそれでもすごいライブをやってやるという想いがある。
「そんなものは関係ねー! さっきの、やる気を奮い立たせろ!」
たとえ出来レースでも、引き立て役だったとしても俺たちがライブをやることには変わりはない。
ならば、やるからには俺たちのバンドの凄さを思い知らせるだけでも構わない。
「今回のライブで、でかい風穴を開けてやるんだ!」
そう、ライブを見に来た客が古川たち目当てであるならば、なおさらだ。
やつらの他にも、最強のバンドがいることをわからせてやる。
俺はそう思いながら、みんなに話す。
ーーガチャ。
「すみませーん! ロッケンローラースターズさん? そろそろリハの時間でーす」
楽屋の扉を開け、スタッフがそう伝える。
リハが終われば、いよいよライブが始まる。
「……うむ。では、リハに参ろうか」
「そうだね、機材を持って行こう」
シゲと小野寺は椅子から立ち上がると、楽屋の外へ向かう。
「しゃーねーな! いっちょ、バシッと決めるか」
成瀬も自分のベースケースを持って、歩いていく。
「おいおい! 俺の話を聞いてたのかよ、やるからには……」
そう出て行くみんなに言うと、全員が振り返った。
そして、成瀬が俺に向かって口を開く。
「全力でやんだろ? いいじゃねーか、風穴……開けてやろうぜ」
成瀬の言葉に、シゲたちはうなずく。
その時、俺は気がつく。みんなも、俺と同じ気持ちでいることを。
「ちっ! かっこつけやがって……ああ、最高のライブをやってやろうぜ!」
俺はギターを手に、みんなに続く。
どんな理不尽なイベントでも、俺たちのバンドは立ち向かう。
俺のバンドは、最強。そして、最高のライブをやるのだから。




