第48話「俺とライブハウスとあいつ」
俺たちがライブをやる会場。ライブハウスに到着した。
地元にあるような小さなライブハウスでなく、その建物はかなり大きい。
「すげえな……何人くらいが入れるんだ」
その圧倒的なライブハウスに、俺は驚きながら話す。
「いかにも、メジャーバンドがライブをやるような施設だね」
「うむ、こんなところで演奏ができるのが不思議なくらいだな」
同じくライブハウスを目にして、シゲたちもそう口にしている。
「とりあえず……入るか」
いつまでも眺めているわけにはいかないし、俺たちは会場の中に入ることにした。
ライブハウスの中に入ると、いきなりスタッフと思われる人に出くわす。
「お疲れ様でーす。ライブの出演者さんですか?」
「え? ああ、そうっす。名前は……」
そう尋ねられた俺は、自分らのバンド名を告げる。
「でしたらー、楽屋のほうに入っていただいてー」
「は、はあ……了解っす」
やたら軽いノリみたいに説明を受け、俺たちはひとまず楽屋へと向かうことになった。
「なんか、これまでと違うような対応だね」
「うむ。だが、とりあえずはスムーズに入れたのだからよしとしよう」
「ていうかよ! あのスタッフ、可愛かったなあ。連絡交換しておけばよかったぜ」
楽屋に入って、それぞれが感じたことをペラペラと話し始める。
ライブスタートまではまだ時間があるし、リハまでは楽屋で待機だ。
「高村とか、他のバンドの姿が見えなかったな。もう、別の楽屋にいるのか?」
「多分そうじゃないかな? どうしよう、挨拶に行ったほうがいいかな?」
今日のスケジュールが書かれた紙には、俺たちの他に数組のバンドが参加する。
高村たちのバンドはある程度知っているが、それ以外のバンドは初見だ。
シゲが言うように、どんなバンドが出るか知るために挨拶に行くのもアリだろう。
「俺様はパス! どうせ、野郎しかいないバンドだろ? 女の子がいないなら、行く理由がないぜ」
成瀬はそう言うと、楽屋に置かれた椅子にダラリと座り込む。
「てめえなあ……一応、バンドマンなんだから、それくらいはやれよ」
「はいはいー、パース」
「ははは……晴君、僕らだけでも言ってくる?」
シゲは呆れながら、俺にそう尋ねる。
「そうだな。仮にも今日のライブを一緒にやるんだし、挨拶しに行くか!」
「おお、仙道がまともな対応をするのは初めてだな!」
「小野寺……おまえは、俺をなんだと思ってやがんだ」
小野寺が感心するような口ぶりに、俺が話していると、楽屋のドアを叩く音が聞こえた。
「よう、邪魔するぞ! おっ、全員揃っているな」
中に入ってきたのは、高村だった。
「高村さん! やっぱり、もうライブハウスにいたんですね」
「ああ、今日のライブは気合いが入るからな。早めに、楽屋入りしたんだよ」
駆け寄ったシゲに、高村はそう話すと俺に目線を向ける。
「おう、仙道。どうだ? おまえの最強最高バンドは順調か?」
「ふん! 順調に決まってんだろう! 今日のライブでは、俺たちが一番いいライブをやってやるぜ」
高村に尋ねられた俺は、そう自信を持って答えた。
俺たちのバンドは以前よりも、グッと成長している。だから、今日のイベントにだって出れたのだ。
それに、俺たちにはオリジナルの曲がある。
「そうか、それは楽しみだな! だが、俺のバンドもすごいもいるからな。覚悟しておけよ」
俺の言葉を聞いた高村は、期待通りの答えを聞いたかのように満足すると、続けてそう話した。
高村たちのバンド以外に、実力派のバンドがまだいる。
そのことに息を呑むが、俺はどんなバンドたちなのか楽しみになってきた。
「と、まあ挨拶はここまでだ。お互いに、いいライブをやろう」
高村は最後にそう話すと、楽屋を去っていく。
「すごいバンドかあ。高村さんたちですら中堅バンドなのに、それよりも上がいるってこと?」
「うむ……となれば、生半可な曲では太刀打ちできぬのかもしれないな」
高村がいなくなった後、シゲたちは神妙な顔をしながら話し始めた。
俺とは違い、みんなは未知なるバンドに不安になっているように見える。
「ふっ、俺様のベースに任せれば問題ない。すべて観に来る女は俺のものよ!」
「成瀬君は……前向きだねえ」
「やつの思考は、女か自分のベースしかねえんだろう。ほっとけ」
しかし、成瀬ほどのポジティブさがシゲたちにもあれば、メンタル面はいいのだけれど。
とりあえず、豪快に笑っている成瀬など気にせずに俺は楽屋のドアへと歩き出す。
「ほら、高村が楽屋に挨拶に来たなら俺たちも同じように、挨拶回りに行こうぜ」
高村が言う強者のバンドの面を拝む意味で、俺はシゲたちにそう話した。
「そうだね、行こうか」
「うむ! 俺たちの顔を覚えてもらおう」
シゲと小野寺は俺に続き、楽屋の外へと向かう。
結局、成瀬は楽屋から出ることはなく、三人で各楽屋を訪れることになった。
意外に楽屋は近く、俺たちは一つずつドアを開けて、挨拶をしていく。
中に入って話すと、他のバンドは気さくな人が多く、とても話しやすかった。
そして、最後の楽屋に足を運ぶ。
「……ブラッドムーンチャイルド」
楽屋のドアに書かれたバンド名に、俺は身に覚えがあった。
「どうしたの? 早く、挨拶しに行こうよ」
「そうだぞ、後はここのバンドに挨拶をするだけだろう? なぜ、立ち止まる」
不思議そうにシゲたちは話すが、俺は楽屋の前で止まった。
ーー高村が言っていた、やつよりもすごいバンドってこれか。
もしそうならば、たしかにすごいバンドに違いない。
なにせ、ブラッドムーンチャイルドはインディーズバンドの中で、有名なバンドだ。
初ライブで観客を一瞬にして魅了させ、次のイベントからはチケットがすべてソウルドアウト。
俺ですら、その名前を知っているくらい圧倒的な知名度を誇るロックバンド。
まさに完全無欠の最強バンドと言っていいだろう。
俺が目指す最強最高バンドの理想が、ブラッドムーンチャイルドだった。
ーーたしか、バンドのメンバーって。
「ささ! 挨拶だ、俺たちのバンドを知ってもらおうぞ」
思いふけっていると、小野寺が俺より先にドアノブを回す。
「あっ! 待て、小野寺」
俺の声を聞かず、小野寺とシゲは中に入っていった。
「今日、一緒にやらせてもらうロッケンローラースターズというバンドだ。よろしくお願いするぞ」
慌てて俺も中に入ると、小野寺はそう俺たちのバンド名を告げて挨拶をする。
中に入った瞬間、俺はとてつもなく緊張した。
先ほど、高村に言った一番いいライブをやってやるという言葉に自信がなくなるほど。
「ああ、ブッキングマネージャーから聞いたよ。ロッケンローラースターズか……」
そう答える声は、とても爽やかだった。
そして、俺はその声に聞き覚えがあった。
「そうか、おまえのバンドだったか。なあ、晴樹」
入って来た俺に、そいつはそう尋ねる。
「……古川照彦」
まさか、こいつがブラッドムーンチャイルドのメンバーにいるとは思わなかった。
なぜなら、古川は俺と同じ高校生。
昔、一緒にバンドをやろうと考えていた、俺が認める最高のギターボーカル。
かつての友だった。




