第47話「準備万全!いくぜライブイベント!」
新曲の練習を重ね、なんとかライブでできるまでに仕上がった。
俺が歌うネイティブな発音はダメ出しを食らい、普通の歌い方でやることになっている。
「いや! せめて、ここだけはネイティブっぽく歌わせてくれ!」
「うーん、僕は普通に歌う感じがいいと思うけれど」
「あきらめろや、仙道。おめえの歌い方は、ダサいってみんなが言ってんだからよ」
ライブイベントに向けて、最終調整に入ったこの日。俺はシゲたちに、俺がやりたい歌い方にしてほしいと話していた。
俺がそうお願いしても、シゲや成瀬は反対で許可してくれていない。
「せっかくオケが良いものに変わったのに、てめえの歌で台無しにする気か!」
「台無しにはならねーだろ! 外国人っぽく歌えば、かっこよくなるんだしよ!」
英語の歌詞なのだから、そのお国の人らしく歌ったほうがいいに決まっている。
そう主張するが、成瀬は小馬鹿にしたような口調で言い返す。
しばらく言い争うと、一人黙っていた小野寺が口を開く。
「かーつ! 言い争っていても、時間の無駄であろう! 練習をする時間がなくなるではないか」
あまりにもでかい声に、俺と成瀬は驚く。
「歌に関しては、俺にはわからん。だが、ライブでやるのだから観客が聴いてどう思うかが大切であろう」
たしかに、小野寺が言うことももっともなことだ。曲を聴く人がどう思うかが、大切なことであった。
「悪かったよ、俺も意固地になってたわ」
俺はそうみんなに謝り、深呼吸をする。
歌い方はシゲが言うように、最初に歌っていたほうで納得しよう。
気持ちを切り替えて、マイクスタンドの前に立った。
「よし、とにかく曲をやるぞ。ライブまでに完璧にしなきゃだ」
ギターを持ち、俺がみんなに話すとそれぞれ楽器を持って立ち位置へと向かう。
すると、シゲは俺のほうへ近づいて話しかけてくる。
「晴君、サビのところは……」
シゲの言葉を聞いた俺は少し驚きながらも、うなずく。
ギターを構えて、新曲の練習が始まる。
みんなが一斉に楽器を鳴らし、俺はマイクに向かって歌う。貸しスタジオに爆音が響き渡った。
「……ふう」
曲を何回か繰り返して弾き終わった後、俺は額にかいた汗を腕で拭う。
難しいと思っていたギターソロも、悪くない。成瀬や小野寺とも、音がきちんと合わさっているなと思う手答えだ。
「おいおい、なんだ……こりゃあ」
すると、成瀬が複雑な顔をしながら話す。
「あ? なにがだよ、演奏はよかっただろう。ミスもないし、グルーヴ感も出せてたじゃねーか」
だいたい曲の演奏に難癖をつけるのは、成瀬だ。
今の練習でも、なにかしら言いがかりをつけるに違いないと、俺は不機嫌そうに言葉を返した。
「いや、曲はいいんだよ。ベースを弾いた俺様も、にやつくくらいだからな。ただ……」
「ただ……なんだよ」
成瀬はじっと俺のほうを見るながら、指を指す。
「なんだおまえの歌は! サビのところを、変な感じに歌いやがって。あれじゃあ、さっきやった歌い方と同じじゃねーかよ!」
どうやら、成瀬は俺の歌い方に感づいたらしい。
ベースに酔いしれているかと思っていたが、ちゃっかりボーカルを聴いていた。
「ごめんね、成瀬君。晴君がかわいそうで、僕がサビのところを歌わせてあげたんだ」
「有本、おまえはこいつに甘すぎだろうが! もっと、曲の完成度を考えろ!」
演奏する時に、シゲが話しかけてきた内容はサビのところの一部を、俺が歌いたいようにしていいと言うことだった。
つまり、俺が言うネイティブな発言での歌い方だ。
実際に一部分だけを変えて歌ってみたのだが、俺的には意外に合うなと思っている。発言による音程が、妙にオケと合っていて悪くない。
「そこは、俺もコーラスで入るんだからよ! 変になんだろうが」
そう成瀬が叫ぶが、俺やシゲ、小野寺は黙っている。
「そこまで言うほど、ひどいものだったか?」
「うーん……僕は、聴いててこれはこれでアリかなあって」
二人は俺の歌を聴いて、そんな風に感想を述べる。
「だよな! まさに洋楽みたいな、カッコよさを表してるぜ!」
「かっこよくねえよ! なんなんだ、こいつらの音楽センスは」
俺たちの言葉に納得がいかない成瀬は、頭を抱えながらなおも叫ぶ。
「とりあえず、ライブの時はこれでやってみようぜ! 観客の反応がどうか見てみたいしよ」
「うむ! 観客のことを考えて歌うのは仙道だからな、そこは任せようではないか」
もはや、ボーカルの歌うパターンはそれでいく雰囲気に包まれる。
「くああああ! またしても、仙道の思いつきで俺様のバンドがああ!」
ただ、成瀬だけの悲痛な雄叫びがスタジオに響き渡るだけだった。
ーーいよいよ、始まるライブ本番。
ついにライブ当日になり、俺たちは会場であるライブハウスへと向かう。
「やっぱり、ライブ当日って緊張するね」
電車の中で、シゲはオロオロしながら話している。
「うむ、今回は名のあるバンドが多数なんだろう?」
「ああ、高村率いるバンドだけでなく、かなりのライブをこなしてきた強者バンドばかりらしい」
イベントサイトをスマホで見ながら、俺は答える。
観に来る観客も、おそらく固定ファンが多いだろう。その中で、俺たちのバンドもやるということは、まさにアウェー。
最悪の場合、誰からも相手にされないパターンもある。しかし、俺は臆することなく話す。
「やるからには、俺たちのバンドの実物を見せつけて、ファンをかっさらうくらいの気持ちでライブをやるぞ!」
「うむ、そうだな!」
ライブをやるからには、俺たちの全力を出すしかない。
「はああああー、やる気出ねえ」
そんな俺たちに、窓の外を見ながら成瀬は大きなため息をついて、ぼそっとそう吐く。
ーーこいつ、まだ根に持ってんのかよ。
この前にやった最後の練習のことが、まだ腑に落ちないみたいだ。
「おい、成瀬。もう決まったんだから、諦めて全力でベースを弾け!」
そう声をかけるが、成瀬はまだふてくされている。
こんな状態をライブ本番でやられたら、バンドとしてまずい。なんとかこいつのやる気を上げようにも、どう言えばいいのだろうか。
すると、シゲが気を利かせて成瀬に話しかける。
「ほっ、ほら! 今日のライブって、きっと女の子もたくさん来ると思うよ? 成瀬君はかっこいいから、みんな虜になるかも」
そう自信なさげにシゲが話すと、成瀬はピクリと反応する。
「そうだな! 俺様のベースを弾く姿を見れば、曲より好印象に違いない!」
さっさとは違い、成瀬は上機嫌に自惚れる。
ーーこいつが、単純ナルシストバカで助かるわ。
浮かれる成瀬を見ながら、俺は安堵する。
少しずつ近づいていく、ライブ会場。
俺たちのバンドの実力。そして、新しい曲を演奏する時が来たのだった。




