第46話「生まれ変わった新曲だ!歌は俺に任せろ」
新しいギターフレーズを加え、この日はバンド全体で合わせることになった。
事前に、成瀬たちにはバンドの練習とだけ伝えてある。
「あー、早く学校が終わらないかなあ」
六限目の授業が始まって、まだ数分。俺は教室の時計を見ながら、そう口にする。
こんな日に限って、英語の授業なのが辛いところだ。
「この単語のアクセントは、舌を上の歯の裏につけて発音するのであってー」
先生は黒板に英語の問題を書き、ベラベラと流暢に話す。
退屈そうに聞く俺は、ふと教科書に目をやる。
ーーへえ、この英語ってシゲが作った曲に使われてるじゃん。
新しいオリジナル曲の歌詞は、すべて英語であるのだが、たまたま見つけた単語は、歌詞にも書かれているのと同じだった。
「RとLの発音が間違いやすいのと同じでー、気をつけないとであって」
先生はそう話しながら、気をつけるポイントを説明している。
「なるほどな……たしかに、歌ってると発音とか考えてなかった」
海外のアーティストが歌うのと、日本人が歌うものではまったく違って聞こえる。
たまに英語で歌ってみても、外国人のような英語にはならない。
「ふむふむ、発音か」
俺は先生の話を聞きながら、曲の歌詞が書かれた紙を机の中から取り出す。
びっしりと書かれた英語の歌詞を見ながら、一つ一つの単語をチェックしていく。
「ライト、ルァイトゥ……」
発音が似ているような箇所を見つけると、無意識に口にする。
「仙道……わけわからん英語を話さす、授業に集中しなさい」
「イェェース! ミスチュアーテーチャー」
「おまえ、後で居残りだな」
「ヌオォー! マイ、ガー!」
先生に注意された俺がそう叫ぶと、教室から笑い声が上がった。
放課後になり、バンド練習をやるというのに、俺は居残りをさせられるはめになった。
「ちくしょう! すっかり、遅くなっちまった」
約束していた時間をだいぶ過ぎて、俺は急いで学校を後にする。
貸しスタジオに着くと、みんなはすでに曲を練習していた。
「わりい、わりい。居残りさせられててよー」
「ったく……なにしてんだ、おめえはよう」
「居残り勉強とは、勉学に励んでいる証拠だな」
呆れながら話す成瀬や、なぜか感心している小野寺は演奏するのをやめ、俺を見ながらそう口にする。
「晴君、英語の授業でいきなり変な英語を話していたんだよ」
「マジか? おまえ、頭は大丈夫かよ」
「黙ってろ、成瀬! 俺は普通だし! というか、おまえら……俺を待たずに弾いてやがったな?」
スタジオのドアを開けた時、新しいオリジナルのオケが聞こえていた。
シゲはさっそく新しいフレーズを弾いたように見える。
「ああ、有本が作ったフレーズはすげえな
! 前よりイカした感じに仕上がってるじゃねーか」
「ああ。俺もドラムを叩いて、その良さを感じたぞ」
先にギターフレーズを聴いたのか、成瀬たちは気に入ったように話す。
ーーったく、俺がガツンと弾いて驚かせるつもりだったのによー。
実際に成瀬たちに聴かせて、ビビらせる計画が台無しだ。
「上原さんが、基礎のフレーズを考えてくれたんだってな? ああ、やっぱり彼女はいい女だなあ」
「やつは関係ない! これは俺たちが考えたんだよ、このすげえギターパートは」
「はいはい。どうせおまえは、丸パクリするよう有本に言ったんだろ?」
「成瀬……この野郎、ぶっ飛ばすぞ!」
俺の苦労を知らないで、好き勝手に言う成瀬に飛びかかろうとする。
「それより仙道も合流したのだから、改めてみんなで演奏してみようではないか」
「そうだね。レンタル時間も残り少ないし、合わせてやろう」
時計を見ると、予約が終わる時間が迫っていた。時間的に、一、二回くらいしかできない。
俺はすぐにギターを取り出して、アンプへとセットする。
「よーし! それじゃあ、弾こうぜ!」
ピックを手に持ち、みんなにそう声をかけた。
俺抜きで先に弾いていたが、どんな感じの曲になるか楽しみでもあった。
シゲたちもそれぞれ楽器を構えて、いつでも演奏できる体勢になる。
「ワン! ツー。ワン、ツー、スリー!」
小野寺のカウントが始まり、曲が始まった。
ーーおお、前より曲の質が変わってる。
ドラムの叩く迫力は増しており、よりリズミカルでパワフル。
ベースもイントロから流れるラインが、より強調されて聴いていて気持ちがいい。
成瀬や小野寺も、曲をさらに良くしようとする努力が垣間みえた。
シゲが弾くギターの音色と、俺が弾くギターを合わせる。
二人が鳴らす音に、この新しくなったギターフレーズを重ねると、凄まじい曲へとなった。
ーーイントロからやばいな。
みんなで合わせて最初に感じたのが、その一言だった。
今までいろいろな曲を弾いてきたけれど、この曲がダントツでかっこいいかもしれない。プロが作る楽曲に、対抗できるんじゃないかと思えるくらいだ。
ーー問題は、俺が歌って違和感があるかだな。
どんなにいいオケでも、ボーカルが良くなければ曲が台無しになる。
俺は自分の歌に、自信はまだない。
しかし、みんなで最高の曲に仕上げたのだから、ここで崩すわけにはいかない。
マイクスタンドに近づき、俺はギターを弾きながら歌う準備をする。
歌の歌詞は、頭の中に叩き込んである。
オケの雰囲気に合わせて歌うことは、すでにイメージしていた。
ーーまてよ? 英語の授業で言っていた、発音をきちんとネイティブっぽく歌ってみるか?
もしかしたら、発音をきちんとすればさらに曲のクオリティが上がるのではと考える。
歌い出しは目の前だ。俺は先生の言ったことに重点を置き、歌ってみることにした。
ーーいくぜ! 外国のアーティストっぽく歌ってやる。
イントロが終わり、Aメロへと変わる。その瞬間、俺は腹から声を出して歌い出す。
みんなは歌を聴くと、一斉に俺に顔を向ける。
ーージャアァァン! ジャカ……。
まだ歌い出したばかりなのに、演奏が止まる。
「おいおい! なんで、演奏を途中で止めるんだ! これからだってのに」
ピタリと音が止まって、俺はそう叫ぶ。
すると、シゲが俺に口を開いた。
「晴君、その歌い方は……ちょっとダメだよ」
シゲの言葉に、成瀬たちはうなずく。
「……え? いや、英語の発音をそれっぽくにだなあ」
そう俺が言い返すも、シゲは首を横に振るう。
まさかの、作曲者であるシゲ本人からのNGだった。




