第42話「誘われた新たなイベント!」
無事に停学も明け、俺たちはいつもと変わらない学園生活を送っている。
それでも、しばらくは学園でバンドの縁ができないということもあり、俺は退屈そうに授業を受けていた。
「ねえ、仙道。あんたら、スーパーマーケットで弾いたんだって?」
休み時間になると、上原が尋ねてくる。
「わたしも噂で聞いたよ? 行けばよかったなあ」
上原の横にいるかなでも、俺たちのライブがあったことを知ったのか、そう口にしていた。
「まあな、そこまで観に来た人はいなかったけど……」
俺は二人にそう答えると、ライブの後のことを思い出した。
演奏をすべて終えて、片付けている最中に声をかけられた。
「君たち、ライブハウスでの演奏は経験したことがあるのかい? 失礼、僕は秋山と言います」
拍手を送った人の一人で、その言葉使いとは違い、見た目がやたら派手だった印象。
そう話しかけられた俺は、その見た目が怪しい秋山に答える。
「ええ、まあ……一回だけですけど」
俺の言葉を聞いて、派手な見た目の人はなにやら考え込む。
「ねえ、晴君。あの人、なんで声をかせたんだろう?」
「知らねーよ、なんかの怪しい勧誘じゃねーのか」
ひそひそと俺とシゲは話す。
「いや、案外クレームとかではないか? 演奏がひどくて、本当にバンドマンか疑っているのかもしれぬ」
「まあ俺様のベースは完璧だったがな、クレームを言われんなら仙道だろ」
「んだと? なんで、俺が文句を言われなきゃならねーんだよ」
成瀬の一言にムカッとした俺は、やつを睨みながら言葉を返した。
すると、秋山が俺らに向かって口を開く。
「よかったらなんだけど……今度やるイベントに出てみる気はないかい?」
その言葉に、俺たちは一瞬思考が停止する。
それからしばらくして、今になっても俺は秋山に返事をしていなかった。
「ねえ、晴君。秋山さんが言ってたイベントはどうするの?」
俺の机にやってきたシゲは、そう尋ねてくる。
「うーん……正直、迷ってるな」
腕を組み首を傾げながら、俺は答える。
「けど、秋山さんってライブハウスのブッキングマネージャーさんだったんだね」
「ああ、なんでも近々開催するイベントのバンドを探してたんだとさ」
秋山はライブハウスの代理ブッキングマネージャーらしく、たまたまあのスーパーマーケットで買い物をしていたらしい。
偶然、俺たちの演奏を見て声をかけたということだった。
「成瀬君は出る気満々だったよ? 新しい女に出会えるチャンスだーって」
「あの野郎は知らねーよ、ただ……」
そこまで話す俺は、言葉を途中で止める。
俺たちにとって、ライブができる機会ができたのはありがたい話だ。ましてや、またライブハウスで。
しかし、その出れるイベントが問題だった。
「他に出演するバンドがほとんど中堅バンドで、俺たちとは比べものにならない強者ばかり」
秋山の話では、ここら辺の界隈で有名なバンドも出る予定らしい。
中には俺でも知ってるアマチュアバンドもいた。
「高村さんたちのバンドも出るらしい、それだけデカいイベントってことだ」
ライブハウス慣れしているバンドに、俺たちみたいな新人バンドが出ていいものなのか。
それが俺をイベントに出ていいか決めかねている要因だ。
「しかし……なんで、俺たちを誘ったんだろうな」
たまたま見かけとはいえ、実力も知名度もない、ただの学生バンド。
もっといいバンドならば、探せばいくらでも出てくるはずなのに。
「そりゃあ、俺様たちのバンドがいずれビックになると予感したんだろうよ」
「……おまえまで来たのかよ、成瀬」
「俺を忘れては困るな、仙道」
成瀬の後ろから、小野寺がひょこっと現れる。
どういうわけか、休み時間の教室にメンバー全員が集まった。
「仙道らしくないな、これまでのおまえならば、進んでイベントに参加しただろうに」
「はは! こいつは、びびっているんだよ。他のバンドがすげえのしか出ないし」
そう口にする小野寺に、成瀬は俺を見ながら鼻で笑うように話す。
「最強最高のバンドやらになるんだろ? だったらこんなイベントくらい、余裕な気持ちを持てや」
「まあまあ成瀬君、晴君なりにいろいろと考えているんだよ」
シゲはなだめるように、成瀬に言う。俺が悩んでいるのをシゲは察しているのだろう。
「この前のライブもそうだが、俺たちはまだ観客を沸かせるほどのバンドじゃない」
演奏レベルは、バンドを組んだ頃に比べればかなり上達していた。バンドの一体感も、確実に出ている。
しかし、観客を魅了するようなバンドには遠く及ばない。
「そうかあ? けっこうイカしたバンドになってきたとは思うけどな」
「うむ、成瀬の言う通りだ。俺たちは、進化している」
「僕も今のバンドの雰囲気は好きだよ? みんなと弾いて、安心できるもの」
みんなはそう自分たちのバンドが良い感じになったと思っているのだろう。
俺自身だって、バンドのモチベーションが上がっているのを、実感していた。
だが、実力のあるバンドたちとの同じステージは、予想以上にプレッシャーだ。
「ねえ、さっきからなんの話をしてんの?」
俺たちの会話を聞いていた上原が、不思議そうに尋ねる。
「それはだね、上原ちゃん! 俺たち、でかいイベントに誘われたんだよ。もちろん、観に来てくれるよねえー?」
成瀬はそう上原に近づき、にやにやしながら答えた。上原は引き気味に離れて、遠ざかる。
「こら、成瀬! まだ出るとは決めてねーだろ」
「んだよ、まだグダグダと悩んでいんのかよ、この根性なしが」
「……あ? んだ、この野郎!」
成瀬の言葉に、俺は勢いよく席を立った。
「まあまあ、二人とも。喧嘩はダメだよー」
シゲが間に入って、止めに入る。
「けど、あんたらにとっていいチャンスなんじゃない?」
上原はそう口にすると、さらに話を続ける。
「ライブのイベントに誘われるって、めったにないんだし、バンドを知ってもらえる機会じゃない?」
「あ、ああ……たしかにそうなんだけどな」
バンドの知名度を上げるには、たしかにいい機会だ。それはわかっている。
ーーけどなあ……。
「かなでもそう思うでしょう? なにか、言ってやりなさいよ」
横にいるかなでに上原が話しかけると、かなでが俺を見つめる。
「大きなイベントで弾く仙道君たちは、きっとかっこいいと思うよ? わたしも、観てみたいなあ」
「……」
かなでの言葉を聞いた俺は、沈黙する。
そんな俺にみんなは不思議そうにしていた。
「どうしたの、晴君? なんか、プルプルと震えているよ?」
「なんだあ、トイレか? 漏れそうになってんのか?」
心配するシゲや、茶化す成瀬。
「どうしたというのだ、仙道?」
小野寺もそう口にすると、俺は目を見開いて叫ぶ。
「出るぞ! イベントライブに……」
散々、悩んでいた俺はかなでの一言ですべて吹っ切れた。
俺たちはイベントライブに出て、最強のバンドとして最高のライブをやる。かなでにステージで弾くかっこいい俺を見せてやるんだ。
ーーそのために、イベントに出ない理由などない。
俺はそう意気込むと、すでにやる気満々になっていたのだった。




