第41話「ラスト曲、それはオリジナルソング!」
一曲、二曲と弾き終わって、いよいよ最後に演奏するのはオリジナルソング。
有名なアーティストのカバーは、ある程度知ってる人もいるだろう。
しかし、今からやるのは完全なオリジナル。俺たちが作った曲だ。
ーーはたして、どんな反応をするだろうか。
ピックを持つ右手が、かすかに震える。
学園でやった時以上に、緊張感が増してくる。聴く人は、老若男女。
「晴君……大丈夫?」
シゲはそう俺の顔を見ると、心配そうに声をかけてきた。
緊張が伝わったのだろう。俺は言葉を返さずに、無言でうなずく。
「ったく、変に緊張してんじゃねーよ。いつも通りにやればいいんだ」
「うむ、仙道らしくないな! おまえならば、こんな時こそ最高最強のロックバンドだと叫ぶだろうに」
成瀬や小野寺も、そんな俺に発破をかけてくる。
ーーそうだ、俺たちは最高最強のロックバンドになるために活動しているんだ。
小野寺が言うように、こんなところでびびっているわけにはいかない。
俺はすうっと深呼吸をした後、みんなに向かって話す。
「やってやろうぜ! 俺たちが作った曲をこの場にいる人に聴いてもらおう」
そう話すと、みんなはニヤリと笑う。
小野寺が先にドラムを力強く叩き始めると、パワフルなリズムが鳴る。
それを聴く俺たちは、息を合わせて一斉に楽器を弾き始めた。
もう俺のピックを持つ右手は、震えることはない。
小さなアンプから、俺とシゲの激しいギターサウンドが聴こえる。そこに、成瀬のベースから重低音が加わった。
「次は俺たちが作ったオリジナルソング、BADBOY! GOODLOVE!」
ギターを弾きながら俺はマイクスタンドに近づき、タイトルを思いっきり叫んだ。
そして、俺はマイクに向かって歌い出す。
何度も繰り返し練習した、オリジナルソング。歌いながらギターを弾くなど、苦戦することはない。
コードを押さえては位置を変え、正確で完璧な指さばきで音を表現していく。
ーーギュワァァン!
横でギターを弾くシゲの音色も、きちんと合わさる。
俺よりもギターがイマイチだった頃のシゲはいなく、今では自信を持って弾いてみせていた。
その姿はまさしく、バンドのギタリストだ。
シゲのギターの音に加え、成瀬の弾くベースラインがリズムを生み出し、ギターでは出せない低音でバンドサウンドの地を固めている。
やつが弾くベースがなければ、曲全体の迫力は出せない。
以前のような好き勝手に弾くこともなく、ライブをやるたびに他のパートをちゃんと意識して弾いている。
それに弾く前のチャラい姿はなく、ベースを弾く成瀬は本当にかっこよく見える。
ちらりと横目で見ながら、俺はそう思った。
曲は進み、サビのところまで演奏していると、ドラムのリズムパターンが変わる。
叩かれるドラムの音は、誰よりも感情が
剥き出しだ。
ーー太鼓の鉄人みたいなはちゃめちゃなリズムじゃなくなったな、小野寺。
メンバーの中で唯一楽器経験者ではないにしろ、音楽のゲームで培ったリズム感は大したもの。
ドラムを独学で覚えたにも関わらず、こうやって人前で叩けるまでに成長している。バンドの中で、一番成長がはっきりしているのは小野寺だろう。
曲を聴く人の反応は、まちまちだ。
俺たちの姿を見ながら聴き入る人もいれば、立ち去っていく人もいる。
熱気を感じることはないけど、少なからずオリジナルを弾いて悪い感じにはなっていなかった。
ーーけどまあ、やっぱりこのバンドで弾くのは最高だな。
それは俺だけでなく、みんなもそう思っている音色が響く。
まさに、俺が目指している最高最強のバンドによるライブの片鱗が見えてくるようだ。
ーー今回のライブは……まあ、いい演奏ができたと思っていいかな。
演奏も終盤を迎え、そろそろ曲が終わりに近づく。俺はギターを片手に歌いながら、そう振り返る。
アウトロのフレーズを弾き、すべての演奏が終わる。
「ありがとうございましたー!」
汗だくになりながら、俺は感謝の言葉をマイクに向かってしゃべった。
すごい路上ライブのような、バンドを囲むことは俺たちのバンドにはなかった。
けれど、ほんの数人。足を止めた人や車の中で聴いていた人たちはたしかにいたのだ。
俺たちのバンド。オリジナルソングを知ってもらうには、今はそれくらいでいいだろう。
ーーパチパチ。
すると、小さな拍手が聞こえてくる。
最後まで聴いてくれた人だろうか、俺たちを見ながら手を叩いていた。
「……ったく、悲しくなるくらいの小せえ拍手だな」
そんな拍手の音に、成瀬は少し皮肉るように口にする。
「けど、知らない人たちに演奏を聴いてもらえただけでも嬉しいね」
「うむ! ライブハウスでやるだけがバンドではないな。いい経験になったものだ」
汗だくになりながら、シゲや小野寺が満足そうに話している。
スーパーマーケットでの路上ライブは、無事に終わった。
俺たちのライブが終わったと思ったのか、買い物客はなにごともなかったように、行き帰りしている。
その様子を見た俺は、ぽつりとつぶやく。
「もっと、印象に残るようなバンドになってやる」
数人程度が俺たちのバンドをよかったと思っても意味がない。
今にきっと、大人数が湧くようなバンドになってやる。
「そうと決まれば、今日の反省会だ! ささっと片付けて、小野寺の家に向かうぞ」
「ええ……? いや、ライブが終わったんだから、普通はこれから打ち上げだろ」
「反応会とは、なにをするんだ?」
「多分、晴君のことだからダメ出ししながら、また弾くように言ってくるかも」
俺の言葉に、シゲたちはぐったりしている。
演奏は良かったが、言いたいことが山ほどある。今後のライブに向けて、今からみっちり話し合わなければならない。
「ほら、まずは撤収作業だ! キビキビ動け」
「少しは休ませれろよ! さすがの俺様も、クタクタだ」
「あっ、それより先にお店の店長さんに挨拶しなきゃじゃない?」
その場でだれる成瀬。律儀に店に挨拶をしようとするシゲ。
「ライブが終わったことを仏に感謝だな、南無南無」
手を拝んで祈り始めた小野寺。
そんな連中に、俺ははあっとため息をついた。
なにはともあれ、とりあえず俺たちは機材を片付けることから始まる。
すると、先ほど拍手をしていた人が近づいてくる。
「あの、ちょっといいですか?」
そう話しかけた人は、次に思いがけない言葉は口にする。
それは俺たちのバンドにとって、さらなる挑戦への始まりだった。




