第38話「スーパーマーケットライブ!開催」
長い停学も、残り一日となった今日。
俺たちは、とある場所でライブをやる予定だ。
「よーし! おまえら、練習の成果を果たすぞ」
俺はそう元気よく話すが、みんなはどんよりとした顔をして黙っている。
「ねえ、晴君……本当にライブをやるの?」
「なに言ってんだシゲ、やるに決まってんだろ? そのために、何回も練習したんじゃないか」
やたら心配そうに尋ねるシゲに、俺はそう答える。
「いや……有本が言ってんのは、ライブをやる場所に不安があるってことだろ」
「うむ、これまでとは違う所なだけに、俺ですらそう思うぞ?」
「なに言ってんだおまえら、こんな場所でライブできるなんて、そうそうないぞ」
俺は呆れながら成瀬たちに言うと、ライブをやる場所に指を指す。
そこはスーパーマーケットの駐車場。店の入り口から少し離れた、ちょっとした空きスペースだ。
かの有名なバンドだって、店の前やら駅の通路でライブをやっているものだ。
俺たちだって最強最高のバンドになるためには、必ず通らなければならない道。
「バンドの登竜門みたいなもんだろ! わっはっは」
俺の高笑う声が、まだ誰もいない駐車場に響き渡る。
「ところで仙道、お店にはきちんと許可を得たのか?」
「ああ、さすがに今回は話をしておかねーと。やっと停学が終わるんだし」
「晴君……」
学園でのゲリラライブを思い出したのか、みんなが疑いの目で俺を見てくる。
ーーったく、俺だってバカじゃないんだ。
同じような失敗をするほど、俺は無計画ではない。もちろん、事前にスーパーマーケットに連絡してある。
「そこは問題ない! 俺がビシッと店長を説得してやったぜ」
「……本当かよ」
こいつらは、俺の言うことが信じられないのだろうか。許可を得たという話に、誰一人も納得していない様子だ。
「きちんと、駐車場で演奏するって話したのか?」
「……あ、ああ。もちろん話した……ぞ」
ーーじいぃぃぃ。
みんなの視線が、俺に突き刺さる。
「晴君……」
「大丈夫大丈夫、心配するなシゲ! ほら、ささっと準備を始めるぞ!」
俺は軽く誤魔化して、ギターのアンプを持って走り出した。
「なにも起きなきゃ……いいな」
成瀬が呆れたように話して、みんなはうなずく。ともあれ、俺たちはライブをやる機材を置き始める。
さすがにライブハウスでやるような、大きな機材は無理だし、使うアンプは小型のやつしかない。
「新しいアンプも買わなきゃだな、これじゃあ最低限の音しか出せねーわ」
「まあなあ、けど路上でやるにはこんな大きさで充分だろ」
俺はアンプを足元に置いて、成瀬にそう話す。たとえ機材が貧弱でも、工夫次第ではどうにかなる。
ーーエフェクターを並べ、ケーブルを繋げて音を作る。
これだけでも、音色がガラリと変わるし、聴けるくらいにはなるものだ。
「さすがにドラムは全部を運べないものだな……バスドラムとスネア、ハイハットシンバルが一つが限界だ」
「ドラムは詳しくねーけど、それだけでなんとかなりそうじゃね?」
「うむ。その通りだと思うが、それこそ必要最低限だろう」
成瀬に答えた小野寺は、手際よくドラムセットを並べる。
機材を置き、少し離れたところから俺は確認した。
「よしよし、きちんとバンド演奏ができそうな形になったな」
スマホを取り出して時間を確認すると、そろそろ店が開店する時間だ。
しばらくすれば、買い物客も集まってくるだろう。
「みんな準備はできたか? 店に来る客が
現れたら、演奏をするぞ」
「ああ、それはわかったけどよ……俺らのライブを見る客がいるのか?」
「買い物帰りの客とか、車で待ってるツレがいるだろう。そいつらがターゲットよ」
今回のライブは、街の連中に俺たちのバンドを認知させるのが目的だ。
あまり深くは求めず、こんなバンドがいるんだなと思わせられればいい。
あわよくば、誰かしらファンになってくれれば尚もよし。
「まだ人前で弾くのに慣れていない僕には、良い特訓になるかな」
「ああ、ライブは数をこなせば自信にも繋がる! そのための演奏だと思え、シゲ」
いつも緊張しているバンドは、格好悪く見えてしまう。スーパーマーケットでやる特殊なライブを経験するのも良いだろう。
すると、駐車場にはぞろぞろと車が入ってくる。
さっそく俺たちのライブが、始まろうとしていた。
ーートントン、あーあー!
俺は、マイクに音が出ているか軽く声を出す。きちんとスピーカーから声が出ていることを確認した後、マイクに向かって話し始めた。
「えー! お店にお越しの皆様、俺たちはロッケンローラースターズというバンドを組んでいる者です!」
まるで街頭演説をする政治家みたいに、俺はバンドについて自己紹介をする。
「……相変わらず、ダセー名前だな」
「成瀬君、そこは愚痴を言わずに我慢だよ。晴君がしゃべっているし」
「はあ、この俺様のカッコいいイメージが壊されていくわ」
後ろのほうで、ヒソヒソと成瀬たちが話している。
ーーったく、ぐちぐち言ってねーでいつでも弾けるようにしておけ。
こめかみをピキピキさせながらも、俺は話を続けた。
「今日は店の駐車場で演奏するので、よかったら聴いていってくださいー!」
簡単に説明を済ませるが、悲しいくらい誰も見向きもしていない。
完全に俺たちをスルーして、お店に人が入ってしまう。
「ふむ……俺たちはまさに空気だな」
「仙道の話を聞いて立ち止まるやつがいるか? イケメンの俺が言ったほうが、よかったんじゃねーか」
「ふっ……二人ともー、晴君に聞こえちゃうよ」
ーー安心しろシゲ、ばっちり聞こえているよ。
またヒソヒソと後ろで話すみんなの声は、嫌でも聞こえてくる。
その間に、ぞろぞろと人が現れては店へと消えていく。
「くそがああああ! 無視しやがって!」
この状況に俺はイライラし始めて、マイクに向かって愚痴を吐露する。
「わわ! 晴君、落ち着いて」
「こうなったら、演奏をして嫌でも関心を持たせてやらあ! おまえら、やるぞ」
後ろへ振り向いた俺は、みんなにそう口にする。
ーーとにかくライブだ!
まったく相手にもしない買い物客の意識を変えさせてやる。
そう思いながら、俺はギターを構えてピックを手に持つ。
ロッケンローラースターズのライブが、これより始まる。




