第39話「一曲目!カバーでガッタでフィーリング」
スーパーマーケットでのライブが始まり、演奏が始まる。
駐車場の空きスペースでやるのはいいのだが、人が近寄ってくる気配はまだない。
俺は軽いノイズ音を出すギターのボリュームを下げ、弦にピックを押し当てる。
ーージャンージャン! ジャカジャーンジャン!
一曲目はカバーで、ビートルズを弾く。
選曲はみんなで決めて、オリジナルを含む三曲。
まずはシゲが選んだ、アイヴガッタフィーリング。
ビートルズの代表曲の一つであるが、やつはなぜこの曲を選んだのだろう。
イントロのロックさはないが、ギターは割と弾きやすい。
「ビートルズっていうより、どちらかと言えば漫画のバンドが弾くやつをカバーしようよ」
練習の時、シゲはそうにこやかに提案した。バンド系の漫画で、主人公がこの曲をカバーしていたらしく、そのアレンジが良さそうだと話していた。
最初は乗り気でいなかった俺だが、曲を聴いて驚いた。
「すげえな、めちゃくちゃかっこいいじゃねーか」
ギターだけでなく、ベースやドラムも原曲とは少し違う。
俺の知っているアイヴガッタフィーリングよりも、好みなアレンジだった。
ーーと思って弾いてるけど、なかなか人が集まってこないな。
ギターを鳴らし曲を歌っているが、立ち止まって聴いている人はいない。
横をスッと通り、ちらりとこちらに目をやるくらいだ。
決して曲が悪いわけでもないし、やはり演奏がまだ下手なのだろうか。
俺だけがギターで繰り返し弾いて、同じ歌詞を歌い続ける。
ーー曲を弾き始めて、約一分。
ずっと同じフレーズを弾き同じ歌詞を歌っていると、小野寺のドラムが入ってきた。
ギターとドラムだけの演奏だが、ドラムが入るだけで安心感がある。
小野寺が叩くドラムの音を、俺はしっかりと後ろから聴くことができる。
ーーへえ、ドラムのリズムが安定しているじゃないか。
ドラムの音は練習の時よりも、さらに安定していて上達していた。
それだけ、小野寺がドラムを熱心に叩いてきたのが伝わる。
ーーなに、楽しそうに叩いてんだよ。
少し目線を後ろにやると、小野寺は楽しみながらドラムを叩いていた。
俺はにやりと笑いながら、ギターを弾いては歌う。
すると、まだギターを弾いていないシゲが俺を見ながら、指を前に指す。
ーーなんだ? シゲ、前を見ろって?
そう言われているような気がした俺は、正面を見る。
目の前に車が駐車しており、中にいた運転手が窓を開けて聴いている姿が見える。
数は少ないものの、きちんと聴いている人がいるのに俺は驚いた。
ーーちゃんと聴いている人もいるよ? 晴君。
そう言いたげそうに、シゲは笑いながらギターを弾かずに構えている。
ーーああ、そうだな。ライブハウスみたいな感じにはならないけど、聴いている人がいるだけで嬉しいもんだな。
そう思いながら弾くギターの音色は、どこか気持ちがいい。
そこへ、ベースの低音が割り込んでくる。ドラムに続いて、成瀬がベストなタイミングでギターに音を重ねてくる。
太い弦を指で弾き、綺麗なベースラインがスピーカーから鳴る。
ーーこういうベースラインも、俺はできるんだぜ?
成瀬は横で体を軽く揺らしながら、出番がやっときたかと言わんばかりに演奏する。
普段、成瀬が好むようなスラップやら速弾きではない曲だが、それでもやつはきちんと弾きこなす。
ーーったく、できんなら最初から素直にそういう弾き方もしろや。
スローテンポで弾くベースが、俺のギターと小野寺のドラムに重なり曲が進む。
サビの歌詞を歌い、また同じフレーズをループする。
ーージャンジャカ、ジャカジャンジャン!
曲を演奏して、二分ばかりが過ぎた。
ギターから始まり、ドラムとベースが順番に入ってくるアレンジの曲が珍しいのか、徐々に聴く人が増えていく。
最初はこちらをちらりと見るだけの人も、足を止める。車の中にいる人は、待っている間に演奏を聴いている。
人だまりが集まるほどではないが、まずまずのライブになってきていた。
ーーけど、さすがに演奏をループしすぎじゃないか? 何分でも弾けちまうじゃねーか。
そろそろ、ここらへんで曲の締めに入りたい。
そう思っている中、成瀬はベースのフレーズを変え、ソロみたいなものを弾き始める。
ーーさすがに同じじゃあ、俺たちも飽きてくるだろ? ここは任せな。
成瀬はそんなアイコンタクトをすると、ベースソロを弾く。
また自分勝手に弾いて、曲をめちゃくちゃにするんじゃないかと俺は思ったが、成瀬は曲に合うようにしていた。
だが、やはり成瀬はベースが上手い。
俺たちの弾く音の邪魔をせず、なおかつあまり目立たないソロをやっている。
ーーちっ、弾いている本人はがっつり目立たせてやがるけどな。
以前のような身勝手な振る舞いはしていない。
日に日に、成瀬もきちんと俺たちの音を聴いてできるくらい成長している。
聴いている人も、成瀬のソロにわあっと驚いていて、悪くない反応だ。
ーーさて、後はシゲのギターがどう入るかだな。
最後に残っているのは、シゲのギター。
練習の時は、俺と同じフレーズを弾いて入ってくる予定だ。
しかし、それでは面白くない。
「シゲ、おまえは好きなように弾いて構わない。おまえが好むギターを弾いたれ!」
練習の時に、俺はそうシゲに話す。
はたして、本番ではどう重ねてくるか。俺はその時を待った。
シゲはギターを構え、すうっと息を吸い込んでいる。俺はそれを横目で見て、後半の歌を歌う。
そこへ、成瀬のベースパートが鳴った後、シゲは勢いよくギターを弾いた。
ーーギュワァァァァン!
歪ませたギターの音が鳴り、いきなりギターソロが始まる。ソロが演奏に加わって、曲が一気にロックなものに変わった。
シゲは堂々とした姿で、ギターを弾いて見せている。
ーーまさかいきなりソロからか……すげえよ、シゲ。
予想していたものより、遥かにイカしたギターを弾くシゲに俺はつい顔がにやける。
他の連中同様に、シゲもかなりギターが上手くなっていた。それはもう、立派なギタリストだろう。
メンバー全員が弾く音が一つになり、これが俺たちのアイヴガッタフィーリング。カバーだけれど、最高な演奏に違いない。
最後の歌のメロディを歌い、アウトロに入る。
ーージャンァァン! ジャカジャン!
こうして、無事に一曲目を終える。
演奏を終えると、先ほどよりもさらに人が俺たちを注目していた。
「えー、まだまだ演奏は続きます! 次の曲は……」
集まっている人に驚いている暇はなく、俺は次の曲名をマイクに向かって話す。
一曲目の余韻に浸らず、俺たちは二曲目をすぐに取りかかる。
まだ、俺たちの路上ライブは始まったばかりだ。




