第37話「第二のオリジナル!そして次なるライブ」
高村のライブを見に行って以降、みんなの練習量が増えた気がした。
この日も集まってバンドの曲を弾いているが、雰囲気がいつもと違う。
「どう晴君? 僕のギターの弾き方は間違えてないかな?」
「あ、ああ……リズムも合ってるし、弾き方は完璧だよ」
シゲは自分が弾く姿を俺に見せて話すと、俺はそう答えた。
曲を弾いている時のシゲはよくリズムが乱れるが、この日はまったく乱れていなかった。
むしろ、俺よりも安定したギターなのではと思うくらいだ。
小野寺のドラムにしても、最初に比べたらかなり上達している。
「……どうしたんだ? おまえら」
あまりにも変化がありすぎて、俺はそう尋ねてしまう。
「高村のバンドを見てから、なにかしら触発されたんじゃねーの?」
ベースのエフェクターをいじりながら、成瀬は俺に答える。
「そうだとしてもだな、短期間でここまで上手くなるか?」
「みんな停学中だし、暇なんだろ? 時間は腐るほどあるし、毎日練習してたんじゃね?」
「真面目なシゲですらここまで上手くなるとは思わなかった……あいつ、どれだけ弾きまくったんだろう」
シゲの指は真っ赤に腫れ、人差し指にはタコができていた。
かなり弾き続けなければ、ああはならない。何時間もずっとギターを触っていたに違いはなかった。
「あいつなりに努力してんだな。高村のライブがいい影響になってやがる」
俺はシゲの姿を見ながら、その成長を素直に喜ぶ。
成瀬はエフェクターをセッティングした後、軽く弦を弾く。
アンプへ直に繋げたベースの音よりも音が綺麗で、より低音が際立つ。
よく見ると、成瀬が普段使っている物の隣に新しいエフェクターがあるのに気がつく。
「まあ、こんなもんかな。あとはベースのボリュームか」
「へえ、新しいエフェクターが増えてんのな。いつの間に買ったんだよ?」
「俺様は常にベースの音を最高にしたいからな、欲しくなったらすぐ買うのさ」
俺が気がついて話すと、成瀬は自慢げにそう答えた。
新しいエフェクターを使うということは、今よりも良い音を作る意味。つまりは、こいつもなにかしら触発されてそういう行動をしたことになる。
ライブを見ていた中で、成瀬だけはシゲたちと違ってあまり関心がなさそうに見えたが、どうやらそうではないらしい。
「ったく、結局はおめえも高村バンドに影響されてんじゃねーか」
やはりライブを見て良かったなと、俺は思う。
自分たちより格上のバンドがいるだけで、負けていられない気持ちにさせてくれるのだから。
「よーし! それじゃあ、コピーした曲も含めて全曲を通しでやるぞ」
俺はマイクスタンドの前に立ち、ギターを構えながら全員に話す。
ライブを意識したイメージで、俺たちは曲を弾き始めた。
ーー曲を弾き続けて、数分。
前より音質や技術が上がっている演奏の音が鳴る。目立ったミスもなく、特に違和感はない。
むしろみんなで弾く音が、いい感じに上手く聴こえてくるくらいだ。
「ねえ、晴君……」
練習時が終わりに近いてきた時、シゲは声をかけてくる。
「どうしたシゲ? 指を怪我したか?」
「ううん、違うよ。ちょっと、見てもらいたい物があるんだけどさ……」
そう言うとシゲは、数枚の五線譜が書かれた紙を俺に見せる。
「シゲ……これって、まさか」
びっしりと書かれた鉛筆の文字に、音楽記号。見たことのないパターンのフレーズが、細かく書かれていた。
それを見た俺は、すぐにこの譜面に書かれているものを理解する。
「どうした? なにを見ているんだ、仙道」
「ふむ、なにやら楽譜のように見えるが」
成瀬たちが俺たちに近づき、シゲが持つ紙をまじまじと見る。
「うん……新しい曲を、また作ってみたんだ」
それはまさしく、二曲目のオリジナルソングの楽譜だった。
ギターだけでなく、今回はドラムやベース。そして、ボーカルのパートまで作られている。
「有本……こんな短期間にまた曲を作れたのか? おまえ、作曲のセンスがありすぎだろ」
「家にいることが多いからね、今回は父さんのパソコンを使って作ってみたんだ」
「それにしても早すぎるだろ、シゲ……」
シゲの生産能力に驚くばかりだが、その速さにも驚く。
いくら停学中で時間があるにしても、すべてのパートを作ったシゲに、俺は感動を覚えた。
「さっそく、楽譜に書かれたパートを弾いてみようぜ」
「おいおい、まずは譜面を覚えるほうが先だろうが」
シゲが作った譜面を俺たちは、じっくりと読む。
ギターの進行も速く、アップテンポな曲調。例えるならば、オルナタティブロックもしくはポップパンクみたいなジャンルな曲に感じる。
「へえ、リフが少し複雑だけどイメージ的に良さそうだな」
「なあ、ここのベースラインは少し変えていいか?」
「むむ……このドラムパターンは、どう叩けばいいのだ?」
それぞれが楽譜を見ながら、思い思いに意見を言って話し合う。
やはりオリジナルソングとなると、自分が表現したいことが自然と口から出てくるんだろう。
俺たちは弾く練習を止め、いつの間にか新しいオリジナルソングに夢中になっていた。
「けど、今から新曲を練習し始めると次にやるライブの時までに間に合わなそうだな」
途中、成瀬はそう口にする。
たしかに、曲を仕上げるには時間はかかる。そんなすぐには完璧には弾けないだろうし、かなりの練習も必要だ。
「もちろんだよ、今日初めてみんなに楽譜を見せたんだから、焦らなくてもいいんじゃないかな」
シゲは遠慮がちに俺たちに、そう話した。
けど、せっかく新しい曲が目の前にあるのに後回しにするにはもったいない気がする。
「あー、それでも早く新曲を弾いてみたいもんだぜ!」
「それな! ていうかよ、ライブとかまたやりてーなあ」
学園でのゲリラライブ以降、俺たちは人前で演奏していない。
成瀬が言うように、またライブをやりたい気持ちになってくる。
「うーん、ライブかあ。ちょっと考えてみるかな」
俺がそう口にすると、みんなの目線は俺へと送られる。
どうにかしてライブをできないか、俺はしばらく考え始めた。




