第35話「高村ライブショー!」
高村たちのバンドが、ライブをやる日がついに来た。
俺はライブハウスでのライブ観戦が初めてではないが、やはり緊張はしてくる。
「ねえ、晴君。ライブスタートって、何時から?」
「たしか……夜の八時からのスタートだったかな」
俺は時計を見ると、ライブが始まる三十分前だと確認する。
ライブはまだ始まらないため、俺たちはライブハウスにあるイートコーナーで待っていた。
「僕たち未成年だけど、ライブハウスに来ていいのかな?」
「いいに決まってんだろ? 別に、ライブを見るなら年齢なんか関係ないしよ」
「けど……もう外は真っ暗だよー」
シゲはオドオドしながら窓の外を見て話している。
「俺は初めなのだが、このドリンクチケットとはなんだ?」
すると小野寺は受け付けでもらったドリンクチケットを見て尋ねてくる。
「ああ、ここだとライブを見終わった後にドリンクの一杯は金を払わずに頼めるんだよ。その引き換え券みたいなもんだ」
「ふむ……なるほど、なにを頼もうかな」
ーーこいつらときたら、せっかくのライブハウスの雰囲気を味合わないのかよ。
はあっとため息をつくと、成瀬がいないことに気づく。
「なあ、成瀬はどこに行ったんだ?」
来た時は一緒にいたのに、成瀬はいつの間にか姿を消していた。
「トイレかな? 帰った感じはしないよ」
「うむ、出て行ったのを俺は見ていないが」
シゲたちもどこへ行ったかは知らず、そう答える。
「あの野郎……まさか」
俺は嫌な予感がして、辺りを見渡す。
すると、ライブを見に来た女たちがいるほうに目が止まる。
「やっぱりあいつ、ナンパしてやがるぞ」
女のグループに成瀬がヘラヘラと笑いながら話していた。
「でさー、俺のベースがまたかっこいいのよ。今度、暇な時にどう?」
ライブを見に行くのが目的なのに、成瀬は堂々とナンパに興じている。
俺は成瀬の背後に近づき、思いっきり耳を引っ張る。
「おい、こら。てめえは、なにをしてんだ……ええ? 成瀬さんよぅ」
「いててて! 痛えだろ! おまえこそなにすんだよ」
「ライブが始まる前にナンパなんかしてんじゃねー! こっちに来い」
俺は成瀬の耳を引っ張ったまま、ズルズルと引きずる。
それでも成瀬は女に手を振りながらニコニコとする。
「ったく、おまえは目を離すとすぐナンパに行くやつだな」
「ふっ、俺は常に女の子と仲良くしたいからな」
まったく懲りずに、かっこつけながら話す成瀬に俺はうなだれた。
「仙道、そろそろステージに向かわないか? 早めに入場したほうがいいだろう」
小野寺は時計を見ると、俺にそう提案してくる。たしかに、そうこうしている間に高村のライブが始まる時間が迫っていた。
「そうだな、早めに行って最前列で待機しよう」
生のライブを見るならば、最前列が一番いい。近い距離でバンドを見ることができるし、高村の弾くギターをしっかりと聴くことができる。
なにか盗める技術や、ライブパフォーマンスを学ぶには最前列にいるのがベストだ。
「よし! もう会場に入ろうぜ、行くぞ」
俺たちは、さっそくライブ会場へ向かうことにした。
地下へと続く階段を降り、すぐ目の前には分厚い扉を開けて中に入る。
まだライブは始まっていないのにかかわらず、すでに人が集まっていた。
「ねえ、晴君。ここにいる人たちって、みんな高村さんのバンドを見に来たファンかな?」
「このライブはワンマンだからな、固定ファンの可能性はあるかも」
ざっと数えてると、だいたい五十人くらいは会場に入っている。
ライブがスタートする時、どれだけ増えるかはわからないがそれなりにファンがいることが伺える。
「つまり、高村バンドはそこそこ人気っつーわけか」
「うむ。これだけの数が観に来るのだから、そうなのだろう」
「そんなにいいバンドなのかよ、そうは思わねーな」
成瀬はそう周りを見ながら、吐き捨てる。
俺もまだ高村のバンドがどんなものかは知らない。だが、これだけの人数を集められるのだから、知名度はあるのだろう。
「僕らのバンドは、ここまで集められるのかなあ」
不意に、シゲはそう口にする。
俺たちのバンドは、正式にライブハウスデビューをしたわけではない。
イベントに参加したバンドであるものの、ファンができたとは言えない。
「俺らのバンドだってこれからだ! ここにいる連中も、いずれは頂いてやるさ」
ゆくゆくは、ワンマンだってこなせるバンドにする。
俺はそう思いながら、まだ誰もいないステージを見つめた。
「よーし! 最前列でライブが始まるのを待とうぜ」
ステージの真ん中に近いところまで来た俺たちは、横一連に並ぶ。
薄暗いフロア全体に、カラフルなライトがステージを照らしている。
俺はこの独特な雰囲気が好きで、ライブハウスの空間にいると落ち着く。
「僕、ライブハウスで見るのは初めてだから、どう立ち振る舞えばいいかわからないや」
「立ち振る舞いは関係ないぜ、シゲ。ただ、ライブを楽しめばいいんだよ」
俺がそうシゲに言うと同時に、周りがざわつき始めた。
時刻はライブが始まる寸前。
いよいよ、高村のバンドがステージにやってくる。
他の観客もぞろぞろと中に入ってきて、フロアは人で溢れかえっていた。
「すげえな……インディーズバンドに関わらず、こんなに集まるとは」
俺が驚いていると歓声が上がる。そして、ステージに高村たちのバンドが現れた。
見ると、男が三人に女が二人のメンバー構成。
「見ろよ、女がベースだぜ?」
成瀬はそう指を差しながら話し、俺もベースを見る。
「なかなかおもしろい組み合わせだね、男女が一緒になっているバンド」
「ああ、てっきり全員が男だと思ったな」
高村のバンドはステージで、楽器を構えている。すると、ボーカルの女がマイクに向かって話し始めた。
「みんな! 今日は来てくれてありがとう、久しぶりのライブであたしらも緊張しているわ」
女は観客にそう話しながら、会場全体を見渡している。
「さあ、今夜は盛り上がっていくよー! まずは一発目から……」
ボーカルの女が曲名を告げた後、まだ曲が始まっていないのに観客は歓声を上げる。
ーーついに、高村のバンドがライブをスタートさせる。
果たしてどんな曲をやるのか、俺の目はステージに集中する。
そして、一曲目の演奏が始まった。




