第34話「楽器屋に行くと、そこに魔物がいる」
高村のバンドがライブをやることをみんなに伝えたのは、数日後のことだった。
久しぶりにみんなで集まり、バンドの連絡をやろうとしていた時に俺は話す。
「てなわけで、来月になったらみんなでライブを見に行くぞ!」
チケットをみんなに手渡すと、みんなはチケットを確認する。
「へえ、あの人のライブとかやるんだなー」
「高村さんってたしかギターだよね? どんは演奏をするのかな?」
「ふむ、他のメンバーも気になるところだな」
他のバンドに興味がないと思っていたが、それなりに気になるようだった。
特に成瀬は高村にボロクソに言われていたため、なにか思うところがあるように見えた。
「あの野郎、俺様のベースが下手くそと抜かしやがったからな。変なライブをやったら、逆に嫌味を言おうぜ」
「成瀬、おまえは半分は恨みからきてる発言だろ……それは」
俺はそう呆れながら話すが、みんなでライブを見るのは初めてかもしれない。
これを機に、なにかしら俺たちのバンドに影響を与えるならいいチャンスだ。
「しかし、おまえはどんだけギターを弾きたかったんだよ。わざわざ、高村の家まで行ったんだって?」
「うるせえな、たまたまだよ。偶然、会ったから成り行きでよ」
俺が高村に会った時のことを、成瀬はネタにするような口ぶりで話す。
「けど、オリジナルを聴かせたんでしょう? どんな反応だった? 晴君」
「……まあ、悪くないとだけ」
シゲがそう尋ねると、俺はそう答えた。
特にここが良いとかダメとかは言われず、あっさりとした感想。
なんだかんだあっても、俺は未だに納得はいっていなかった。
なにかを期待していたシゲも、残念そうな顔でしょんぼりする。
「まだ荒削りなところもあるからね……具体的な良さは伝わらないはずだよ」
「いーや、有本! おまえが作った曲は完璧だったぜ」
珍しく成瀬がそう褒めた言葉をシゲに投げかける。
「うむ、誰がなにを言ったとしても俺たちの作ったものは素晴らしいものだ」
続けて小野寺も同じように話し、腕を組みながらうなずく。
たしかに、完成させたオリジナルは俺たちにとって大切な曲だ。誰一人して、曲を悪いようには思っていない。
きっと曲をライブで演奏していけば、必ず誰かが好きになってくれるはずだ。
「高村が言った悪くはないの一言を、俺たちの手で変えさせてやる! そのためにも、今は練習だ」
俺はギターを背負いながら、みんなにそう言う。
「俺たちがやるべきことは、練習あるのみ! さあ、何日かぶりに弾こうぜ」
「そうだね、一人で弾くよりみんなで弾いたほうが楽しいもの」
シゲは立ち上がり、ギターをアンプへと繋げ軽く弦を弾いた。
成瀬や小野寺も、自分の楽器を構えて演奏できる体勢に入った。
「よーし、じゃあいくぞ! ワン、ツー!」
俺がカウントを取り、それに合わせてみんなが同時に鳴らす。
時間が許す限り、俺たちは曲を演奏し続けた。
ある程度弾き終えた時、誰かの弦が切れる音がする。
「あっ、ごめん。僕のギターの弦が切れちゃった」
見るとシゲのギターに張られていた一弦とニ弦が切れて、びろーんとなっていた?
何回も練習した影響もあるが、シゲが弦を切るのも珍しい。シゲは俺よりも、ギターの扱いが丁寧だからだ。
「大丈夫か? 替えの弦は持ってきているのか?」
小野寺が尋ねると、シゲはカバンの中に手を入れる。
「あっ、ない……どうしよう」
「待てシゲ、俺が持ってあるやつをやるよ……あっ、俺もない」
俺は自分が持っている弦をシゲにやろうと探したが、この日は替えの弦を持っていなかった。
「まだ練習はするのだろう、どうするのだ? とりあえず弦なしでやるのか?」
「うーん、できるけど曲の雰囲気が変わっちまうしな」
切れたものをなくして残りの弦で弾くことは可能だ。だが、それで弾くとせっかくの高音が抜けてしまう。
「なら、ここは一旦中断して楽器屋でも行くか? 俺も新しいベースとか見たいしな」
成瀬は俺たちにそう提案する。
練習時間はまだ残っているが、成瀬の言うように楽器屋に行くのもアリだ。
前に高村と会った日は楽器屋に入れなかったし、いい機会でもあった。
「よし、ならみんなで楽器屋に行くか」
こうして、俺たちは近くの楽器屋に行くことになった。
楽器屋に着くと、今日はきちんと営業している。中に入り、まずは弦が売っているコーナーに向かった。
「えっと、たしかこの弦だったかな?」
「そういえばシゲはダダリオのライトゲージを使ってたよな」
ギターの弦にもさまざな種類があって、太さによって弾きやすい弾きにくい、または音に違いもある。
シゲが使っているのはライトゲージというやつで、もっともポピュラーな弦だ。扱いやすく、レスポールタイプなどによく使われる。
「俺はエリクサーの弦を使ってるぜ? こいつは弦の持ちがいいんだ」
そう話した俺は棚にかけられているパックを数個手に取る。
「え? けど、その弦ってけっこう値段が高いよね」
「まっ……まあな! 真のギタリストはいい弦を使うんだ、多少の出費は仕方ない!」
俺はシゲに話すが、実際は財布に金は少ししかない。正直、一パック買ったらもう終わりだ。
「いいよな、ギターは弦が安くてよー。ベースなんかさらに高くて病むわ」
「ほう、ベースの弦はそんなに高いものなのか?」
「ドラムの小野寺にはわかんねーわな。見ろよ、この値段」
成瀬は小野寺にベースの弦についている値段を見せる。
ギターの倍くらいな値段が書かれたのを見せられた小野寺は驚いている。
「小物類は消耗品だからね、弦楽器をやる人にはちょっと辛いね。特に僕らみたいな学生は」
「なるほどな、だが必要なのだろう? ならば買うしかあるまい」
「はあ……鍋にお湯沸かして、ベースの弦でも茹でるかー」
そうため息をつきながら話すが、成瀬は商品を手に取る。
その後も、俺たちは店の楽器を見ながら時間を過ごした。
すると、少ししたら他の客が入ってきて店が賑やかになる。
「ねえ、晴君。あの人たちって、前に話してた人?」
ギターコーナーで中古ギターを見ていた俺に、シケはそう尋ねてくる。
見ると、数人の学生が集まって商品を見ていた。
「あっ! あいつらか、あのオタク野郎共」
なぜか見覚えがある連中だと思っていたが、ゲリラライブをやる前に店で見た奴らだった。
「見ろ、シゲ! あんなオタクっぽい奴らでも、バンドをしているんだぜ?」
「晴君……バンドをやるのに見た目は関係ないよ」
「いや、有本。バンドはやはり顔が重要だぜ? 俺みたいなハンサムガイがいるバンドは華があるってもんよ」
成瀬は俺たちが話している間に割って入り、そう口にする。
「ああいう奴らは、だいたいアニソンとかコピーするんだろ。ロックじゃねえよ」
俺はそう小馬鹿にするように二人に話す。
所詮はお遊びバンド。大した演奏もできないだろうと、奴らを見ながら思った。
「おっ、なんか試奏するみたいだな。 気づかれないように近くで見ようぜ」
にやにやと笑うように、成瀬はそう言うとオタク共の近くに行く。
「けどゲリラライブを思いついたのは、彼らのおかげでしょう? って、晴君!」
シゲを無視して、俺も成瀬と同じく向かう。
やはり楽器屋に来て、他の人が弾くのも気になるのはギタリストとしの性。
見た目がオタクな連中だし、あわよくば逆に試奏して驚かせてやろうかと悪知恵が働く。
気づかれないように、俺たちは商品を見るフリをしながら耳を傾ける。
ーーさあ、おまえらのヘンテコなアニソンでも弾きやがれ。
そう思いながら聞き耳を立てていると、どうやら弾き出すみたいだ。
おかっぱ頭みたいな奴がギターを膝に置くと、左手で弦を押さえる。
ジーっとノイズ音が走った後、おかっぱ頭が勢いよく弦を弾く。
その瞬間、ものすごく速い指の動きでギターから音が鳴る。
軽いストロークから始まったかと思えば、ミスが一つもない完璧な速弾き。演奏はプロ並みに上手く、俺は言葉を失った。
先ほどニヤニヤと笑っていた成瀬も、驚いたような顔でいる。
軽く弾き終わった後、おかっぱ頭は他の連中と話しているが、演奏に驚いている奴は一人もいなかった。
「あのテクニックに驚かないということは、あいつら全員が同じようなレベルなのか?」
俺はぽつりと、つぶやく。
もしそうならば、あいつらのバンドは間違いなくすごいに違いない。
「くそう! なんか知らねーが、負けた気分になったぜ」
「聴いたことがないソロだったなー、もしかしてオリジナルか?」
「だとしたら、俺たちのオリジナルよりすげえじゃねえか! なんなんだ、あのオタク共は」
試奏を終え貸スタジオがあるほうへ去っていくのを見届けた後、俺は成瀬とそんな話をし始めた。
「晴君、やっぱり人は見た目じゃないんだよ」
「ていうかよ! 女の子が一緒にいなかったか? 茶髪の」
オタクの連中に一人、女の子が混じっていた。それこそ、オタクには不釣り合いなギャルのような見た目。
「まあまあな可愛さだな、声かければよかったなー」
話の腰を折るように、成瀬は悔しそうに話す。
「きっとすごいライブをやりそうだね、どんなライブかな?」
シゲが言うように、バンドに見た目は関係ないのかもしれない。
高村のライブも気になるが、やつらがどんなライブをやるのかも俺は興味が出てきた。
「ちっ! 俺たちも負けてられねーぜ」
楽器屋で出会ったオタクたちのバンド。
いつか対バンをして、俺たちのほうがすごいと言わせてやりたい。
そう思いながら、俺たちのバンドをさらに成長させたいと決意した。




