第32話「さて、さっそくみんなで練習だ!って……あれ?」
停学処分となった俺は、さっそく電話をかけ始める。もちろん、相手はシゲたちだ。
学校を休んでいるわけで、時間は昼を過ぎた頃。この時間ならば、みんなも電話に出るだろう。
初めに、俺はシゲに電話をかけた。
「もしもし、 シゲか? さっそくだけどみんなで集まって……え、 勉強中?」
俺の電話に、シゲは申し訳なそうに話す。いきなり停学になったから、親にいろいろ言われたのだろう。
成瀬たちはどうでもいいが、シゲを巻き込んだのは悪かったと思ってしまう。
「まあ仕方ないか、 今日は誘わずにおこう。 となると……成瀬と小野寺か」
スマホの電話帳から、成瀬と小野寺の電話番号を探す。
三人でも音は合わせられるだろうと考えながら、まずは小野寺に電話をかけた。
ーートゥールルル! トゥールルル!
しばらく通話を繋げる音が続くが、いっこうに小野寺は出ない。
「なにしてんだあいつは、 電話くらいすぐに出ろや」
それからも何回かかけるが、小野寺に繋がることはなかった。俺はため息をつき、今度は成瀬に電話をかけることにした。
「成瀬のやつなら出るだろう、 どうせナンパとかをしてるはずだ」
あいつの予定はわかりきっているし、どうせナンパに失敗して暇になってるに違いない。
そう思いながら電話をかけると、意外に早く繋がる。
「おい、 俺だ。 今から会えるか? 貸しスタジオで、 音を合わせよーぜ」
「……」
俺がそう話しかけても、返事が返ってこない。
「聞いてんのか成瀬! なんか、 しゃべれや」
一度スマホを耳から離し、画面を見る。
画面にはきちんと通話中と文字が書かれていた。
しかし、成瀬の声はまったく聞こえてこない。
「んんんー、 もしもし、 誰?」
「仙道だよ! てめえ寝てやがったな、 バンドをやるって言ってただ……ん?」
電話の相手は成瀬なはず。しかし、その声は女の声だった。
ーーピッ!
俺は通話ボタンを切り、もう一度スマホを確認する。間違い電話かと思って画面を見るが、やはり名前は成瀬だ。
どういうことかと頭をひねり、俺はまた通話ボタンを押した。
ーートゥルルル! ガチャ。
「はい……って、 これ成瀬君のスマホじゃん。 成瀬君ってば、 電話が来てるよ?」
「あん? ったく、 誰だよ……もしもし?」
間違いなく、成瀬と女が一緒にいる。昼間まで寝ていたことを考えると、もはや答えは一つだった。
「このくそやろうが……学校クビになれや」
そう低い声で一言だけ話し、俺は電話を切った。
これでバンドメンバー全員に連絡をとったが、すべて空振りに終わる。
「だああああ! どいつもこいつも、 停学中を満喫してやがるな!」
あまりにもイラついた俺は、大声を上げる。
「晴樹! 近所迷惑でしょうが、 静かに反省してな! このバカ息子が」
「……うるせえ、 ババア! こっちはそれどころじゃねーんだよ」
俺の大声を聞いて注意をする母親に、さらに大きな声で反抗する。
このまま自宅にいるのも腹ただしい俺は、ギターを担いで家を出る。
「ギター背負って外に出たはいいけど、 どこに行こうかな」
しばらく歩く俺は、これからなにをしようか考える。せっかくギターを持っているのだから、行き先は一つしかない。
「そうだ、 楽器屋に行こう! 予約してないけど貸しスタジオくらい入れるだろう」
この時間帯ならば、他に借りている人も少なくはず。ギターがあれば、一人でも弾ける。
そう思いついた俺は、駆け足で楽器屋へと向かうことにした。
ーー本日、 定休日。
楽器屋に着いて店の扉に、そう貼り紙が貼ってある。
「んなバカな話があるか! なんで、 今日が休みになってんだよ!」
誰もいない楽器屋の前で、俺は怒りを露わにする。
これはあれか、ロックの神様が休めと言っているのだろうか。
「いや! ここまで来たら、 意地でもギターを弾いてやる!」
みんなに声をかけるも、反応なし。自宅にいれば親がうるさくて、ギターも弾けやしない。
そんな鬱憤が溜まる俺は、なにがなんでもギターを弾かずにはいられなかった。
「うおおおー! ここで弾いてやろうか、 誰もいない楽器屋の前で」
俺はそう叫びながら、ギターをケースから取り出すとギターストラップを肩にかけた。
「路上で弾き語りでもするか? けど、 アンプないから生音になるな」
ぽつんと一人、店の前でギターを構える俺は、そんなことを口にする。
すると、向こうのほうからポリスメンが現れた。
「あのー、 ちょっといいかな? 君、 こんなところでなにをしているんだい?」
「え? 見りゃあわかるっスよね? ギターを持って弾き語りっス」
「君、 学生さん? こんな時間に、 学校はどうしたの?」
「いっ、 いや……あのですね」
これは、まずい状況になるに違いない。
まさに世に言う職質で、あきらかにポリスメンたちは俺をジロジロと見ている。
もし俺が学生で、学校と家に電話をされたら停学が退学になってしまう。
そうなったら、最強最高のロックバンドになるどころの話ではない。
「とりあえず、 暑で話を聞こうか」
ーーこいつら、 俺を非行に走るヤンキーだと思ってやがるな。
このままでは、最悪の事態になりかねない。
なにか策はないかと考えるが、ポリスメンは無線を使おうと手を伸ばした。
「おい、 こんなところでなにしてんだ? 店の仕事が残ってんだろ」
そう声が聞こえて振り返ると、そこには高村が野菜のダンボールを自転車に乗せながらまたがっていた。
「あー、 おまわりさん。 そいつ、 うちの従業員ですよ?」
「……あなたは?」
高村はポリスメンに、自分が八百屋で働いていることを説明している。
「彼は学校を中退しましてね、 うちで雇っているんすよ」
「そっ、 そうっす」
その場を切り抜ける嘘だとわかっている俺は高村の話に合わせる。
「最近、 不審者がこのあたりにいると通報がありましたからね。 そういうことなら、 わかりました」
なにか納得したポリスメンたちは、特に追及することなくそう言うと、去っていった。
「ふひぃぃー、 あぶねえ」
ポリスメンがいなくなると、俺はその場に倒れ込み、一気に緊張が抜けた。
「ったく、 なにしてんだおまえは。 警察に絡まれて」
「いやあ、 俺は高ぶった感情をギターで発散しようと」
呆れながら話す高村に、これまでの経緯を話す。
「はあ? 停学? なにしたら、 あの学園を停学になるんだよ」
「……ゲリラライブ」
そう話した後、高村はゲラゲラと笑い始める。
「笑うんじゃあねえ! それでも、 それなりにライブは盛り上がったんだぜ?」
俺は笑う高村に、必死になってゲリラライブのことを語った。
「へえ、 それじゃあ多少はバンドが変わったってことか?」
ライブやバンドのこととなると、やはり関心があるのか、高村は興味深そうにそう尋ねる。
「そうなんすよ! 俺たちのオリジナルソングで会場がぶわぁぁっと……あっ、 そうだ!」
俺はなにかを閃いたように、途中で言葉を遮る。
「高村さん! これから、 高村さんの家に行っていいすか? いや、 行くわ」
「……は?」
有無を言わさずに、高村を引っ張って俺はズカズカと歩き出した。
ーーこいつに今なら俺たちが作ったオリジナルを聴かせれば、 なにかしら新しい道が開けるはずだ。
そう思いながら、俺は高村の家に向かう。




