第30話「学園ゲリラライブ! 後編」
俺が最初に飛び出し、シゲたちも続いて飛び出した。
ーーゴロゴロ、ゴロー!
ドラムセットが乗っている台車を小野寺が押し、ステージにはライブをやるフォーメーションが出来上がっている。
正面にはなにが起きたわからない様子の、全校生徒。
辺りを見渡すと、よく見る顔もそこにあった。
「おい……さすがに銀行強盗が被るような目出し帽はまずいんじゃねーか?」
「これでいいんだよ! 俺たちが誰かわかったら、先生に通報されちまうだろ」
側に寄ってきた成瀬が小声で話しかけてくると、俺はそう答える。
「けど、あきらかに戸惑っているよね。僕らは完全に不審者だよぅ」
「大丈夫大丈夫! 演奏を始めれば、そんなことは忘れちまうって」
シゲまでも話すけれど、ステージに現れたならば仕方ない。もうライブをやるしか、道はないのだ。
徐々に弾いたギターの音が、フェードアウトしていく。
俺はすかさず、マイクに向かって改めて話をする。
「えー、いきなりで悪いがしばらくは俺たちのライブを聴いてもらう」
再度、この状況に困惑する生徒たちに俺は説明した。
「仙道、早くやらねば先生たちが来るぞ。俺はいつでもドラムを叩ける」
「そうだな、トークは終わりだ……おっぱじめるぞ!」
小野寺は俺の言葉を聴くと、にやりと笑いドラムスティックを軽く回して勢いよく叩く。
ーーヅンッ! ダン! ヅンヅン、ダン!
リズム良く叩かれたドラムの打音が、会場に響く。
曲が始まる前のパフォーマンスといいたいのか、小野寺は豪快に叩いている。
やる曲はオリジナルの一曲のみ。
俺たちは小野寺のドラムに耳を傾けて、タイミングを図る。
ーーリズムパターンが変わる瞬間に、一斉に合わせるぞ。
俺はそうシゲと成瀬にアイコンタクトをすると、ギターに目を向けた。
同じようにシゲたちも、いつでも弾ける体勢に入っている。
ーーヅンッ! ダン! ヅヅッンダン!
ドラムパターンが変わった。
俺たちはそのドラムの音を聞き漏らさず、抜群のタイミングで一斉に弦を弾いた。
その瞬間、すべての楽器が一つになり音を奏でる。オリジナルソングのイントロだ。
ギターのリフが強く強調され、コードを押さえる指を滑らかに弾く。
アンプからは疾走感が溢れる音色が、体育館に爆音で鳴っていった。
全校生徒すべてとはいかないが、少なくとも何人かはその音色になにかしら反応を見せる。
そう感じるような雰囲気を、俺はギターを弾きながら感じ取った。
俺はすうっと軽く息を吸い、すぐに来るボーカルパートに意識を集中する。
シゲが考えた曲に、みんなの弾く楽器がそれを表現する。だが、まだまだこれからだ。
曲には歌がなければ、完成じゃない。
ーー見てろ、俺のボーカルがあって曲のすべてが始まるんだ。
俺はマイクに口を近づけて、大きく歌い出した。
みんなが弾く音に乗せ、俺の歌声が重なりスピーカーから聴こえる。
それを聴き、俺のほうを見ているかなでがいた。
この曲は英語の歌詞で、聴けばロックなものに感じるだろう。
だが、ただのロックではない。
かなでに対する俺なりのラブソングでもあった。
ーーかなで、この歌はおまえがいたから出来たんだぜ!
それを伝えるように、俺はさらにヒートアップするように歌い弾く。
「へえ、悪くないじゃん! 結構かっこいい曲じゃね?」
「たしかに、演奏も上手いねー」
そう話しているかのように、次第に体育館は盛り上がっていく。
それは、俺たちのバンド演奏が受け入れられている証でもあった。
前のひどいライブをやった時のような空気ではなく、きちんと盛り上がりを見せている。
ーーそうだ、これが俺の求めていたライブなんだ!
俺はそう思うと、ギターを弾く音がいつもより変わった。
それは俺だけじゃなく、みんなも同じだ。
耳から聴こえてくるギターやベース、ドラムの音がいつもよりいい音になっている。
みんななんだかんだ言いつつ、この状況を楽しんでいるような音色だ。
曲もサビへと入り、この曲の良さがもっとも感じることができるパートまで来た。
ーーさあ、こっからいいところなんだ!
俺はギターをかき鳴らし、サビを歌おうとした。
「なんだなんだ! この騒ぎはー! 誰が、勝手にこんなことを」
体育館の騒ぎに気がついた先生たちが、慌てて入ってくるなり叫び出す。
ステージに立つ俺たちに目線をやると、さらにその声を大きくなった。
「なっ……なんだお前たちは! そこでなにをしているー!」
ーーちっ、思ってたより現れるのが早いな。
まだ曲は途中で、ここからがいいところである。とは言っても、演奏を止めることはできるはずはなかった。
俺はギターを弾く手を止めずに、構わずにサビを歌う。
先生の怒号が飛び交うけれど、俺が歌ったサビを聴いた生徒たちがそれ以上に歓声を上げる。
朝の全校集会にも関わらず、まるで体育祭のような熱気があった。
「今すぐステージから降りなさい! おまえたちも、静かにするんだ!」
先生が集まる群衆をかき分けて、俺たちがいるステージへと向かってきた。
「どうしよう……これ以上はまずいよ」
「ここで捕まったらアウトだぞ! どうすんだ、仙道」
曲は最後まで弾いていない。けれど、目の前には向かってくる先生たち。
成瀬やシゲがそう口にしながら弾いているが、俺はまだ歌っている。
サビのところを歌った俺はマイクから離れ、ぐるりと後ろを振り向く。
ーー仕方ない、ライブはここまでだ。 だが、きちんと締める。
そう目でみんなに伝え、俺はギターコードの進行を変えた。
ーーギュイィン! ジャカジャカ、 ジャッジャーン!
サビからBメロに入るところを、俺はすっ飛ばしてアウトロを弾く。
突然の変更に戸惑うだろうと思っていたが、みんなはそれにきちんと対応できて合わせる。
ラストは小野寺のドラムが勢いよく叩いた。
「よし、エンドロールだ! みんな……ジャンプだ!」
曲が終わる、最後の数秒。
俺たちは同時に、勢いよく楽器を持ったまま飛んだ。
ーージャアァァン! ジャララン!
そしてラストのフレーズを弾き、曲が終わった。
「サンキュー! ウィーアー、 ロックンロール!」
変なテンションのまま、俺はマイクでそう叫んだ。
「どの組の生徒だ! そこでじっとしてなさい」
「やべえ! すぐそこまで先生が来ちまった!」
「わあああ、どうしよう晴君」
このままステージにいては、捕まるのは確実。
「よし! みんな、猛スピードで逃げるぞ!」
そう叫んだ後、俺たちは勢いよくステージから逃げた。
「こらー! 待ちなさいー!」
逃げる俺たちを追いかける先生。
だが、体育館に集まった生徒たちからは大きな歓声が鳴り止まない。
人を惹きつけることができると思えたゲリラライブになった。
「やっぱり、ライブは最高だぜ!」
走り逃げながら、俺は思いっきり叫ぶ。
俺たちロッケンローラースターズの活動は、まだまだこれから。
最強最高のロックバンドになるのだから。




