第29話「学園ゲリラライブ! 前編」
「……おい、本当にやるのか?」
早朝の校門前。まだ誰も登校していない時間帯に、俺はみんなを呼び出した。
眠たいようでだるそうな声で、成瀬は俺にそう尋ねた。
「当たり前だろう! 今日やらないで、いつやるんだよ」
「けど……大丈夫なのかな?」
シゲは心配そうな声で、ぽつりとつぶやく。
「もしなにかあった場合は、仙道が責任を取るのだろう?」
「責任もクソもあるか! 俺たちはロックンローラーだ、んなもん考えるかよ」
みんなどこかやりにくそうな雰囲気の中で、俺はそう叫ぶ。
今日、学校では久しぶりの全校集会が朝に行われる。
生徒から教師まで、すべての人間が集まる日でもあった。
「段取りは話した通りだ。みんな気合い入れてやるぞ」
そう言って、俺はみんなにあるものを手渡した。
「下手すると……退学になりそうだね」
「いや、場合によっては逮捕される可能性もあるな」
「だあああ! ぐちぐちと言ってないで、 人が来る前に準備をしてくぞ」
俺は開いていない門戸をよじ登る。
「わあ、待ってよ晴君!」
「やれやれ、困ったやつだな」
「とか言いつつ、おまえも案外楽しんでじゃねーのか?小野寺さんよぅ」
みんなも後に続くように、よじ登っていく。
「体育館は……空いているね」
忍び足で歩き、体育館に着いた。
シゲが言うように、体育館の扉のカギは空いており中に入れそうだ。
ーーシーン。
誰もいない体育館は、当たり前だが静まりかえっており無音だ。
「うちの学園長、マイクで話す時は近くにスピーカーを置いてしゃべってたよな」
「そうだね、昨日のうちに準備してたのかな? ステージにスピーカーが置いてあるよ」
マイク用のスピーカーが二つ、演台の横に置かれているのをシゲが見つける。
学園長は放送用のを使わず、なぜかこのスピーカーで長い話をしていた。
それに目をつけた俺は、思いついたことを口にする。
「こいつはボーカル用のマイクに使おう」
俺はマイクスタンドに繋がるケーブルに、ボーカル用のエフェクターを加える。
「ほら、おまえたちも自分たちのアンプを置け」
「けどさ……こんなに置いたら違和感があるんじゃない?」
「大丈夫だよ! スピーカーが増えたって、わかりはしねーさ」
みんなは俺に言われるがまま、アンプをステージに置き始める。
「仙道、ドラムはどうすればいいのだ? 後ろに置いたら、 さすがに気づくだろう」
「ていうかよ、ドラムはどこにあんだよ。小野寺の家から持ってきてねーぞ?」
成瀬が鋭い指摘をするが、それはすでに考えている。
「ステージの隅っこに隠れて見えないところがあるだろ? あそこにドラムセットがあるんだぜ」
わざわざ音楽室からドラムを運びたくないのか、なにかの演奏発表会用のドラムがあることを話す。
「ドラムが台車の上に乗ってるから、ライブが始まる瞬間にコロコロッと小野寺に運んでもらおう」
「……たしかに、押せば下のローラーが回るな。よし、そうしよう」
「いや、納得すんのかい! あきらかにバタバタしちまうじゃねーか」
ふむふむと納得している小野寺に、成瀬はそうツッコむ。
「早くセッティングしないと、先生とかが来ちまうな。サクッとやるぞ」
時間を見れば、先生たちが学校へ出勤する時間になりつつある。
俺はそうみんなに話し、ライブができる準備を急がせた。
しばらくしてすべてのセッティングが完了すると、俺たちはステージの一番端っこに隠れる。
ここは体育館の正面から見ると死角になっていて、ぱっと見たらわからない。
垂れ幕もあって、カモフラージュするにはもってこいの場所だ。
「まさか、みんなが集まるまでここにいるのか?」
「ああ、全校集会が始まったら勢いよく飛び出す段取りだ」
「けど……教室で出席確認をするだろうし、いないのはわかっちゃうんじゃない?」
「仙道の考えはよくわからんな!」
絶対にうまくことが運ぶと思っていない口ぶりで、各々がしゃべる。
ーーったく、ライブをやってのけるくらいの覚悟はねぇのか。
呆れながら俺は黙り、時間になるのを待つ。
次第にガヤガヤと人が体育館に入る気配を感じる。
「おはようございます、今日の全校集会はよろしくお願いします」
姿は見えないが、先生たちの声が体育館に響き渡る。
俺たちは息を潜めながら、バレないように気配を消す。
「あれ? スピーカーって、こんなにありましたっけ?」
ーービクリ!
先生がステージにある、スピーカーの数に気づいたようだ。二つしかないはずなのに、三つ増えているのだから違和感があるのだろう。
「どどど……どうしよう晴君、さすがにバレちゃうよ」
「異変に気がついてアンプを持っていかれたら、ライブなんかできねーぞ?」
「静かにしろ、話してたら見つかってしまうだろうが」
慌てるシゲたちに、俺は小声で話す。
「学園長が追加で設置させたのでしょう、あの人はスピーカーにこだわりますし」
「ああ、そうですな。なら気にせず、他の準備をしてしまいましょう」
先生たちはそう話すと、ステージにあるものに目もくれず準備作業を始めた。
ほっと胸を撫で下ろした俺たちは、準備を終わって去っていくまで身を潜める。
「あぶねーあぶねー、あやうくライブが台無しになるところだったな」
「学園長がスピーカーにこだわってたとか、知らなかったね」
「……いや、先生たちも明らかに違和感があるのを気づけよ」
なんにせよ危機は去り、後はゲリラライブを無事にやるだけだ。
「んで、この後はどうすんだ?」
成瀬は俺にそう尋ね、俺は答える。
「全校生徒が集まるのは学園長が来るより先だ、そこを狙って颯爽と登場する」
「つまり、学園長がステージに上がる前に俺たちのライブをやるわけか」
生徒が体育館に集まって、学園長の話があるまで多少の時間はある。
そこを狙ってゲリラライブをやるのが、
俺の計画だ。
ーーまさに奇襲攻撃。
先生たちが止めに入る前にライブをやり切る。
それが俺の考えたゲリラライブ。
「作戦は悪くはないが、音に気がついて先生たちが駆けつけるのではないか?」
「そうなったら、悪あがきでもなんでもやって演奏を続行する!」
目的は学園でのライブと、オリジナル曲を認知させることである。
少しでもインパクトを残せれば、バンドとしては成功と言えるだろう。
「もう腹を括れ! 俺たちのバンドを学園のやつらに見せてやるんだ」
俺はみんなに話すと、また体育館がガヤガヤとし始める。
「登校してきたみんなが、体育館に入ってくる音だ」
それに気がついたシゲが言い、俺はギターを肩にかけた。
体育館に生徒が集まり出している。
いよいよ俺たちのライブをスタートさせる合図だ。
「全生徒が集まったような雰囲気になったら飛び出すぞ」
「だああああ! こうなればヤケだ、やるなら全力でやってやろうじゃねーか」
「うむ、やるしかあるまい」
「……頑張ろうね、みんな」
俺に続くようにみんなも楽器を持ち、スタンバイをする。
「あ、忘れてた。みんな、渡したやつはきちんと被れよ」
俺はズボンのポケットから、それを取り出して被る。
体育館には大勢の人が集まったような雰囲気を感じ、俺は深く深呼吸をする。
「よし、今だ! 行くぞ……おまえら!」
気合いを入れたように叫ぶと、俺たちはステージに飛び出す。
勢いよく飛び出した俺たちは、ステージに立った。
「なんだなんだ?」
見ると生徒が体育館にゾロゾロと集まっていた。俺たちの存在に気がつき、誰かがそう口にした。
ライブハウスと似たような雰囲気の中、俺はマイクスタンドにあるマイクに向かって叫ぶ。
「みんな! 悪いな、全校集会が始まる前にライブをやらせてもらうぜ!」
突然のことに、目の前にいる連中らはどよめく。
そんな俺たちに向かって、誰かが尋ねた。
「一体、おまえたちは誰なんだー?」
その声を聞いた俺は、答えるようにまた叫ぶ。
「俺たちは、最強最高のマスクドバンドマン! ロッケンローラースターズだああああ!」
叫んだ後に俺はギターのネックを握り、右手に持ったピックを弦へと走らせる。
ーーギュワワワァァン!
爆音で鳴るギターの音が、体育館全体に向かって鳴り響く。
最強、最高のゲリラライブが今始まる。




