第28話「ライブをやる!学校でだ……その方法は」
すべてのパートが完成し、俺たちはオリジナルソングを中心に練習を再開した。
最初は文句をダラダラと言っていた成瀬も、弾くたびにモチベーションが上がっていくのが見ていてわかる。
ーージャンジャカジャカ! ジャラーン!
この日は久しぶりの貸しスタジオでの演奏で、いつもより爆音でギターが鳴る。
「ふう! 少し、休憩にしようぜ」
そう俺はみんなに話し、ギターを肩から外す。
「やっぱり、楽器を弾くとかなり体力を使うよね」
「うむ、ドラムを叩くたびにいい汗をかくことができるな」
スポーツほどではないが、シゲたちが言うように音楽も体を動かす。
練習を何回かやるたびに、疲労感が出てしまうものだ。
「おまえらもバンドマンなんだから、日頃から体を鍛えろ!」
「そういうおまえも、はあはあって息が上がってるじゃねーか」
「成瀬ぇ……俺は、ギターとボーカルの二つのパートをやってんだぞ! 疲労はおまえの倍なんだよ」
俺がそう話すと、成瀬は汗拭きシートで頬を拭く。
ーーおめえも汗だくじゃねーか。
そんな成瀬の姿を見ながら、俺は心の中で思う。
しかし、それだけみんなが練習に集中している証拠だ。
早くライブで披露したいという気持ちは、同じなのだろう。
「ところで、本当に学校でライブをやるつもりなのか?」
「ああ、ライブハウスでやる前にまずは全校生徒の前で弾こうって計画している!」
小野寺の問いに、俺は声を大にして答えた。
いきなりライブハウスでオリジナルソングをやるのはハードルが高い。
そこで、小手調に学校でやることを俺は思いついていた。
「けど……学校でライブをするイベントってあったかな?」
「……ないな。今の時期は行事もないはずだ」
「つーか、どの時間でやんだよ? 放課後にやるにしても、ほとんどが部活をしてんだろ」
みんなが言うように、バンドのライブができるような時間や場所は今のところない。
ライブをやろうとする計画は立てたものの、その点が問題だ。
「仮にしようとしても、一番重要なのは先生たちの許可だよね」
シゲが言ったことが、ライブをやる上でもっと悩ませる種である。
「うちの学校はそういうに厳しいからな、一筋縄ではいかんだろう」
「シスターの鈴谷先生がそうだよね……ロックのライブとか許してくれなさそう、特に晴君がやる場合は」
そうシゲが小さくつぶやくと、みんなは俺のほうを向いてため息をつく。
「なっ、なんだよ! 別に俺は迷惑をかけたことはないぞ」
「先生にマークされてんの、知らねーのか?」
「本人は無自覚ということか……」
まるで哀れむかのように、小野寺は手を合わせて拝み出した。
「とにかくだ! なにがなんでも学校でライブをやる! 先生たちは……俺がどうにかしてやらあ」
先生や学校を説得する方法を思いつかないまま、俺はそうみんなに話す。
こうして、俺たちのリベンジライブに向けて動き出した。
「まずはどこでやるかなあ」
練習を終えた帰り道、シゲと歩きながら俺は頭をひねる。
「普通なら体育館だよね? 広さや設備が整っているし」
「ああ、学校のライブと言えば体育館のステージさ」
シゲも一緒になって考えてもらいながら、俺たちは話しながら歩く。
「けどそのためには、やっぱり学校の許可が絶対だね」
「まあなあ、ぶっちゃけて先生が許可出すとは思ってねえよ」
部活動としての申請ならわかるが、俺たちは部活でバンドを組んではいない。
先ほども話したが、そんな俺たちに学校は認めないだろう。
「やるなら早くライブがやりてえよ! せっかくのオリジナルソングだぜ?」
「気持ちはわかるけど、そこはきちんとしなきゃだよ?」
「うーむ……」
シゲに念を押されて言われてしまうが、果たしてどうしたものか。
そう思いながらふと目をやると、別の楽器屋に止まる。
ギターはすでに愛用のものがあるが、音楽をやる者としては楽器屋が目の前にあったら入りたくなるものだ。
「晴君、また楽器屋さんに行きたいの?」
そんな俺に、シゲは尋ねた。
「ああ……金はないが、新しいギターとか見たいな」
「早くしないと暗くなっちゃうよ?」
「まあまあシゲ、 気分転換に行こうぜ? おまえも弦とかピックは買い足しておけ」
あまり乗り気でないシゲの腕を掴みながら、俺は楽器屋へと入る。
入った途端、たくさんのギターやベースが壁一面にかけられていた。
「はああああ! やっぱり楽器屋はいいよなあ、いろいろなモデルのギターがあるしよ」
「テンションが上がるのはいいけど、前みたいに数時間も入り浸るのはなしだよ」
前に二人で来た時は、ついギターに目移りして何時間も店にいたことがあった。
そんなことがあったからか、シゲは俺にしつこく時間を気にするように話す。
レスポールにストラトキャスター。さらには、SGからリッケンバッカーなどありとあらゆるモデルがそこかしこにある。
「いらっしゃいませー! ギターをお探しで?」
俺がギターを見ていると、横から店員が現れてはそう聞いてきた。
楽器屋あるあるで、高確率で店員は客に絡んでくる。
先ほどの店員の言葉は、まさにテンプレだ。
「こちらは新しく入荷したモデルでして、すごくいい音が鳴りますよー」
「マジっすか! 最強のロックな音とかになります?」
「晴君……」
店員の口車に乗せられた俺は、上機嫌にあれこれ聞きまくる。
もちろん買うつもりなどない。だが、ギターのこととなると無駄に尋ねてみたくなるものだ。
「そちらのお客様さんは初心者の方ですか? なら、こちらの入門用もおすすめしますよ!」
俺が買う気がないのを察したのか、店員はシゲに向かって話しかける。
「え? え? いやあ、僕は……」
「まあまあ! 初めて買われるお客さんはこういうのとかいいですね」
見た目的に初心者に思われたのか、シゲは店員の勢いに押されている。
ーーシゲはああいうタイプの人にガツンと断るとかできないからなあ。
優しい性格のシゲを知っている俺は、そう思いながら二人のやりとりを見る。
楽器屋には他にも、ゾロゾロと客が入店してくる。俺たちにはような学生や、スーツを来た人たち。
いかにもギターやらベースをやってますみたいな雰囲気があるのがわかった。
「……ん? なんだ、あいつら」
客の中に、あきらかに楽器屋に不釣り合いな連中がいた。
「さあ! さっそく貸スタジオで練習しようではないか!」
「ちょっと先輩、あまり店で大声を上げないでくださいよ」
やたらでかい声を出すおかっぱ頭に、後輩らしいやつが注意している、
どうにもバンドをやるような見た目ではなく、いかにも根暗っぽい。
「なにを言うか! これも我が同好会の活動の一つである。今度こそ僕らの実力を見せつけてやるのだ」
ーーったく、オタクみたいなやつがバンドをやってんのか? 似合わねーな。
店内で一際目立つやつらを見ながら、俺はそう頭の中で言う。
「一人でゲリラライブをやった時とは違うのだぞ? そのために今日は貸スタジオで練習するんじゃないか」
そうおかっぱ頭のやつは、後輩に向かって言い放っている。
「なにがゲリラライブだよ……ゲリラライブ?」
俺はその言葉にピンとくる。
告知や宣伝なしの、突然開かれるバンドの生演奏。
かの有名なロックバンドも、ゲリラライブをやっていたことを俺は思い出す。
「そうだよ! ゲリラライブだ! なにが先生の許可だ、んなもん必要ねえ」
まさにロックンローラーならば、誰もが通る道みたいなものだ。
「おい、シゲ! ゲリラライブだ、 俺たちもゲリラライブを学校でやるぞ」
俺はシゲのほうを振り向くが、姿はない。
「ふえーん、晴君……」
すると、シゲはなぜかギターケースを二つ背負ってレジからやってくる。
「おまえ……それ」
「店員さんの勢いがすごくて買っちゃったよー」
よりにもよって、いりもしない入門用ギターセットを購入したシゲ。
少なく小遣いで買ったやつには、同情しかない。
「いや、そんなものどうでもいい! さっそく帰って計画を練り直すぞ」
「ううう。なんの計画?」
悲しみに暮れているシゲに、俺は思いついたことを話す。
ーーゲリラライブ。
それが俺たちがやるべき、学校でのライブなんだ。




