第25「未完、オリジナルソング!」
ギターを弾き終わり、軽いノイズだけが部屋に流れる。
シゲが作ったオリジナルソングのギターパートを通しで弾ききった。
「……」
俺は右手を下げ、ジッと自分のギターを見つめる。黙りながら、ただその余韻に浸っていた。
横で聴いていた成瀬や小野寺も、同じように喋らない。
「……どうだったかな?」
その空気に、シゲは気まずそうに俺たちに尋ねる。
「いや……すげえよ、こんなかっこいいリフを弾けるとは思わなかった」
俺はそう率直に感想を述べる。
複雑な弾き方やテクニックは少なく、シンプルだがどこか新しい。
なにかの曲と似たような曲調でもないし、弾いてて驚くばかりだった。
「うむ、仙道の言う通りだ。聴いていて新しさを感じた」
「まあー、仙道の弾きは大したことねーけどな。けど、いい曲になりそうじゃねーか」
「……悪かったな! ギターが下手でよ!」
成瀬の嫌味に俺は答えるが、曲自体はみんなも好印象だ。
シゲが作った曲に、俺たちがやることは一つだった。
「よし! なら、さっさと他のパートも考えて曲を完成させようぜ」
ーーベースにドラム。そして、ギター。
それ以外にも、この曲にいろんな音を組み合わせていく。
シゲが作った曲を、みんなでよりいいものに仕上げなければならない。
きっとすげえ曲になるに違いないと、改めて思った俺たちはすぐに行動に移した。
「ドラムパターンは、前に言ってたやつでいいんじゃないか?」
「アップテンポなリズムのほうが、 曲のイメージに合うしな……それでいこう」
「ベースは下手な小細工を入れないで、 ギターに重なればいいんじゃね?」
「はあ? なにかしらベースソロとか入れねーのかよ!」
それぞれが互いのパートに、様々なアイデアを提案していく。
学園祭の出し物を決めるかのような、どこか楽しく真剣にみんなで意見をぶつけるような。
気がつけば楽譜の用紙にコードやタブが書き乱れ、ギターパートしかなかった文字にベースやドラムが描かれていく。
俺はギターを片手に、それを弾いては直しを繰り返す。
オリジナルソングが、形になろうとしていた。
「とりあえず……やってみるか?」
しばらく日が過ぎ、場所は小野寺の神社。練習場所である宝物庫の中で、俺はそうみんなに尋ねる。
この日は、オリジナルソングのオケが完成して、全員で合わせてみようということになっている。
「う……む、果たしてうまく叩けるだろうか」
ドラムの後ろに座っている小野寺は、不安そうに言葉を漏らす。
「はっ! なにをびびってるんだ、俺様は自分のベースを完璧にしてきたぜ」
小野寺とは逆に、成瀬は自信たっぷりに話しながらベースを構えていた。
「うまくいくかはわからないけど、 みんなで合わせて弾くんだからきっと上手くいくよね……晴君」
「あ、ああ……とりあえず曲の雰囲気がどんなものかわかればいいんだ」
あくまで仮曲というのを前提に、これから弾き始める。
悪かったところを見つけたならば、そこをまたみんなで改良すればいいのだ。
しかし、久しぶりに全員で曲を弾くのだから多少の緊張と不安はある。
「ぐだぐだしてねーで、やろうぜ?」
「うむ、あとは野となれ山となれだ! 覚悟はできている」
それぞれがやる気になったところで、俺たちは自分の立ち位置へと立つ。
右に成瀬のベース、後ろには小野寺のドラム。真ん中に俺がいて、左横にはシゲがギターだ。
「オーケー、小野寺のスリーカウントで曲を弾くぞ」
俺はそうみんなに伝え、小野寺に向かってカウントを取らせる。
ドラムスティックを両手で持ち、それをクロスさせた後に小野寺は甲高い音を鳴らす。
カウントは三。俺たちは、その音に耳を集中させる。
ーーカン! カン! カーン!
そして三つ目の音が鳴った時、俺はピックを振り下ろした。
小さなアンプからギターの音色が鳴り、曲のイントロが聴え始める。
シゲが弾くギターを主軸に、俺はそれとは違うパターンのリフを鳴らす。
そこへ、成瀬のベースが重なり。小野寺が叩くドラムも合わさってきた。
ーーおお……すげえ。
全員で弾くイントロに、俺は驚いた。
まだ弾いてすぐなのに、きちんと音が一つになっているのだから。
それだけでなく、曲自体が想像していたよりもいい曲に聴こえてきたと思えるほど。
ーージャンー! ジャカジャカ!
サビに入ってしばらくして、次第に俺が弾くギターもテンションが上がり、鳴る音も雰囲気が変わる。
シゲが曲の基礎を作り、それをみんなできちんと形にできていることに俺は喜びを感じていた。
他のパートの音も、同じようにどこか音が違う。悪い意味ではなく、むしろ楽しんでいるような音だ。
弾くみんなは、俺と同じ気持ちだと聴いていてわかった。
「ふー! 気持ちいいな、バンドで弾くのは」
「うん……って、晴君! 弾きながらしゃべらないで」
弾きながら話す俺に、シゲはあたふたして話し返す。それと同時に、音がとちり始めてしまった。
そんな俺たちのギターに構わず、リズム隊である成瀬たちはきちんと曲を進行させている。
「……ストップストップ!」
曲の途中、俺はみんなに弾くのをやめさせた。
「なにしてんだよ仙道、せっかくいいとこだったのによ」
「悪い悪い。 つい曲が良すぎて、 テンションにつられてしゃべっちまった」
「ごめん、みんな……僕がギターをミスってしまって」
シゲは申し訳なさそうに、俺たちに謝る。
「いや、有本は悪くなかろう」
「そーそー、仙道の野郎が話だしたのが悪いのよ」
成瀬と小野寺はそうシゲにフォローして、俺を睨む。
「ははは……悪い悪い。けど、曲はすげえよかったな」
俺は平謝りをした後に、感想をもらす。
「ああ、ドラムを叩いていて気分がいいと思ったな」
「だろう? シゲが作った曲はすげーぜ」
中途半端なところで弾くのをやめてしまったが、オリジナルソングとしては満足な出来だった。
さらに仕上げていけば、ライブでやる日も近いのかもしれない。
「シゲ、おまえはどんどん曲を作れ! バンドのオリジナルはおまえに任せるぜ」
「えええ……そんなたくさんはすぐには作れてないよ」
ひとまず、曲をみんなで弾けたことは成功と言っていいだろう。
これから、さらにオリジナルソングを作って弾いていくのだ。
「つーかよ、大事なもん……忘れてね?」
俺がシゲと気分良く話していると、成瀬はそう口にする。
「ん? どうしたのだ成瀬、曲はほぼ完成して弾けていたではないか」
「そうだぞ、てめえのベースソロを入れようって魂胆か?」
「いや……そうじゃねーけど」
成瀬の疑問を俺や小野寺は、わからずに話す。
すると、シゲはハッとした表情で成瀬を見た。
「成瀬君……まさか」
「ああ、 そのまさかだろうよ……」
なにを忘れたかを思いついた二人は、同時に口にする。
「この曲……歌がない。ボーカルパートが存在してない」
辺りが静まり返る。
「………あっ」
俺はその言葉に、口がぽかんとする。
まさにそれであり、大事なボーカルパートを作っていなかったのだ。




