第23話「動き出す俺たち!切り札はシゲ」
小野寺の家でバンド練習を始めて、しばらく経った。
ドラムセットも無事に届いたようで、建物からはドラムを叩く音が響き渡る。
「ふむ、ドラムも来たしこれできちんとできるな」
「ああ! さすがに木魚じゃ、ドラムにならねーよ」
俺はギターを背負いながら、そう答えた。
バンドの練習場所が確保してから、学校が終わるとすぐに神社に集まる。
「成瀬君がまだ来ないね、どうしようか晴君」
「ち、あの野郎……また遅刻か」
練習を毎日やってはいるものの、成瀬の遅刻はもはや常習犯だ。
やつのことだ。どうせまた、ナンパでもしているに違いない。
「奴のことはほっとけ! とりあえず、軽く弾いてからみんなで音合わせだ」
そう話した後、初めにそれぞれが演奏をする。
俺たちなりのルーティンのようなもので、初めに数十分ほど個人練習から入る。
まるで部活のような始まり方だが、これが妙にみんながハマっていた。
シゲはギターでコードを弾き、手の動きを確認している。小野寺は、ドラムスティックで叩きながらビートを刻む。
ーードン! カッ! ドンドン、カッ!
「へえ、きちんとドラマーっぽくなってきたじゃねえか」
最初の頃よりも、そして初ライブで叩いた時以上にらしいリズムを刻む小野寺。
「まあな、俺も帰宅してからは教本を手に鍛錬していたのだ」
「なら、もう少し早めなテンポで叩けるか?」
始まって早々、俺は小野寺のドラムにギターを合わせようと企む。
「ダメだよ晴君、まずは個人練習が先でしょう? 小野寺君の邪魔になるよー」
「ぐっ……そういうのは真面目なんだな、シゲは」
シゲに止められた俺は、仕方なく自分の練習を始める。
ロックと言っても、様々なテクニックが存在する。フレーズも多用で、覚えるべきことが山積みだ。
ギターのチューニングを直し、俺はさっそく弦を弾いた。
俺も名のあるギタリストのような才能があれば、こんな苦労もしないのだろう。
ーー練習。そして、また練習。
地道なことだが、こうやっていろいろ覚えれば俺だけの音楽も見つかるはず。
そう思いながら、がむしゃらにギターを弾きまくる。
「いやあ、悪い悪い! 遅くなっちまったぜ」
しばらく弾いていると、遅れていた成瀬が合流する。
「ったく! おまえはいつもなにしてんだよ、学校が終わったらすぐ集まるって話してただろう」
「俺は音楽と学生生活は両方とも謳歌したいからな、青春しなきゃよ」
「……おめえの学生生活は、ほとんど女絡みだろうが」
悪びれる様子のない成瀬は、それでもベースをケースから取り出す。
チューニングを合わせ、なぜか太い弦を撫でてから軽く指で引っ掻いては叩く。
スラップ奏法というらしく、親指で弦わ叩くサムピンク。人差し指や中指で弦を引っ張って指板に打つけるプリング。
というのがあるらしく、成瀬は自慢げに話しながらやっている。
「ていうかよー、そろそろ練習以外にやることねーのかよ」
ピタッと音を止め、成瀬はそう俺に尋ねてくる。
「……練習以外ってなんだよ?」
「んなもん決まってんだろ、なにかライブに向けて曲を決めるとか」
「たしかに、集まっては個人練習やみんなで音を合わせてばかりだな」
「バカどもが! まだまだ練習を繰り返すに決まってんだろ、バンドのレベルアップが最優先だ!」
とは言ったものの、成瀬たちが言うように練習ばかりだとモチベーションが下がってしまう。
それはわかっているが、ただコピーするだけのバンドになってはいけない。
「おめーがやるようなことを言ってたオリジナルだっけ? あれも、曲とか作ったりしてんのか?」
「まっ……まだだよ! オリジナルをやるようなレベルじゃねーんだよ、俺たちは」
「単に曲が作れねーだけだろ」
「くっ……」
まさにその通りである。
オリジナルでやっていきたいと言ったのは俺だが、肝心のそれが作れない。
作れないをいいことに、集まり度に個人練習だと言い訳にしていたのも事実だ。
「仙道、そろそろバンドとして違うことをしてみるのもアリではないか?」
「そーそー、個人練習なら自宅で出来るじゃねーか」
そうは言っても、まだ俺たちは完璧なバンド演奏ができるとは限らない。
初ライブの時のような、悲惨な演奏をする可能性だってある。だからこそ、基礎をしっかりしようと思っていた。
最強最高のバンドになるために。
「晴君、失敗はしなくない気持ちはわかるけどみんなを信じようよ」
そんな俺にシゲは、そう優しく声をかける。
「最初から完璧なバンドなんていないんだから、失敗しながらでもいいんだよ?」
シゲの言うように、俺は失敗を恐れていたのかもしれない。
俺が求めているのは、最高のライブをやる最強のバンドだった。
だがみんなで成長していく、そんな良いバンドを作りたかったのかもしれない。
「わかったよ……なら、やるか! みんなで一つの曲を」
せっかく集まったのだから、バンド全体で弾くのがいいだろう。
失敗を恐れず、みんなを信じてやるしかない。
相変わらず、シゲは俺を正しい道へと導いてくれる存在だ。
「うむ、ならなんの曲をやるのだ? オリジナルがダメなら、やはり既存の曲か?」
「言っとくが、俺はビートルズはやらねーぞ! もっとクールなバンドにしろ」
「なら、ニルヴァーナか!」
「それはおまえの好みだろうが!」
やるにしろ、やはり曲を決めなければならない。
オリジナルが難しい今、やはりまた選曲で言い争うことになるのだろう。
「あのう……」
俺と成瀬が話す中、シゲはなにか言いたげそうな顔で間に入ってくる。
「どうした、シゲ?」
俺がそう尋ねると、シゲはギターを持ちながら一枚の紙を取り出した。
「実は……コード進行の練習をしてて、自分なりにちょっとフレーズを作ってみたんだ」
紙を見るとそれは五線譜で、本人が書いたであろうコード譜が並べられている。
「へえ、自分でか! おまえもそんなことができるんだな」
感心しながらそう答えると、シゲはその書かれたフレーズを弾く。
その短いフレーズが、後に俺たちにとってのオリジナル第一号になるとはこの時、誰も思いもしなかった。
ただシゲの思いがけない才能が開花する、片鱗だったのかもしれない。




