第22話「バンドメンバーにも絆は必要!」
数時間ほどそれぞれが練習していると、やたらと工場の音が響いてくる。
ーーガガガガ! ギギギー!
「すげえ音だな……建物の中にまで聞こえるじゃねえか」
「うむ、大規模な工事だからな」
変わらず木魚を叩きながら、小野寺は答えた。
アンプから音を出しているとはいえ、完全にこちらの音が負けるほどだった。
「一日、夕方までの作業だからな。もうしばらくすれば気にならなくなるだろう」
「まあ、それまで我慢するしかないよね」
「ったく! 俺様のベースが聴こえないのは、ナンセンスだな」
みんなは愚痴をこぼしつつも、手を止めずに弾いている。
ーー午後の四時半。
俺はスマホで時間を確認すると、その時間になっているのを確認した。
「少し休憩にするか? ここに来てから、ずっと弾きっぱなしだしよ」
みんなにそう伝えた後、それぞれが楽器を床に置いてだらけ始める。
「こんなに長く弾いたのは、久しぶりな気がするなあ」
シゲは自分の指を見ながら、ぽつりとつぶやく。手は真っ赤になっていて、弦を押さえていた痕があった。
「個人練習とは、だいたいどれくらいすればいいのだ?」
「んー、僕は一日に二時間は弾いていたかな」
小野寺は疑問に思っていたのか、シゲに尋ねる。
「はっ! 二時間もやるのか? 俺様に練習時間は必要ないね、天才だから」
「すっ、すごいね……けど、ベースを始めた頃は無我夢中だったんでしょう?」
「ま……まあな」
人間誰しも、最初からすごいテクニックを持っているわけではない。
音楽をやる奴は、その楽器に夢中になれるから上手くなっていくのだ。
成瀬だってベースが好きだから、本人は言わないけどきっとたくさん弾いてきたに違いない。
シゲはそれをわかっているから、そう口にしたのだろう。
「おまえらはまだまだだな! 俺は毎日休まずに、五時間は弾いているぜ」
そんな様子を見ながら、俺は自慢げに話す。
「……ほう、仙道はそんなに弾いてきたのか」
「そんなに練習してんのに、そこまで上手くなってねーよな!」
「うっ、うるせえ! 弾くことに意味があるんだ、ギターに魅入られてんだよ」
感心する小野寺を横に、成瀬は鋭い指摘をしてくる。
まさにその通りで、たくさん弾いているからってさほど上手くなっていないのが現実。
「でも晴君は、きっとすごい人になれるよ。毎日、一生懸命に弾いているもの」
「……シゲ」
今まで一番近くで俺を見ていたシゲは、そう誇らしげにしている。
ーーおまえだって、俺に合わせようとギターを頑張ってたのは知ってるんだぜ。
俺が一緒に始めようと誘ったギターを、嫌な顔せずにやってくれたシゲ。
考えれば考えるほど、こいつには感謝しかない。
「おまえら……もしかしてデキてんのか?」
そんな俺らを、引きつった顔の成瀬が気持ち悪そうにつぶやく。
「ふざけてんじゃねえ! 俺はかなで一筋なんだよ!」
「ははは……」
「ふむ、有本は否定しないのだな」
「こらシゲ! おまえも好きな奴くらい高らかに宣言しろ、誤解されるだろうが」
このままではホモォに思われてしまうのか、慌ててシゲに俺は叫んだ。
それをゲラゲラと笑う成瀬たち。
一緒に音楽をやる以外に、ここまでみんなで話が盛り上がったのは初めてだろう。
しばらくの間、俺たちは楽器を弾かずにダラダラと喋っていた。
気がつけばもう夕方が過ぎ、窓からは外が薄暗くなっていたのがわかる。
「やべえ! 練習もしないで話してたら、 こんな時間になっちまったじゃねーか」
ろくに個人練習もしていなければ、みんなと合わせてもいない。
俺は再びギターを手に取り、練習を再開しようとする。
ーーギュルルルー。
ふいに、大きく腹の音がなった。
「そういえばここに来てから飲み食いしてなかったな」
「そうだね、お腹も空いてくる時間だね」
「今日はここまでにして、そろそろ帰るか?」
辺りも暗いし、時間的にも帰る頃だろう。
正直、まだ練習していたい気持ちであるがさすがに長居はできない。
「仕方ねぇな……今日はお開きにして、 また次回に集まるか」
またバンド練習はできるし、とりあえず今回の練習は終わりにしようと俺はみんなに伝える。
「ふむ、しばし待て」
片付け始めようとした時、小野寺は俺たちを呼び止める。
そして、そのまま扉を開けて出て行った。
「……なんだ?」
俺たちは理由がわからなく、その場でポカンとする。
しばらく待ち続けていると、ガラガラと再び扉が開く。見ると、小野寺がお盆を両手に持ち入ってきた。
「わあ、いい匂いがする」
シゲは鼻をクンクンと掻く。
たしかに、なにか美味そうな匂いが部屋に漂っている。
「ちょうど夕飯の支度をしていたからな、 母さんに追加で作ってもらったのだ」
そう話した小野寺は、床にお盆を置いた。
「こりゃあ、まあ見事なスパゲティだな」
大皿には山のようなスパゲティが盛られていた。それ以外にも、サラダとスープ。
作られたばかりなのか、どれも煙がもくもくと出ている。
「いただきまーす!」
成瀬はすぐにフォークを持って皿に分けると、ガツガツと食べ始める。
「おい! 一人で食い始めるな!」
俺はそう怒鳴りつけるが、内心は腹ペコだ。
「気にするな仙道、 せっかくなのだから夕飯は食べていくといい」
「うっ……ああ、悪いな小野寺」
「それじゃあ、頂こうか」
シゲにそう言われた俺は、ガシッと手を合わせる。
「いただきます!」
勢いよく叫び、俺もスパゲティを盛ってから食べる。
「んんん! 美味いな、俺の母ちゃんが作ったものより美味え!」
喫茶店で食べるような、どこか懐かしいスパゲティ。
その美味さにびっくりしながら、何度も口にほうばった。
「お! ウインナーが余ってんじゃん、もらいー」
「ふざけんじゃねえ成瀬! そのウインナーは俺のだ!」
たかだかウインナー如きに、俺と成瀬は取り合いになる。
「ふむ、お茶でも淹れようか」
「僕も手伝うよ? わあ、ほうじ茶だ」
「ふっ、やはり食事の後はほうじ茶に限るからな」
争う俺たちなど気にすることなく、シゲと小野寺はお茶を入れようと動く。
慌ただしい夕飯の時間も終わり、あっという間に夜になった。
「そろそろ、 本当に帰る時間になったね」
「俺は腹いっぱいで動けねー」
食べ終わった後、成瀬はずっと倒れたままになり動こうとしない。
満腹な状態な俺たちも、また同じようなものだった。
さすがに遅い時間までいるのはまずいと思ったのか、シゲはなんとか俺たちに帰るように促す。
「ならよ! 体を動かして、カロリーを消費しようぜ!」
「あ? どうやってだよ」
俺は起き上がり、片付けたギターケースからギターを取り出す。
「これに決まってんだろ!」
帰る時間もすぐなのに、俺はギターを背負ってみんなの前に立った。
「えええー、さすがに夜に音を出すのはまずいよ」
「なんで飯を食った後に、また弾かなきゃならねーんだよ」
飯を食った後だからこそ、弾くべきである。エネルギーチャージをした今こそ、いい演奏ができるものだと俺は思う。
「ふっ、まあいいだろう。木魚でいいなら合わせよう」
小野寺は木魚を手に持ち、そうニヤリと笑いながら話す。
「あああー! だりい、だがまあ……一回は付き合ってやるよ」
「小野寺君、お家の人は大丈夫なの?」
「問題ない、気にせず思いっきり弾くといい」
仕方がない。渋々、付き合ってやると成瀬はベースを持つ。
小野寺に言われたシゲも申し訳なさそうにギターを肩にかけた。
「よーし! 最後にみんなで一曲、いくぜー!」
みんなが楽器を持ったのを確認した俺は、思いっきり弦を弾いて鳴らす。それに合わせるように、みんなも弾き出した。
神社でバンド練習を許可してくれたり、美味しい夕飯を作ってくれた小野寺一家。
俺はその感謝の気持ちを込めて、がむしゃらに弾いて歌う。
こうして、俺たちの本格的なバンド練習は終わったのだった。




