第17話「敗北のライブ後……俺たちは知る」
楽屋に戻った俺たちは、誰も言葉を発することなくうなだれている。
ライブは途中で止めてしまい、あげくに乱闘騒ぎ。慌てたスタッフに取り押さえられて、そのまま退場。
あんなに練習したのに、結局ライブをやりきることができなかった。
「……しっ、仕方ないよ。まだ僕らはバンドを組んで日が浅いもの」
場の空気が悪いのを察したシゲは、そうフォローをする。
たしかに、まだバンドとしては初心者の部類だ。
それでも練習はしてきたから、ある程度はバンドとしてやれたはず。
「うむ、有本の言う通りだ。初めてにしては頑張ったほうだろう」
シゲの話を聞いた小野寺は、腕を組みながら話す。
ーー初めてにしては頑張っただと? ふざけるじゃない……。
最強のロックバンドを目指し、最高のライブパフォーマンスをやる。
そう決意して、俺はみんなをバンドに勧誘させた。
高村にもあれだけ啖呵を切ったのに、片鱗すら見せちゃいない。
初ライブだから仕方ないとか、組んで日が浅いとかの話ではないのだ。
純粋に、俺たちのバンドがクソッタレなだけ。
「ごめんね……晴君、僕が初めにギターが崩れたからおかしくなってたよね」
「謝ることじゃないぜ、シゲ。俺だって、正直微妙な演奏と歌だったよ」
申し訳なさそうに話すシゲに、俺はそう答えた。
選んだ曲が悪かったのか、もしくは自分たちに合わない曲だったのか。理由はわからないけれど、シゲだけのせいではない。
「ふっ、俺のベースだけが完璧だったな。 おまえたちが俺のレベルに合わない話よ」
「ああ? ふざけんじゃねえよ、てめえが一人ではじけてたのが悪いんじゃねえか」
成瀬は汗を拭きながら、悪びれる素振りも見せずにいる。
俺はその態度に腹が立ち、強い口調で話した。
「落ち着いて晴君、また暴れたらライブハウスに来られなくなっちゃうよ」
「うむ……ここは冷静になれ、仙道」
二人に止められた俺は、その場に立ち尽くす。
ーーガヤガヤガヤ。
しばらく黙りでいると、なにやら騒がしい音が聞こえてくる。
「……なにかあったのか?」
やたら騒ぐ音を聞く俺は、楽屋の外へ出る。辺りを見渡し、音がするほうを確認した。
「ライブステージのほうから聞こえてくるな」
「今って、他のバンドがライブをしている頃だよね」
「たしか出演バンドのリストがあったな、 今はどのバンドだ?」
俺は楽屋に置いてあるリストの用紙を手に取り、出演バンドを確認する。
「……ドリームフラワーテイル?」
聞き覚えのないバンド名に、俺は頭をかしげる。
「たしか、かなでちゃんたちのバンド名だったかな?」
「なん……だと」
今、ステージでライブをやっているのはかなでたち。
シゲにそう言われ、俺は急いで飛び出した。
ーーかなでたちのライブならば、この目で見てみたい。
同じバンドマンとして、かなでたちのライブがどんなものなのか。今はその気持ちが強かった。
ステージに横から入れる扉を勢いよく開けた。
開けた瞬間、薄暗い空間に、光るライトがかなでたちを照らしている。
観客席からは歓声が聞こえ、熱気がフロアを包み込んでいた。
上原の弾くギターは音に迷いがなく、爆音を鳴らす。
彼女だけでもないし、ドラムやセカンドギターまでも同じだ。
その中でバンドの中心にいる、かなでのベースボーカルが一際目立つ。
可愛らしい声で歌うボーカルに、それとは違うかっこいいベースライン。
その姿はまさしく、輝いて見えた。
「すっ……すげえ」
俺はなにも考えずに、ただ一言そう口にする。
バンドとしてのレベル。そして、なにひとつ狂いのない演奏。
なにより、みんなが信頼し合って楽しく弾いている。
まさに、俺が求める最強最高のバンドが目の前にあった。
「かなでちゃんたち……あんなに楽しみながら弾いているんだね」
「うむ、あれはそう簡単に生まれる連携ではないな」
同じく横で見ていたシゲたちが、揃ってそう話す。
成瀬は黙っていたが、どこか悔しそうにかなでの弾くベースを見つめていた。
俺たちとは比べ物にならないほどのライブに、しばらく俺たちは立ち尽くすことになる。
かなでたちのライブが終わり、次々と出演バンドがライブを繰り返す。
どのバンドも観客を沸かせ、魅了させていく。
俺たちのバンドなど、存在しなかったかのような盛り上がりに俺は情けなさを感じた。
今日のイベントで、一番最低最悪なのは俺たちのバンドだったのだろう。
イベントも俺たちはなにひとつ成果を残せずに、終わってしまった。
「……ひでえな、俺たちは」
イベント終了後、再び楽屋に戻っていた俺はそうみんなに話す。
「せめて曲は最後まで弾くべきであったな、おまえたちの乱闘さえなければ」
小野寺は俺と成瀬をチラリと見て、静かに答えた。
「俺のベースだけが完璧だったのは事実だろう? おまえらの経験の無さが敗因なんだよ」
「んだと! 練習でしかまともに合わせられねーおまえが言うな!」
「まあまあ、二人とも! また喧嘩になっちゃってるよ」
シゲが俺たちの間に入り、必死に止め始める。
ーーコンコン!
ノック音が聞こえた後に、今一番会いたくないやつが楽屋に入ってきた。
「なんだ、まだ喧嘩していたのか」
「高村……さん」
俺たちの前に現れた高村は、そう口にする。表情は呆れてもいなければ、怒っているように見えない。
あれだけやらかしたのだから、キレてもいいだろう。
だがそうはせずに、ただ涼しい顔を見せている。それが無駄に怖い。
「あっ……あのライブは本当の俺たちがやるものじゃねえ! 今日は、調子が悪かったんだ!」
普通ならば、イベントの出だしで迷惑をかけたことを謝るべきだろう。だが俺はカッコ悪くも、言い訳っぽいことをグダグダ話す。
ーーだせえな、俺は。
言っている自分が嫌になってくるほど、みっともない。
わかっていながらも、認めたくない俺はただ誤魔化しつづけた。
すると高村は、そんな俺たちに向かって言葉を口にする。
それは俺が思っていることを代弁するかのようだった。
「なにが最強最高のロックバンドだ? おまえらは、ただの下手くそなど素人バンドだな」
その内容に、俺たちは言葉を失う。
俺たちバンドに向けられた、初めての感想だったのだから。




