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シモウサへようこそ!  作者: 一ノ宮ガユウ
7. 神々のうた
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96/153

#9 ルクフェネとアヤメちゃん③

挿絵(By みてみん)


「……」


「……」


「……?」


「も……もう少し詳らかにするのはどうかのう? 我は当然の如く知っておったが……いまこの地は埼玉であると聞くぞ。埼玉は武蔵ではないのか? いや、下々のものはそう思っておろう。下々のものの戸惑いは忍びない。詳しく説明してやったほうがよいと思うぞ」


「牛島さまの海よりも深い慈しみには感動するばかりでございます。かしこまりました。紙と筆を……」


 アヤメちゃんは御付きのものたちが用意した和紙の上にさらさらと地図を描いてみせた。武蔵と下総の古い境界は「古(ふる)利(と)根(ね)川」にある一方、新しい境界は東を流れる「庄内古川」にあった。牛島はその間にある。


「この古利根川の西が埼玉でございます。それでは東はといえば葛(かつ)飾(しか)なのでございます」


「なんと! しかし葛飾といえば柴又帝釈天やらがあるところではないのか?」


「かつての葛飾はずっと広かったのでございます」


「なるほど……いや! 知っておったぞ、当然であろう!」


(むんっ!)


(むむんっ!)


(むむむんっ!)


「わかった、手を貸してくれよう」


「ありがとうございます、牛島さま」


「しかし敢えて問おう! けっして論破された感をどうにか払拭したいとか、そんなつまらぬことではないぞ! よいな?」


「もちろんでございます。問いとはどのようなことでございましょう?」


「牛島の地もいまや春日部の一部! 春日部はわかるな? 甚だ遺憾ながら街は川向こうにある。なにしろ役場も百貨店も向こうぢゃ! しかしその川向こうでも我を慕ってくれておるぞ。川向こうは元より武蔵、我(われ)が下総のために力を尽くすとあってはヘソを曲げるやも知れぬ! 納得させる手立ては……いかに博識なアヤメちゃんといえども思いつくまい!」


(ふふんっ!)


(ふふふんっ!)


(……)


(……)


(? あ、これもか……ふふふんっ!)


「お言葉ですが……」


(むんっ!)


(むむんっ!)


(むむむんっ!)


「川向こうもまた古くは下総でございます」


「なんと! いかにアヤメちゃんといえども、それは無理があるのではないか!? 川向こうが埼玉といったのはほかならぬアヤメちゃんぞ! 潔く降参するほうが美しくないか!?」


「いえ、岩槻の太田か小田原の北条か、あるいはほかの武(もののふ)か、戦乱の世のことゆえ、はっきりしないところもございますが、そのころ武蔵に呑み込まれたのです。またそれゆえ埼玉となってしまったのでしょう。本来の下総の範囲はこのように……」


 アヤメちゃんは再び筆を手に取った。武蔵と下総のより古い境界は「古利根川」よりもさらに西の「元荒川」という川にあって、現在の春日部市の中心部もまた本来は下総なのだった。


(ぬぬっ!)


(きらん★)


(き……!? ……。……。きらりん★)


「よ、よくぞ、正しく答えた! もちろん我は知っておったぞ! まったくもってアヤメちゃんは賢い! 褒めて遣わそう!」


「わたくしのようなものにはもったいないお言葉でございます。ところで、御手をお貸しいただけるとのことですが……」


「も……もちろん全力に決まっておろう! なにしろ牛島は下総、我は牛島の神、下総の神ぢゃ!」


(むむんっ!)


(きらりん★)


(き……きんきらりん★)


挿絵(By みてみん)


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