#6 リバと圭④
「紫峰さま、それでは……」
「ならぬ!」
「『常総市』は何とする!? かの地は下総であろう! それにもかかわらず我が常陸に踏み入れたかのような名乗り! まったく忌々しい! あのような地は滅びてしまえ!」
(ああ……。甲斐と信濃で『甲信』のように常陸と下総で『常総』。あのあたりだと小貝川の東西が常陸・下総のはず。いわれて見れば常総市はほぼ西側オンリーなんだよね……。なんで『常総市』なんかにしたかな……。もっと広い範囲で合併しようとしたんだっけ……? そうすると常総市の対岸って、ああもう、つくばみらい市じゃん! どっちも面倒な……。てゆうか、破談したのなら別の名前にすればよかったのに! えーと、どうしよ、常総市が滅びて困ること、何かないかな……。……。ハッ!!)
「お、おそれながら、常総市が滅びてしまうと『うまい棒』が食べられなくなってしまいます! かの地の名産品です!」
「たわけが! 我を愚弄するつもりか!? 常総市が滅びても『やおきん』はなくなるまい! 『やおきん』はかの地に無かろう!」
「『やおきん』は売ってるだけです! つくっているのは常総市にある『リスカ』です!」
「!? ま、まあ知っていたがな……。……。……。……下々のものが困惑するであろうな……?」
「ものすごく困惑します」
「し……しかしそれくらいであろう? 幸いなことに我は『うまい棒』はあまり好まぬ……いや、下々のものは食べ飽きた! カスミちゃんとマリモちゃんはどうか?」
「その……駄菓子特有の権利意識の低さから誕生してしまった例のあのキャラクターも……なんだかその、そろそろ引退すべきかと……」
「きゅっきゅっきゅっ!」
「う、うまい棒だけではありません! 『ハートチップル』も『スーパービッグチョコ』も滅びます!」
「な……なんと! よ、よもや、『日本一ながーいチョコ』もか!」
「はい……」
「まさか『蒲焼さん太郎』『キャベツ太郎』『餅太郎』の太郎シリーズまでも……ということはなかろうな……!?」
「すべて、かの地の別の会社がつくってます……」
「ぬぬぬ……わ、我はどうでもよ、良いが、下々のものが悲しむのは本意ではないぞ……。許して遣わす。ただし! これと汝らに協力するのかは別の話ぞ!」
「そんな……筑波嶺さま……」
「きゅう……」
「カスミちゃんとマリモちゃんの願いとあっても駄目なものは駄目じゃ!」
(何とかこの状況を打開しないと……。筑波さまはまったく聞き耳を持たないわけじゃないし、まだこの場にいることは許されている……。試されている……? そうだ、かならず試してくるってカスミちゃんはいっていた……。何を試されている……? ……。ひとつ気にかかっていることはあるんだ、筑波さまをカスミちゃんは最初『筑波嶺さま』と呼んだのに、『紫の君』とも『紫峰さま』とも呼んだ。そうだ、御付きたちも呼び方はバラバラだった。高貴な人の名を直接呼ぶのは憚られるからかな、って思ってたけど、規則性がないし別の理由があるのかも……! でもそれは……?)
圭は御殿の中を見回した。カスミちゃんと目が合う。その澄んだ瞳に見つめられて圭は思い出した。
(『羨ましい』といっていた、カスミちゃんの名前に。もしかして……まだ一度も正しくは呼ばれていない……? 筑波さまは正しい名前で呼ばれたいと思っている……? 正しい名前……。筑波山は二つの峰の総称、西側が男体山、東側が女体山、いまいるのは女体山……。ハッ!!)
「どうかお考え直しを! なにとぞお力をお貸しください、女体さま!」
「し……仕方がないのう♡」
女体さまはぽっと頬を赤らめた……。




