↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シモウサへようこそ!  作者: 一ノ宮ガユウ
7. 神々のうた
PR
92/153

#5 リバと圭③

挿絵(By みてみん)


 マリモちゃんは空中をすうーっと、滑らかに移動していく。


(アオコなのに……?)


「きゅっきゅっきゅっ!」


 視線に気づいてマリモちゃんは嬉しそうな表情を浮かべる。


 桜川沿いの田園地帯を高速で駆け抜ければ筑波山はもう近い。リバは翼を広げた。大きく羽ばたいて一気に登っていく。マリモちゃんも続く。東の山頂に接近する。


「圭さん、これより筑波さまの神域に入ります。筑波さまはお優しいかたですが、愚かしい願いを受け容れるかたではありません。かならず圭さんを試してくるでしょう」


「試す……?」


「すべて圭さん自らが解き明かすしかないのです。その答えをわたしはいえません、ごめんなさい」


「ううん、それだけでだいじょうぶ。ありがとう、カスミちゃん」


 昼間であれば、筑波山の山頂からは関東一円を見渡せる。遠く東京のビル群まで展望できて、条件が良ければスカイツリーまで見える。とはいえ真夜中にあっては、まばらに点在するわずかばかりの灯火を見下ろすばかりだ。


 圭は切り取られた空間に入るのを感じた。


(見える世界も変わった……。きっと特別な場所なんだ……ここは。寝殿造りの立派な、でも優雅さを忘れない御殿……)


(圭……)


(うん、不思議なところだけど、だいじょうぶ)


(なんだか、自分の体とまわりの世界の境界が曖昧で、遠くのものが近くに見えて、近くのものが遠くに見えるよ。歩いているのにそれがよくわからない……)


(そうだね……)


 カスミちゃんが取り次いでくれる。


「圭さん、リバさん。ここに段差がありますよ。気をつけてくださいね」


「きゅっきゅっきゅっ!」


「ありがと、カスミちゃん」


「マリモちゃんもありがとー」


 圭とリバ、そしてカスミちゃんは帳(とばり)の降りた御(み)座(まし)の前に並んで座った。マリモちゃんは浮かんでいないので、たぶん座っている(はず)。


「筑波さま、下総の使いと霞ケ浦でございます」


 帳がするすると上がって筑波の神が姿を見せた。鮮やかな翠(みどり)の髪と、すべてを見通す躑躅(つつじ)の瞳が印象的な女性だ。


「筑(つく)波(ば)嶺(ね)さまにおかれましては、ますます麗しくお慶(よろこ)び申し上げます。このたびは拝顔の機会を賜り誠にありがとうございます」


「苦しゅうないぞ、面(おもて)を上げるがよい。二人も健勝と見えて嬉しいぞ。ところで『カスミちゃん』なる言葉が漏れ聞こえたが」


「下総の使いより貰い受けた呼び名でございます。よろしければ筑波嶺さまもそのようにお呼びいただければ、これに勝る喜びはありません」


「そうしようぞ、カスミちゃん。羨ましいことであるな」


「ありがとうございます」


「して、カスミちゃんよ、今宵は何用ぞ?」


「紫の君もすでにお感じかと存じますが、いま、この地は鹿島の神により危機に陥っております。紫の君がいかようなお考えのもと、鹿島の神を暴れるがままにされるかなど、わたくしのようなものには推すことさえかないませんが、どうか、その深い慈しみの御心をもってお力をお貸しください」


「その話か……。筑波は常陸、我は常陸の神、筑波の神じゃ! この地は不可解にも下総なんぞに組み入れられたが、下総で何が起ころうとも我には縁なきこと! いかようにもなろうと我の知ったことではない!」


「そ……そのようなこと……。どうか、いま一度お考えを……」


「ならん! だいたい昨今の下界は気に入らないことばかりじゃ! 『つくばみらい市』とはなんじゃ! 無駄に長い!」


(ああ……。確かに長いんだよね、『つくばみらい市』……。『平成の大合併』だっけ……? 平仮名四文字の『さいたま市』を一気に追い抜いて平仮名六文字……)


「長いのは『かすみがうら市』も同じでございます!」


「平仮名であるのは解せぬが『かすみがうら』はカスミちゃんの『霞ケ浦』であろう! ところが『つくばみらい』とは何ぞ! 意味不明じゃ! 『みらい』はいったいどこからやってきたのじゃ!?」


「そ、それは……」


「あ、あの! 改称させます!」


「改めるか。それはよい心がけであると認めようぞ。それでは何とする?」


「い、いまですか? 少しお時間を……」


「かまわずぞ、じっくり考えるがよい」


(つくばみらい市……あそこ何があるんだっけ? うーん、これといった特徴が見つからない……。どういう経緯があったのかな……、昔の話だし……確か『谷(や)和(わ)原(ら)村』と『伊奈町』が合併したような……。なんで『つくばみらい』なんかにしたのかな……。市の名前はほかでもよくもめたっていうし、谷和原か伊奈かで紛糾したのかな? 谷和原か伊奈で……。……。谷和原か伊奈で?)


「『やわらかいな市』はどうでしょう……?」


「相変わらず長いままだが、やわらかそうで良いと思うぞ」


「ありがとうございます……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。