#6 妖狐
「あっ、あそこ、なんか光ってるよ! あそこ!」
「……」
「どうしたの?」
「リバ、妖狐はいま、どう見えている?」
「どうって、前脚はあるけど後ろ足はなくて、尻尾のほうがゆらゆらしている紫色の狐だよ」
「……。たぶんいま、いちばん見えてるのはリバだよ。わたしも圭もそこまで具体的には見えないし、そもそもリバにいわれるまで気がつかなかったし」
「え〜、さっきの犬っころと同じっていいたいの? いくら四本足で歩くからって……」
「違う、リバの素敵な能力。いま必要なのに圭もわたしも持っていない力だよ」
「……ありがと」
「リバと圭はその光ってるところへ向かって! わたしは妖狐を大地に戻すから」
「わかった! リバ、よろしく!」
「任せてチョンマゲ!」
旋回するように北側から回り込んで降下していく。
周辺は古くからの道を軸に集落と林、畑の入り交じる高台で、家々からこぼれる光もまばらだ。遠く小貝川があって、低地は墨で塗られたように闇が支配する。
「あっ!! ケイ、あのひとだ……!」
「あのひとってコヨ・タキッシェさん!?」
「ボク、追いかけるよ!」
「わかった、気をつけて!」
着地して圭を降ろすとリバは走り出した。
(真っ暗で僕には何も見えなかった……。ゴーグルのほかの機能にも障害の影響が出てるんだ。それにしてもここは……見覚えがあるような……ああやっぱりそうだ……)
そこは大きな欅のあるお寺だった。参道を歩いていればすぐに見えてくる。ただ、その途中でどこか違う領域に踏み入れたような違和感を感じた。
(景色はそのままだ。でもここはもう、もとの場所じゃない……)
欅の巨木には空洞があって、中にお地蔵さまが祀られている。圭は一礼してそれから空を見上げた。目が慣れてきたのか、だいぶ見えるようになってきた妖狐は数を減らしている。
ルクフェネは指先でユクルユフェーアを紡ぐ。圭も地上から援護する。
(かけらよ、みなもとへ帰れ)
(揺るぎなく確かな絆、そよぐように)
柔らかな光が妖狐を包み込んで収束する。そのままゆっくりと落ちていって、土に触れれば消えていく。背後からルクフェネに迫った妖狐は、そよぐ透明なカーテンに誘われ方向を変える。
光は次々に地上へ落ちていく。そして森に受け止められて消えていく。
(残り一つ……。……?)
気がつけば欅はぼんやり光をまとっていた。
(僕にもわかるほどに強まってるってことか……。ここだけ切り取られた空間みたいだ、外の景色は見えていても。何かの力が支配する範囲に僕はいる……)
最後の妖狐は急に向きを変えた。ぼんやりとした姿でも尻尾は容赦なくオーデを薙ぎ払う。
(わっ!!)
(ルクフェネ! そのまま続けて……!)
(わかった! かけらよ、みなもとへ帰れ……!)
(揺るぎなく確かな絆、包み込むように)
閃いた光が妖狐に収束する。同時に背中から落下するルクフェネを透明なカーテンがふわりと包み込んだ。
【高源寺】
普蔵山 高源寺。樹齢1600年と伝わる大きな欅が境内を守る。




