#5 異変
次の日も立て続けに侵入者が入ってきた。ひととおり片づけたのは午後遅くで、すっかり日も暮れていた。
「さすがに団体さまの五組は疲れちゃうかも。でもたぶんこれがピークでしょうね、〈宇宙の扉〉が安定してくれれば、いろいろ構築できるから」
「発注仕様書いくつか流してあるから、承認よろしくね」
「んも〜、なんで承認なんかいるのかな! 圭の書類で間違ってるとこ、あったことないし! ねえ、成りすまして承認しちゃうとかできないの?」
「できちゃダメでしょ?」
「圭も無理しないでよ。そもそも総督府でやればいい業務だし!」
「まあまあ、持ちつ持たれつってことで……あれ?」
オンラインのアプリがフリーズして、そのすべてが一斉にエラーを表示した。同時に圭はぞわっと総毛立つような感覚を覚えた。
「ルクフェネ……」
「うん……通信機もダメ」
ルクフェネは空中投影の二次元ディスプレイに手を伸ばして触れた。背面の表示が有効になって、簡易的な仮想キーボードも表示される。
「非常用の回線経由でカルナに連絡とってみる。これもいつまで持つのかわからないけど。カルナから一報が入ってる、総督府も同じ、電波妨害だろうって。あ、ダメね、こっちも遮断された……。ネットワークは自動で再起動して防御モードに移行するけど、時間はかかると思う」
「あの妙な感じは何だったんだろうね……?」
「妙な感じ……?」
「え? 〈セグレンデの二つ耳〉の通してルクフェネの感覚が流れ込んできた感覚だったけど……? 悪寒が走るような、すごく嫌な感じ。いまはそれよりずっと小さな、だけど、どこか懐かしさに似たものを向こうから感じてる……」
「しばらくは繋がらないからここにいても何もできないし、行ってみるしかなさそうね」
「通信機はピアツーピアモードにしとこう——」
夜の空を市内北西部へ、ルクフェネはオーデの背に、圭はリバの背に乗って移動する。
「ボクも感じたよ。だけど本能的に危険を感じたものだから、圭とは少し違うものだと思う」
「たぶん珠兎が大地に干渉しようとしている。同じように伝わっても、わたしはわからない脈動を圭は感じたんだと思う。ここは圭が生まれ育ったところだから」
「神々は目覚めようとしている……あるいは誰かが呼び起こそうとしている……?」
「遥かな時を超えてきた言葉には人々の想いと、人々を抱き守ってきた天地の温もりがこもっている。ユクルユフェーアの根源は言葉、だから紡いだユクルユフェーアはどうしても天地を揺さぶってしまう。それが悪意を持った者の仕業なら、なおさら。でもこれは神秘主義的なものではなくてそう見えるだけ。なぜならそれは人々がずっと思い描いてきた姿だから。悪意ある者が利用しようとしている力も、それに抗おうとする力も」
「抗おうとする力……」
「ケイ! ルク! 変なのがいるよ! たくさん! ゾワゾワする……!」
見れば、鈍い赤紫色の光をまとった獣の幻影が夕闇の空を漂っている。
「いってみれば狐のあやかし〝妖狐〟かな。形に意味はなくて、この騒ぎに土地に眠る力が漠然と実体化しただけ」
一匹が揺らめいて降下して、犬の散歩をさせているおばあさんにひらひらと近づいていく。犬は妖狐に向かって激しく吠える。けれどもおばあさんは「どうしたの?」となだめるばかりだ。
(揺るぎなく確かな絆、そよぐように)
圭は柔らかく風になびく透明なカーテンを創り出した。妖狐は鼻先をかすめるものを嫌って方向を変えた。




