#4 諸事情
夕方には第三波、ペゴト族の一団が侵入してきた。
ペゴト族はモミョ族と同じように真空の宇宙空間にさえ耐性のある種族だ。その目的にはただ暴れたいということだけ。体格はモミョ族より一回り大きく、外見的には短毛種の猫に近い。尻尾はモミョ族と同じく三本だが長くしなやか、骨張った翼も大きく、刃先は鋭利だ。
「がっはっはっ! 珍しいのがいるかと思えば、馬鹿で弱虫のモミョ族ではないか!」
「星を奪われて貧乏生活! 役立たずのモミョ族めが!」
「いまからでも頭を垂れれば、仲間にしてやってもいいぞ? 下働きだがな! ぎゃっはっはっ!」
「……」
リバは黙って水戸街道を北へ向かって疾走する。
「ほれほれ、逃げてばっかでは勝てないぞ!」
「兄者、かわいそっすよ、そんなこといっちゃあ!」
「そうだぞ、逃げるしか能がないヤツに失礼だろ! ぎゃっはっはっ……ん?」
「ハイハーイ、どもども♪」
〝強き熱き力よ、我が身に宿れ〟で体力を強化したルクフェネが並走しながら陽気に挨拶する。
「一列になって右の車線を走ってくれる? そうそう、その線の向こう。こっちの車線は舗装し直したばかりだから。そうそう、よくできました〜♪ えらいえらい〜♪」
「……?」
「予行練習しますよ〜!」
さらにプランシェ(ケリンチョ・モード)に乗った圭が反対側を並走する。
「一、二、三で跳びますよ〜。一、二、三、ハイ!」
「……??」
「わあ、皆さん息ぴったりですね! じゃあ、本番ですよ、一、二、三、ハイ! もう一度、ハイ! ご協力ありがとうございました! もう重量物に弱い区間は過ぎました、自由に走ってもいいですよ!」
「……???」
ルクフェネと圭は一段は追い越してリバの横に並ぶ。リバは真っ正面を向いたまま、ぼそっとつぶやいた。
「圭、ルク。ボクちょっと今日、欲求不満だったんだ。そして今とっても機嫌が悪いんだ」
「知ってるよ」
「知ってるぅ♪」
「あいつらの耐性、ボクらより上だから心配いらないからね。そのわりにはずいぶん〈宇宙の扉〉が安定してからやってきたもんだと思ってるんだけど」
「お手柔らかにね!」
「半殺しくらいにしといてね〜!」
街並みが途切れたところでリバは速度を落とした。田園地帯のど真ん中で向き直る。
「たったの一匹で我らに刃向かうのか! はっはっはっ、これは面白い!」
「ペゴト族の勇士たる我らにかぁ!?」
「まずはオレがいたぶってやらあ、なっはっはっ!」
「おまえ、手加減してやれよぉ!」
「そうだ、俺たちに残しておけよぉ!」
「はっはっはっ!」
「なっはっはっ……ん?」
一匹が吹っ飛ばされ、さらに……と鉄拳制裁、ストレス発散、強制送還——。
防衛局に戻るとカルナの伝言が残されていた。空賊の連中を退去処分にするには総督のほうが手続きを簡略化できるようで、留守の間にやっつけてくれたらしい。伝言いわく——。
「今日は朝からお疲れさま。デリバリー的なものを準備してあるから、屋上で楽しんでね」
届いたのは「浜焼きセット」。レンタルのテーブルや道具一式も入っていたので、さっそく夜の屋上で楽しむ。
「こういうのもいいかもね」
「ね。リバ、イカの丸焼き、まだ食べる?」
「食べるぅ♪」
「カルナさん、こういうの、どこから見つけてくるんだろうね。商才って言うのかな?」
「向こうのほうが海に近いから有利だし……」
悔しいらしく、ルクフェナはむすっと頬を膨らませる。
「ハマグリ焼けたよ、はい」
「ありがと。これで抜群においしいから腹立つんだよね〜」
「キャンプ素人の僕でもうまく焼けるようにできてるよ」
「それも! ……ま、そういう嗅覚と絶妙なタイミングのねぎらい? 一生勝てないかもしれない」
「うまうま♪ よくわかんないど、ボクは圭とルクと一緒にご飯できてすごく嬉しいよ」
「うーん、まあ、それはそうね。楽しいし」
「そうだ、リバ、ルクフェネから飾り紐もらった?」
「何の話?」
「おまじないだって」
「いいよ別に、ルクのは」
圭が説明すると、リバは二本の尻尾をふりふり振ってみせた。
「そんなこというなら、あげないもーん」
「あれ、もう一つは?」
「グミからヘアゴムもらったんだ♪ もうすっかり仲良し♪」
「やっぱ、あげる!」
「ええっ!? くれないっていったばかりじゃん。ボクもいらないし」
「バランスが悪いでしょ、尻尾三本あって、二本しか結んでないなんて。はい、さっさと空いてる尻尾を持ち上げる!」
「も〜」
「どうしたの?」
「なんか悔しいし!」
「?」
圭は首を傾げて、それから〈宇宙の扉〉を見上げた。街中の夜空にあってもそれは眩い。
「はじめはちょっと威圧的かなって思ったんだ」
「?」
「ほら、いきなりやってきて領土をよこせって話でしょ? あっという間の出来事で戸惑っている暇もなかったけど……あれ? 何か変なこといった?」
「えーと、わたしが知っている話と少し……うーん、だいぶ違うかな。カルナは交易の許可を得るためにシュショーカンテイ?に行ったら、シュショーさんがすごく友好的でシモウサくれたって」
「???」
「何か誤解されてる気はするなあとは思ったらしいんだけど、ほら、セヴァって交易の種族でしょ、基本的にくれるっていうならもらう主義だから」
(たぶんいきなり現れた異星人にビビったんだろうね……。あれ?)
圭はスマホにそのときのニュース映像を表示した。緊迫する首相官邸と、その中で苦渋の決断をした総理大臣が会見を伝えるものだ。そして切り替わって、国会議事堂を呑み込んだ巨大な宇宙船の影が映し出される。
「でもこの宇宙船は?」
「宇宙船? どれ?」
「この影の……。……。影だけが撮影されることって無いよね……?」
「角度によってはあるかもね」
「でもこれたぶん衛星写真だと思うんだ、真上から撮影した」
「そだね」
「影だか透けて見えたらおかしいよね?」
「おかしいね」
「……」
「ちなみにこのクラスの宇宙船、〈宇宙の扉〉通らないよ、大き過ぎて。もっとずっと小さい宇宙船だけしか通らないし、それが交易の民セヴァの血が騒ぐ理由のひとつなんだけど。ほら、限られた輸送力で何をどこに持っていったら儲かるのか、何を持ち帰ってきたらいちばん効率的か、考えただけでもワクワクしない? あれ……だいじょうぶ?」
「ちょっと力が抜けただけ」
「そう?」
(ま、いま楽しいから別にいいけど——)
なんだかなあ、とそれなりに思わなくもない圭でしたとさ。




