#14 サヌラの民
「コヨ・タキッシェ氏はサヌラの民だね。その力は根源的だからセヴァにはわからない」
「サヌラの民……セヴァにはわからない……?」
画面の向こうでカルナは頷いた。
「神話が語るところによれば、セヴァのアルテリウアの知識はサヌラの民から与えられたものであるという。もちろん神話は神話だけど、サヌラの知識がより原始的な形態を保っているのは事実。そしてあたしたちは、たとえサヌラのアルテリウアが隣に座っていたとしてもわからない。たとえば、いまこの瞬間シモウサに存在するセヴァのアルテリウアはあたしとルクフェネだけ。わかるというより感じるといったほうが正しいかもしれない」
「珠兎でもそれは同じ……?」
「依り代の場合はね、依り代には中に本人がいるから。形代にはいない。だからルクフェネはすぐにはわからなかった。でもこれはアルテリウアとしてのスタイルの違い」
「そして最終的にはルクフェネにも感じられたということですね……。そうすると今日のルレンはよっぽど用心していたんですね、カルナさんでもどれが形代かわからなかったんでしょう?」
「ちょっと違う。残った十体ぜんぶが形代。つまり十体すべてに珠兎の意思が存在していた」
「そんなことが可能なんですか!?」
「実力だけは認めておかないといけないよね。でないと寝首を掻かれてしまう。わからなかったのは、どれが最後まで残って九体の意思を結集させるのか。この意味では形代が一体の場合と本質的なところは変わらない。そしてどれがそれなのか、圭クンは言い当ててたよ。何となくわかってきたでしょ、どういう考え方をするのか」
「ルレンには個体差があるので、身を隠すのならいちばん多い凡庸な個体の一つに成りすますのが正攻法です。でもこれでは最後まで残る数体の中で目立ってしまう、ほかは生き残るだけの性能を持っているわけですから。でもおそらく戦略以前に、凡庸な個体に成りすますのはプライドが許さなかっただけです。珠兎には、自分で考えた筋書きどおりにならないと満足できない余計なプライドがあるんです」
「ふふ、余計なプライドね、いい当ててるよ」
「小堀では最後まで直接手を下すことはなく、リバを操って僕の命を奪おうとしました。それが彼が考えた筋書きだったのでしょうから。でも、それではもっとも能力が高い個体かといえばそれも違う。あくまでも安全な後ろに隠れていたいから二番目か三番目。あとは製造番号で判断しただけです。三番目はトップナンバー、つまり第一号でした」
「同一ロット内の番号に過ぎないのにね」
空中投影の二次元ディスプレイにはコヨ・タキッシェの情報が表示された。
「知ってのとおり、プライバシー保護の観点からあたしたちは理由がなく個人の詳細情報にアクセスできない。それはルクフェネがコヨ・タキッシェ氏の旅券と査証を確認したときも同じで、機械的な照合によって正当性が確認された以上、氏名以外の情報は明かされなかった」
「でも今回はその理由があったということですね」
「限定的だけどね、コヨ・タキッシェ氏の行動には不審な点があるというだけだから。でも珠兎の指示を受けていることは間違いない、たぶん脅されてね。古利根沼の森でわざわざルクフェネの前に現れた理由がないんだ。ルクフェネはわからなくても、コヨ・タキッシェはルクフェネの接近を感じられるから。避けようと思えば避けられたのにそうしなかった。何かのメッセージだと思わない?」
「弱みを握られて仕方なく動いている……」
「藤代駅近くでも向こうから呼び止められたでしょ? それにコヨ・タキッシェ氏はルクフェネが市内にいないことはわかっていた。でも圭クンから有用な情報を得てしまった以上は、報告するしかなかった。ただ、これも結果として珠兎との関係を示唆するメッセージになった」
「……。そのとき不思議なペンダントを見せてもらったんです。僕が目に留めて、それでコヨさんが手に取って見せてくれたんですけど、いま思えばはじめからそうするように仕向けていたのかもしれません。黒曜石のような、それでいてずっと透明な石で、光の加減で中で炎が揺らいでいるように見えました。実は古利根沼の森でも一度見えていて、そのときより心なしかずっと強くなっていたんです」
「十中八九、何か封印されているね。解放するためには珠兎に従わざるを得ない……。少し心当たりがあるんだ。だけど……」
「……?」
(神話の真偽はともかくサヌラの民はセヴァの大切な友人、利用することなどあり得ない。そしてそれは外へ持ち出してはならない禁忌でしょ? 殿下、もう超えてはいけない線を超えちゃってるよ)




