#13 恋の季節にぬくもりを
「だだだ、だいじょうぶ!?」
「平気、だいじょうぶ……」
「お水! お水!」
「ありがと……」
つぐみが防衛局へ押しかけた日のことを思い起こして、そして最後に彼女が言い放った言葉の意味を、ルクフェネはようやく理解した。
——好きだからに決まってるじゃないですかっ!!
そしてその瞬間、ルクフェネ自身が抱え込んだ原因不明で正体不明で解決不可能な問題があっという間に瓦解するのを感じた。これからはもっとややこしい悩みごとを抱えていかなければならないのだ、という自覚も含めて。
(そうか、わたしはそこまで鈍感になってたんだ。傷つきたくないから、傷つかないように感情に蓋をして……)
「……その、このまえ答えたように防衛局の体制は当面変わらないから、二人勤務はどうしようもないの。でも、幼なじみなら、だからといって何も起こりそうにないのはわからない?」
「……? あ、確かにそうかもね、ふふふ」
「つぐみはわたしよりも遥かにずっと長く圭と過ごしてきたんだろうし、おあいこってことにしてもらえないかな?」
「えー、なんかちょっと不公平な気がする。ツグちゃんケイちゃんのころと、いま流れてる時間は違うと思う」
「『相馬くん』じゃないの?」
「中学校に入ってから意識しちゃって」
「そうなんだ」
ルクフェネは思い起こそうとしたものの、清々しいほどに似たような記憶がまったくない。
(そういうのをぜんぶ飛ばしてきちゃったからかな、自分の感情がわからなかったのは……)
「その……」
「……?」
「こ、こんなことをあたしがいうのはおかしいってわかってるんだけど、相馬くんのこと、よろしくお願いします!! ……。……。……ああっ!! 違う、違う、違う、そういう意味ではなくて!!」
つぐみは急に意を決したように、ぎゅっと目をつぶって話したかと思えば、今度は顔を真っ赤にして、両手を振って全力で否定した。
「幼なじみだからわかるの、高校に進学してから相馬くんずっと辛そうだった……。思うような結果を出せないみたいで、あたしから見れば全然そんなことないんだけど……。でも防衛局に入ってからすごく元気になって、前みたいに明るくなって、笑顔もたくさんになって。だから、これからも相馬くんをよろしくお願いします。……なるべく怪我しないように気をつけてほしいんだけど」
「うん、つぐみの気持ちはよくわかったから。あの怪我はその、いろいろなことが重なって」
「あ、責めるつもりはなかったの! だからそれはいいの!」
「わかった。それならわたしのほうからもお願いをひとつ。これからもお茶に誘ってほしいな。あと防衛局に来てくれれば、わたしもお茶を淹れてあげれるし」
「ほんと? なんか嬉しい。それなら、ティッセさん、っておかしい気がするから、もう名前のほうで呼ぶね」
「ん? さっき、そうだったよ」
「へ、そう?」
店主が「楽しそうだから」とサービスしてくれた焼菓子を口にしながら他愛のないおしゃべりをしたり、二杯目の深煎コーヒーを味わいながら静かに音楽を楽しんだり。
こんな時間も悪くないと、ルクフェネはちょっと思った。




