#12 つぐみとルクフェネ
つぐみが連れていったのは、駅ビルの中途半端な階の、中途半端な一角にある古めかしい喫茶店だった。つぐみはカウンターの——といっても向こう側ではなく手前に座って新聞を読んでいた老人に話しかける。
「やあ、つぐみちゃん。お友達かい?」
「そんな感じです。パパ最近来てますか?」
「来てるよ」
「じゃあ、それにつけといてください」
「あいよ」
「ばーば、元気ですか?」
「元気も元気、今日もテニスサークルだよ。来週大会らしいから、よかったら応援に来ておくれ」
「行きます、行きます。あとで時間とか教えてください」
その間もルクフェネはぼんやりと店内を見ていた。壁には昔の映画のものだろうか、ポスターや小冊子の表紙が雑多に掲出され、中にはやはり昔のアナログ記録媒体の外装が入り交じっている。
店内に流れるのはその媒体に記録された音楽だろう。コーヒーの香気の中にお菓子の甘い香りやハーブが加わるけれども、ほどよく入り交じって悪くはない。
「どうぞ、ごゆっくり」
「どうも」
運ばれたコーヒーに口を付ければ、香気が鼻をくすぐってこそばゆい。ふと視線を向ければ、つぐみはなぜか、ぎゅっと歯を食いしばって怒ったような表情をしていた。
(あれ、お店の中をジロジロ見回すのはよくないのかな? 失礼だったかも——)
けれども頭を下げてきたのはつぐみだった。
「ごめんなさい!! 『元気なさそうですね!』なんて、どうしてあんなことをいってしまったんだろうって、いま自分がすごく嫌いです!!」
「? 元気がなかったのは、まあそうなんでしょうし」
「だからってあんないい方、よくなかったです!」
「気にしていないから平気ですよ」
「ででで、でも、ものすごく睨んでたじゃないですか!?」
「……? その髪飾りと腕の装飾品を見てただけ。そういうふうにまとめるのね、そういう髪飾りがあるのね、でもどこで買うのかな、って。何か編んだものかな、なんだろうって」
「へ? これは普通のヘアゴムで、とんぼ玉を通しただけ。とんぼ玉は専門店で買ったから、ちょっと宝物だけど。腕のって、これ暇つぶしにそのヘアゴムを編んだだけ……」
「そうなのね、へえー」
「よかったらお店教えよっか……?」
「うん、ありがと」
「でもここへ入ってからも、その、すごく怖い感じで……」
「怖かったどうかはわからないけど、とても緊張してた。こういうお店は入ったことがないし、誰かに誘ってもらったのも初めてだったから。心地いい店だね、ちょっと気に入っちゃった。でもシステムは不勉強だから、最初の謎のやり取りはあとで調べなきゃって」
「あ、あれはその……あとで教えてあげる。なんだか、その、ルクフェネさんって別に普通の女の子なのね」
「そう? でもごめん、それは同じこと考えてたかも」
「え? あ、そうね、いきなり詰め寄って机をバァンッだもんね、あたしもごめん……」
(そういえば、あとで調べたら『密室』って意味が違ってた。でも圭と二人だけでいることの何が困るのかな? あ、でも最近おかしな症状にはなるけど、圭と一緒にいることがすごく嬉しいかも……)
と、ルクフェネは急にむせて、顔を真っ赤にした。




