#9 風の形象
カルナは振り返って拝殿に深く頭を下げた。
(しばし境内をお借りします。そんでもって……皆さまも、すいませんが……、あ、これはども、ども〜♪)
参拝を邪魔されているのだが、取り巻くギャラリー(?)はワクワク、キラキラの目で見つめている。
(この風に身を任せよう)
カルナは指先で軽やかにユクルユフェーアを描いた。風をまとったその体はゆっくり浮かび上がって背の高さほどで静止する。
(こころのテレパシー……というか目線のみで失礼します、若葉です)
(同時に弥生です)
(まさかのテレパシー混線!?)
(撮影はご遠慮いただいたほうがいいですか?)
(ぜんぜんオッケーです。じゃんじゃん撮ってくださいまし)
カルナはありとあらゆる場面に対応できる、いわゆる万能タイプのアルテリウアだ。これはルクフェネも同じで、ひとから聞かれたら首を縦に振らないけれども、そもそもカルナのスタイルがもとになっている。
しかし近距離・直接か遠距離・間接かでいえば圧倒的に後者であって、これはルクフェネとは真逆である。
(要するに珠兎と同じなんだよね……。ジェレンが形代だって、はじめからわかっていたのもスタイルが同じだからだし。これも因縁かな……)
カルナは大気のさざめきを感じる。
(ユクルユフェーアの根源は言葉。遥かな時を超えてきた言葉には人々の想いと、人々を抱き守ってきた天地の温もりがこもっているから。でもそうであればこそ、紡いだユクルユフェーアの力は少なからず天地に伝わって揺さぶってしまう。この地の神々は目覚めようとしている……違うかな、誰かが呼び起こそうとしている。殿下、そこは触れてはいけないところなんだよね……)
風はときに仄かな虹色を帯びてくるくると踊って巡る。その中でカルナは別の軌跡を指先でたどった。
(遥か大河の流れをさかのぼって ——圭クン、リバくん、聞こえる?)
「聞こえますっ!」
「えっ!? ルナ!? えっ!? どこどこ!?」
「リバくん、慌てなーい、どうどう。通信機のほうは切るよ〜」
「不思議な感じですね、直接声が届いてます」
「ボクはなんだか、頭の中が痒いよ」
「こっちのほうがラグがないからね。さて、おお〜、もう残り四分の一だねえ)
「ここからが正念場です。数が多いうちは別の個体をぶつけたり、何なら勝手に衝突して自滅するのも期待できましたが、あとは地道につぶしていくしかありません」
「でも状況からいって圭クンとリバくんで殲滅できるんじゃない? 解析結果にもいい数値が出てるでしょ? 援護もできるよ」
「街を壊したくないんです。仕方ないとはわかっていますが、戸頭団地のときも建物を損壊させてしまいました。大切な僕の街なんです、ここは。いちばん確実な方法を選択します」
「わかったよ、珠兎が直接制御している個体はあたしで対応する」
「お願いします」
(いちばん確実な方法……か。圭クン、慎重さと思慮深さは圭クンの美徳だけど、これから先、それでは乗り越えられない壁にかならずぶつかるよ。そのとき圭クンはどうするのかな——?)




