#2 相馬家の日常
「あ、花ちゃん、おはよう」
「はよ〜、圭ちゃん〜」
眠い目をこすりながら妹の花が起きてきた。まだパジャマ姿だ。
「顔洗った?」
「はよ〜、凛ちゃん〜。たぶん洗った〜」
「たぶん? うーん、まあいいや、先に着替えちゃいなさい。朝練あるんでしょ?」
「はぁい」
妹・花は中学二年生で陸上部に所属している。
花はその場でわさわさと制服に着替えはじめたものの、何かに気づいて圭は止めた。
「スカートのそこ、ほつれてるよ」
「えぇ〜!? ほんとぉ〜?」
「直してあげるから」
「はぁい」
寝ぼけまなこのまま、花は履きかけたスカートを圭に渡した。上はブラウス、下はパンツという格好で当人は食卓に。
「いただきまぁす」
圭はすぐに裁縫道具を出してくる。凛は頬を膨らませる。
「食べてからにしない?」
「すぐにできるからだいじょうぶ」
「そうなんだろうけど」
実際、圭は手際よくほつれたところを補修していく。凛は不満顔のまま、もうっ、と花のほうへ向き直った。
「そんなカッコで食べないの!」
「どうしてぇ?」
「パンツだけでご飯だなんて、はしたないでしょ」
「凛ちゃんだって、お風呂に入ったあとパンツいっちょーでウロウロしてるでしょぉ?」
「……。お風呂上がりはいいの!」
「そうなのぉ?」
「きのう圭ちゃんのベッドに潜り込んでたでしょ? あれもやめなさい」
「ええ〜!? どうしてもぉ?」
「どうしてもっ! そういうものなの!」
「うーん、そういうものなのかぁ……。……。ああっ、でもこの間、酔っぱらって帰ってきたとき、凛ちゃん、圭ちゃんに抱きついて眠ってたよ!」
花は納得しかけたものの、急に思い出して声を上げた。凛は、やべっ、という表情を一瞬だけ見せてすぐに冷静沈着に答えた。
「……。あれは真理です」
「シンリ?」
「花ちゃん、できたよ」
圭は花の椅子にスカートを掛けた。
「わあっ、圭ちゃんありがとっ!」
「きちんとお兄ちゃんって呼びなさい」
「えぇ〜、圭ちゃんは圭ちゃんだもん。別にいいよね!?」
「僕はどっちもいいよ」
「もうっ、学校で子供っぽいっていわれちゃうよ!」
「仲いいんだね、っていわれるぅ。……。ああっ、なんかごまかそうとしてる! シンリって何!?」
「ほろ酔い気分で帰宅して目の前に可愛い圭ちゃんがいたら抱きつくものです。これは真理です」
「そうかあ、それなら仕方ないかぁ。あれっ、このお魚、チョーおいしくない!?」
「さすが我が妹、よくぞ気がついた! 褒めてつかわすから、もりもり食べて元気よく部活にいってらっしゃい!」
「了解ですっ!!」
花はその宣言どおりにご飯をおかわりして、圭に直してもらったスカートを履いて朝練へ出発する。その前の口論の行方は、そもそも当事者たちがもはや気にもしていないので不明である。
なお、凛は料理が得意ではあるものの整理整頓という概念を持ち合わせていないので、食べた後のことをいっさい考えていないし、洗濯物もたためない(あと服も脱ぎっぱなしで放りっぱなし)。
で、洗濯を含む衣類ケアは圭が担当、実は几帳面な花はしっかり食器を洗って、お鍋や炊飯器も片づけてから出発したのだった。




