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シモウサへようこそ!  作者: 一ノ宮ガユウ
4. 前ぶれ
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46/153

#1 炎波打つ石

挿絵(By みてみん)


4. 前ぶれ


 未明、某所。


「これで準備が整った……」


 暗がりの中で、声の主は一歩下がって静かに唱えた。


「ここに境の(ウーケ・ジェロ・)礎を成す(ネアッタ・ウノエ)」


 視線の高さほどに朧(おぼろ)な光が生まれた。それを映し返して古い社(やしろ)が青白く闇に浮かぶ。茫漠の光はやがてゆっくりと、本当にゆっくりと落ちていく。


 声の主は胸元から何かを取り出し、温めるように両手で包み込んだ。透明な石だ。しかしよく見れば、その内には不思議に炎が波打っていた。


 光が石畳に落ちてそのまま吸い込まれていく。すると石の中の炎はわずかに爆(は)ぜた。心なしかその勢いは増したようだ。


「あと二か所……」


 ふと、かりそめに洩(も)れ落(お)ちた月明かりが声の主を一瞬だけ照らして、目深に被る帽子の鮮やかな髪飾りを印象に残した。


 ❖


 取手市内、相馬家。


 相馬家は稲(いな)という古くからの集落にあった。市内南西部の畑と林が入り交じるあたりで、道の形は昔のままに曲がりくねって家並みもゆったりしている。朝の空気もどことなく穏やかだ。


 キッチンからはトントントン……と小気味よい音色が届く。てきぱきと朝食を調えるのは圭の姉、凛(りん)だ。


 切り終えた野菜を鍋に入れて火加減を調整、その流れでグリルの焼き魚を取り出しテーブルへ。冷蔵庫から味噌を取り出し、火加減を見て溶き入れて味見、するとちょうど炊飯器が炊き上がりを音楽で知らせる。


「姉さん、きょう講義ないよね?」


 リビングから圭が顔をのぞかせる。そのままテーブルに箸を並べたりと手伝う。 


「家で資料の整理してるよ」


「洗濯物、取り込んどいてくれる? いまぜんぶ干したとこだから」


「たたまなくていい?」


「そのままでいいよ」


「よし、任されたっ!」


 答える間も凛は手を休めず、視線はもう次のところへ向かっている。


「お母さん、起こしてきてくれる?」


「きのう徹夜だったから、昼過ぎまで起きないよ」


「またぁ? もう、あんまり無理ないでほしいんだけど!」


「でもようやく納得がいくデザインに仕上がったみたいだよ」


「それはいいことなんだけどね」


 凛は大学院生だ。いまは論文執筆中のため家にいることが多い。母の珠(たま)はインテリアデザイナーをしていて、乗ってくると事務所兼アトリエから出てこなくなる。


「あ、そうだ、また花ちゃん、圭ちゃんのベッドに潜り込んでたでしょ?」


「ものすごく怖い動画を見たんだって」


「もうっ、子供じゃないんだから! 圭ちゃんも困るでしょ?」


「僕はかまわないよ、睡眠不足で体調崩したらかわいそうだし」


「それをいったら圭ちゃんもでしょ? 毎日くたくたになって帰ってきてるのに、ゆっくり休めなくない?」


「だいしょうぶ、花ちゃん安心したらすぐに眠っちゃうし。小学生のころは寝相がすごかったけど、ずいぶんおとなしくなったから助かってるよ」


「そーお?」


 しかし姉としては心配である。(ひとりの時間も欲しいでしょうに)


「それよりいろいろありがと。まる二日寝込んじゃったけど、おかけですっかり元気になったよ」


「もうっ、それいいっこなしって、ずいぶん前に約束したでしょ? 家族なんだから当たり前に決まってるじゃない!」


「花ちゃんもすごく心配だったみたいで、僕がよくなったからハメを外して怖いの観たんじゃない?」


「怖くて一人で眠れなくなるのに怖いの好きって、何なのかしら?」


 姉はやっぱり心配である。

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