#18 すすす
「どうぞ」
恐る恐るといった感じに顔をのぞかせたのは、物静かな印象を受ける少女だった。黒い瞳と髪はここシモウサ市民の特徴だ。
「し……失礼します……」
少女は不安そうにルクフェネを一瞥して、それからすぐに足下へ視線を落とした。
「こ……木葉つぐみといいます。あの……ティッセさんは……」
「わたしがそのティッセ、ルクフェネ・ティッセです。以後お見知り置きを、つぐみさん」
相手はどうやら緊張しているらしいので、ルクフェネは優しく答えた。口調は来客向け。
「どのようなご用件でしょう?」
「そ、そそ……相馬くんのことでお話が……」
「……? ……あ、圭のことですね。圭についてどのようなお話でしょう?」
「けけけ、圭……くんって、呼び捨てなんですかっ!!」
「はあ……」
つぐみは急に顔を真っ赤にしてまくし立てた。
文化の違いに起因して自分の言動が相手を当惑させたのだろう、ということはルクフェネにも何となく理解できた。けれどもどうしてそこまで興奮するのかさっぱりわからない。
「それでご用件は何でしょう?」
「お、大怪我のことに決まってるじゃないですかっ!?」
つぐみはズカズカと近寄ってヒートアップしたまま、デスクを両手で叩いた。
「あんな大怪我をするなんて、いったい何があったんですかっ!?」
「そのことですか。残念ながら防衛局に所属している以上は危険を完全に回避することはできません。圭もそれをわかった上でこの道を選択したはずですよ」
清々しいほどの正論であって至極まっとうな回答だった。つぐみは歯噛みする。
「そ、それはそうかもしれませんけど、相馬くんはここに入ったばかりなのに、どうしてあんな大怪我をするような仕事が与えられたんです!? ティッセさん、あなたのサポートは万全だったんですかっ!?」
「!」
それはついさっきまで自身が自己嫌悪に陥っていた問題だったので、ルクフェネは思わず立ち上がってしまった。
「回答を拒否します!」
「なぜです!?」
「組織内の問題であって外部の者に回答する義務はないからです!」
「例外はあるでしょう! ほかのみなさんはどう思っていらっしゃるんです……?」
つぐみは室内を見回して、そして自分とルクフェネしかいないことに初めて気がついた。
「まさか防衛局って……」
「わたしと圭の二人しかいませんけど、それが何か?」ルクフェネは当然ムッとする。「局の能力は規模ではありません! 小さな防衛局でも——」
「それは知ってます!」
「???」
「ティッセさんはすごいって相馬くんから散々聞かされてますから! そ、そんなことより相馬くんとティッセさんて、もしかしていつも……その……あの……ふ、ふふふ、二人っきりってことですか!?」
「は……はあ? そうですけど」
つぐみはまた顔を真っ赤にする。ルクフェネには意味がわからないが、つぐみに防衛局の規模を馬鹿にする気はなく、自分の力もそれなりに評価してくれているらしいことがわかって毒気を抜かれてしまった。
「ともかく、お話できることはありませんからお引き取りください」
「み、密室に二人っきりっていうのだけでも……どうにかなりませんかっ!?」
「……論点が変わった気がしますが、当分はこの体制です。換気は万全ですからご心配なく」
「密室ってそういうことじゃないんですけど、むう……」
「少なくともつぐみさんが圭のことを気にかけてくださっていることは理解しましたよ」
「そそそ、それは当たり前じゃないですか! 幼馴染みだし、それに、す、す、す……」
「すすす?」
「もうっ、好きだからに決まってるじゃないですかっ!!」
つぐみはそのままオフィスを飛び出していってしまった。
「?????」
ルクフェネには何が何だかさっぱりだった。




