#10 何も聞いていない
「ところでコヨ・タキッシェさんのことは何かわかりましたか?」
「ルクフェネが気にしてた件だね。調べてみたけど〈宇宙の扉〉は正規の手続きで通過していたよ。査証はルクフェネがいうように総督府からは出していない。書類を一式用意してくれれば、どこが発行したのか照会することは可能だよ。うんざりするほどの枚数を書かされるし、うんざりするほどあっちこっちをぐーるぐる回されて、うんざりするほど時間は掛かるけど」
「いえ、そこまでは。僕が書類を準備するのは全然かまいませんが、受け取った側もそのうんざりほどの枚数を確認しなければならないわけですから、きっとカルナさん、その『ぐーるぐる』の全部署から恨まれますよね」
「気を遣ってくれて助かるよ、コネと愛想だけで出世してきた身だからね。んじゃ、手記は転送しておくから圭クンも読み解いてみてね♪」
通信を終えて圭は小首を傾げた。
(カルナさんも謙虚な人だなー。総督という立場も実力そのものだと思うけど)
あなたも相当謙虚な人ですよ。
❖
翌々日。
圭とリバは、取手市内では唯一利根川より南側にある小堀地区に来ていた。もともとは地続きだったのだけれども河川改修で利根川の流れが変わって分断されてしまった、いわゆる「飛地」と呼ばれる場所だ。
切り離された古い流路が古利根沼であり、小堀地区から見て古利根沼の向こうの高台がコヨ・タキッシェと遭遇した森だ。
「特に変わったところはないか……」
圭はつぶやいた。横を歩くリバは、ふぁーあ、と大欠伸する。
「ケイの考え過ぎだよ」
「コヨ・タキッシェさんは向こうから何かを見てたと思うんだけど」
「でも展望台は展望するトコだし」
「確かにね。意外と見晴らしがいいんだって僕も思ったよ」
「ケイの地元でしょ、ここらへんて。よく行くようなトコじゃないの?」
「三日前が初めてだよ。地味っていえば地味なところだし、だいぶ遠回りしないと行けないし。でもリバが背中に乗せていってくれたからあっという間だったね!」
「そんな大したことじゃないし……」
「僕はもう少し見て回ってみるよ。リバは先に帰ってていいよ」
「どこかで日向ぼっこでもして待ってるよ。そのほうがケイも帰るの楽でしょ?」
「ありがと!」
お礼をいわれてリバは嬉しい。
(やっぱりケイはやさしい……。……。ボクは誰かの役に立ちたい。おおげさに盛大に感謝されなくていい。誰かの役に立ってその誰かが嬉しいと思って、ありがと、っていってくれたらボクも嬉しい。これからもケイの役に立ちたいな……)
古い集落をリバはトボトボ歩いていく。
(アイツは僕が役に立つといった。そしてモミョ族の評価も上がるって……)
仮面の男からリバが与えられた任務は防衛局周辺での撹乱だった。とにかく動き回れと指示されたのだ。男から聞いたのはこれ以上でも以下でもない。
(そういえばボクはアイツの本当の名前さえ知らない……。ん、なんだ!?)
急に黒い霧が渦巻いたかと思えば、その「アイツ」が目の前には現れた。ローブで全身を覆ってフードと仮面で顔を隠した男だ。実体はここにはない。




