#9 手記
翌日。急遽結成された〝ふさこがね〟改め〝うさこがね〟名称変更検討協議会の第一回協議がオンラインで執り行われ、三分で終わって即解散となったところ(誰も反対しなかった)、カルナから通信が入った。
ルクフェネはぴゅ〜と(?)退散してしまったので圭が応対する。
「ハイハーイ、圭クンご苦労さま〜♪ 〈セグレンデの二つ耳〉の古い記録を見つけたから、そのお知らせだよん♪ なんと〈セグレンデの二つ耳〉を創造したアルテリウアの教え子が書いた手記!」
「本当ですか!? いろいろなことがわかりそうですね!」
「限度はあるけどね、あくまでも教え子が見聞きしたことだから」
「でもそんな貴重な記録を探し出してくるなんて、すごいですよ! さすがカルナさん!」
「圭クンってば、持ち上げるのうまいんだからぁ♪ 嬉しいから謙遜しないでそのまま受け取っちゃう♡ でね、やっぱり〝おまじない〟じゃなくてなユーグネアだった。ただ〝おまじない〟というのもあながち的外れな表現でもないんだ。このユーグネアに二つある特異性のうち、一つがそれを物語っている。圭クンも気づいてるでしょ?」
「ユーグネアの発動にユクルユフェーアが介在しなかったこと、アルテリウアの意思に関係なく発動したこと、でしょうか?」
「そう、でもユクルユフェーアが介在しなかったというのは少し違うかもしれない。ユーグネアの本質はユクルユフェーアだから確かにそれはあった、でももっと曖昧で原始的な形で存在していた」
「文字ではなく、言葉そのもの——あるいは言葉にもならないもの?」
「言葉はこころの現れであって、文字はそれを固定化したものだけど、その過程で失ったものは多いと思うんだ。言葉にしたときに言葉では表現できないものは忘れられ、文字にしたときにもやっぱり文字では表現できない何かは捨てられてしまった、って感じかな」
「その代わりに得たのが確実性ということですね。実務を負う現代のアルテリウアは『もしかしたら』の力に頼るわけにはいかないでしょうし」
「でも追究する価値はあると思うよ、ルクフェネのユーグネアは原セヴァ語がベースだし。それに特異性のもう一方がその価値を確かなものにしてくれる。〈セグレンデの二つ耳〉はアルテリウア一人だけでは成り立たない。こんなユーグネアはほかにないよ。つまりルクフェネがいて、そして圭クンがいてくれて初めて意味があるということ! ずばり、圭クンこそが重要な要素なんだよ!!」
「ありがとうございます、カルナさんも持ち上げるのうまいですね。でもどう考えても僕ではなくアルテリウア、それも優れたアルテリウアだったらもっと効果を引き出せてますよね?」
「またまた♪ わかってるでしょ♥ 圭クンだからこそでしょ? お姉さんも野暮じゃないからこれ以上はいわないけど♡」
「?」
「ともかく訓練は継続するように! 業務の一部と考えていいから!」
「あ、はい! 了解です!」
カルナが急に生真面目にいうものだから、圭は座り直して背筋をまっすぐにした——が、カルナの本体(脳内にいる)は変わりなく、にゅるんと溶けた表情で軽やかに踊っていた。
(これって業務中の恋愛を許可したどころか推奨したようなもんじゃない!? わあ、あたしってば、なんていい上司なんだろ♡ 呼吸を合わせるために手取りは足取り密着したりなんかして? きゃー♥)




