#8 信頼
そんなリバの後ろ姿を見て、圭はルクフェネに視線を送った。
「もう圭は優しいんだから」
ルクフェネはおむすびをもったまま少し面倒くさそうに立ち上がった。展望台の先までいって、柵越しに古利根沼を見下ろす。
「でも甘やかし過ぎだよ。厳しくビシビシ鍛えてあげないとまた騙されちゃう」
「まあまあ、そこはお手柔らかに」
「でもこのおむすび、すごくおいしいね」
ルクフェネは機嫌を直して、おむすびを頬張る。もちろん普通サイズ。
「気に入ってもらえた?」
「うん、気に入りました。銘柄は〝ふさこがね〟だよね? 〝こがね〟はわかるけど、〝ふさ〟って何だろ?」
「ものすごい昔に『総の国』があって、それが二つに分けられて『上つ総』と『下つ総』、つまり上総と下総になったんだって。その『総』のことみたい」
「それなら〝ふさこがね〟じゃなくて〝うさこがね〟にすればよかったのに! 黄金色……金色に輝く兎! 伝説っぽくてうけそう! いいキャッチコピーが浮かびそうな気がする!」
交易の種族セヴァの血が騒ぐらしい。
「どこでブランドを管理してるのか、あとで調べておくよ。変更を提案する方向でいいよね?」
カルナが総督としてシモウサに入った時期は早い。初期段階の〈宇宙の扉〉は基本的に安定しないものだが、シモウサの場合はそれが極端で、防衛局司令としてルクフェネが赴任したのはカルナに遅れて二週間後のことだった。
常識的な侵入者——侵入者に常識があるというのもよくわからないが——はそんな〈宇宙の扉〉を突破しようとはしないので防衛局が未開設でも特に問題はなかったのだ。しかし、そのぶん商いに関しては後れを取っている。
「助かる! カルナには先を越されちゃったけど、頑張って巻き返そうねっ!」
「僕も頑張るよ!」
圭も力強く答えたものの、これは防衛局の業務なのだろうかと若干、疑問に思った。
【ふさこがね】
お米の品種の一つであり、千葉県が誇る銘柄。ふっくらとした炊き上がりと、もっちりとした粘りが特徴。冷めても硬くなりにくいので、おむすびにどうぞ。
「ここから何見てたのかな?」
圭は古利根沼の向こうへ視線を伸ばす。とはいえ向こうは小堀の集落が見えるばかりだ。ただぼんやり眺望を楽しんでいただけかもしれない。
「でもこんな遠く離れた星にもう来ているなんて、冒険者ってすごいね」
「うーん」ルクフェネは曖昧な返事をする。「ちょっと早い気がするのよね……」
圭は首を傾げる。
「確かに一番乗りには間違いないけど、まだ観光目的では査証は発行されないはず。研究目的とか理由をつければ出るには出るし、ああいう職業だといろいろツテもあるでしょうけど。部局によっては緩いところもあるし」
「総督府からってことは?」
「カルナは絶対出さない。普段はあんな感じの人だけど、おかしな判断は絶対にしない」
「やっぱり信頼してるんだね、カルナさんのこと」
「信頼っていうか……。……」
ルクフェネは口を尖らせて、それ以上は何もいわなかった。




