#5 年ごろの男の子と女の子の色気のない会話
香取神宮。
メール着信の通知を横目に見て、カルナはウィンドウを切り替えた。それは「ルクフェネが同窓会に来てくれる!」と嬉しそうに書かれたメールだった。
テチャ・マルテはルクフェネの士官学校同期生だ。派手さはないけれど堅実派で、何より思いやりのある優しい子だ。ルクフェネは通例より一年早く入学しているし、なおかつ飛び級もしているから年齢は二つ上ということになる。いつも一人のルクフェネによく話しかけて、ランチに誘ってくれたりもしていた。
(よかったじゃん、テチャ……)
自然と笑みがこぼれる。
(やっかむ連中がいたのも、それが多かったのも事実だけれど、テチャ以外にもルクフェネの実力を率直に認めて見守ってくれた同級生はちゃんといるよ)
でもどんなに手を伸ばしても、相手がその手に触れてくれなければ救い出すことはできない。
(とにかく話してみようね、気まずいかもしれないけど最初だけだから。きっと一生の友達になるよ。けど何よりも先にテチャにお礼をいいなよ、ありがと、って一言でいいから)
「カルナさん、お仕事中ですか? でも甘いものが届いちゃったから強制終了ですよ〜」
間借りしているので総督府の執務室とはいっても何か仕切りがあるわけでもない。巫女の若葉さんが差し出してくれたのは涼やかな和菓子だ。
「わあっ、ステキなお菓子♡ 強制終了大歓迎ですぅ♥」
「孔雀堂さんの新作ですよ」
「夏らしくてまるで香取神宮の杜を渡る風のようで、でもすごくおいしそう♪ 御主人はお元気になりましたか?」
「はい!」若葉さんは破顔する。「もうずいぶんなお歳で、継いでくれる人もいないし売上も落ちるばかりだからもうやめるって、気落ちされていたんですけど。百光年離れたところから感想が届いて、それも小さな子供たちの笑顔だったものですから、やる気百倍って感じで! カルナさんには大感謝です!」
「いえいえいえ、紹介しただけだし、まだイベントで限定販売しただけですから。かつてないほどの反響でしたけど。でも、本格的に販売するにしても今の規模がちょうどいいのかもしれませんね」
「わたしもそう思います。きっと大量生産したり、流行りの味に寄せていったらもう孔雀堂さんじゃないです。でもあの頑固さはとても心配ですけど」
「実はその頑固さの話をしたら、弟子入りの相談が来ちゃったんですけど、どう思います? なんかすごい感銘を受けたみたいで」
「本当ですか!? わー、九十九パーセント破談しそうですけど、残りの一パーセントに賭けて、あとは御祈祷でどうにかしてみます!」
「頼もしいです♡」
「カルナさんも何だか嬉しそうでしたけど、いいことありました?」
「後輩ちゃんの一人が器用に人付き合いできるタイプじゃなくて、でもずっと気にかけてくれてた子もいて、それでどういう心境の変化か同窓会に誘ったら来てくれるって」
「まあ! よかったですね! きっと気持ちを理解してくれる素敵な方がそばにいてくれて、優しく肩を押してくれたんですよ!」
「若葉さんもそう思います!?」
「絶対そうですよ!! わあ、いいですね〜。ランチのとき、もう少し詳しく聞かせてください!」
「もちろんですぅ♪」
カルナは端末のスリープを解いて、メールの返信を書きはじめる。
(やっぱり圭クンが何かいってくれたんだよね〜♪ ああもう、早くマチガイ起こしちゃってよ♥ ルクフェネってば、世間からいろいろずれまくってるし、友達いないし、性格めんどいし、オシャレ気にしないし、色気ないし、ガサツだし、このままじゃ一生一人きりだよ〜、お姉さん心配だよ〜、圭クンどうにかしてよ〜。年ごろの男の子は年ごろの女の子と一緒にいたら、それがルクフェネであってもそこそこときめいて、何かしらのことはしたくなるんでしょ〜?(涙))
ひどいいわれよう。
❖
古利根沼の森。シンクロ訓練を終えて、今度は基礎体力を強化しようと圭は森の中を走っていた。
ルクフェネのほうはまるで物足りないので、ずいぶん先まで行ってからとんぼ返りして、圭へ向かって急接近、高く宙返りしながら頭の上を跳び越え、着地したかと思えば木の幹を回し蹴り(自然は大切にしましょう)。
「ねえ! けっこうパンツ見せまくってるよ!」
「ほんと? それならもっと動きをコンパクトにしないと!」
そういう問題ではない。
以上、年ごろの男の子と年ごろの女の子の色気のない会話。




