#1 何とかしてあげたいとは思うものの
3. 絆
「重量オーバーだよぉ!」
利根川の堤防の上で、リバは不満を訴えた。背中にはルクフェネと圭が乗っている。
「ルクはあのイヌワシに乗ればいいじゃん!」
「うるさい」
問答無用。
「素直に従いなさい。それからルクフェネって、きちんと呼びなさい」
「だって呼びづらいんだもん!」
前脚で首筋を掻こうとすれば、鉤爪の先にバチバチッと静電気が走る。リバは口をヘの字に曲げた。
「飛ぶのはあまり得意じゃないんだ!」
「だから?」
「……」
リバは諦めて翼を広げた。コウモリのように骨張った翼だ。力強く羽ばたく——が。
「あ〜もう、そんなに大きく動かさないで! 乗り心地が悪くなるじゃない!」
「無茶苦茶だ〜! ねえ、ケイからも何とかいってよっ!」
「ははは……」圭は苦笑い。「まあ、仲良くしようよ」
「ふうんだ、逆らわなければいいわけだから、仲間なんかにならないもんねー。知ってることだって、話さないんだー」
「そうね」ルクフェネは不思議に同意する。「長生きしたければ話さないほうが賢明でしょうね。気づいていないようだから教えてあげるけど、仮面の男の名前や素性を話したら死んじゃうよ、そういうユーグネアが掛けられてるから」
「……」
リバは風をつかんで上昇していく。
ある程度の高度を稼いだら滑空に移って利根川を渡っていく。晴れ渡った空も、広い河川敷の緑も清々しい。空を映した川面がきらめく。
利根川の川幅は、取手付近では広いところで一キロを超えるほどになる。ただ梅雨前の時期にあってはまだまだ河川敷のほうが広い。
対岸は小堀地区、いわゆる「飛地」と呼ばれる場所で、取手市内では唯一利根川より南側にあるところだ。もともとは地続きだったのだけれども河川改修で利根川の流れが変わって分断されてしまったのだ。
古い流路は切り離されて古利根沼として、いまも残っている。
【古利根沼】
いわゆる三日月湖、利根川が前後で直線化された結果、残った部分。専門的には河跡湖といい、小堀地区はこの古利根沼と利根川(現在の流路)に囲まれている。沼の南は隣の我孫子市で、周囲の森とともに自然公園として整備されている。かつての利根川の景観を残す貴重な場所である。
ルクフェネの淡い桃色の髪が風に踊る。
「気持ちいいね!」
「……」
「まあまあ……」
リバは苦虫を噛みつぶすばかりだ。圭はなだめるしかない。
きのう圭は改めてモミョ族について調べてみた。ルクフェネがいうように、モミョ族はセーグフレードでは普通に暮らしているけれども、他国では蔑まされることが多いらしい。
理由は四足歩行、ただそれだけ。
(ちょっとおっとりしたところがあるみたいだけど、普通に知性があって言葉も話すし、文字も書けるのに……)
それどころか過酷な環境への耐性は突出していて、明らかにほかの種族よりも優れている。真空の宇宙空間や亜空間にあっても生存できて、開かれたばかりの不安定な〈宇宙の扉〉でさえ生身で通り抜けられるのだから。
もっとも亜空間に張り巡らされた通路で結びつく現在の宇宙で、この並外れた強靭さこそ、斥候としていいように利用されてしまう要因ではある。
リバも仮面の男に利用されていた——あるいは、利用されている。
(秘密を漏らしたとたんに命を奪うユーグネア……。本人へ伝えていたとしてもひどいのに、黙っていたということはリバを捨て駒としか考えていない……)
圭は何とかしてリバを救ってあげたい——のだが。
「ちょっと、あそこに降りなさいっていったでしょ!」
「だからぁ、あんな木がいっぱいのところは無理だって!」
「やってみなくちゃ、わからないでしょ!」
「やってみなくたって、わかるって!」
「ははーん、そういうことね……」
「な、なんだよ、そういうってさ」
「意気地なし〜 根性なし〜」
「違わい! 慎重なだけさ!」
「は〜ん、ものはいいようね!」
圭とルクフェネはこれからユクルユフェーアのシンクロ訓練をすることになっていた。リバの背に乗って利根川を渡っているのもその場所へ向かうため(とリバの飛行能力の確認を兼ねて)だったのだが、はたして無事に訓練を始められるのか圭にもわからなかった。




