#2 総督府
同じころ、香取市は香取神宮ではセーグフレード領シモウサ総督カルナ・ウィーディルビルグは拝殿に望んでいた。
身にまとうのはルクフェネと同じ蒼穹軍の制服だ。雪色の縁取りがある夜の色のツーピースに深いワインレッドのケープを合わせている。羽飾りの帽子は外して菖蒲色の双眸をキリリと引き締め、普段は穏やかで柔かな口許も厳しくする。
深いお辞儀を二回。両手を少しずらして拍手を二回。両手を合わせて心を静かに。最後にもう一度、深くお辞儀——以上、二礼二拍手一礼。
振り返れば晴れ渡った空の青に、杜の緑がまぶしい。香取神宮の境内は広く、石畳の道が赤い楼門へと続いている。
「あらカルナさん、おはようございます!」
笑顔を見せたのは巫女装束に身を包んだ女性だ。カルナのキリリモードの表情は、にゅるん(?)と溶けて終了した。
「おはようございます〜♪ 若葉さん。今日もいい天気ですね〜♪」
「そうですね!」
巫女装束は白衣と緋袴、足下は白足袋に赤い鼻緒の草履というのが基本だ。
(いいな〜。いつか着てみたいな〜)
交易の国セーグフレードは、言葉とともに相手の文化を尊重する。それは領土にした場所であっても変わらない。異文化には常に敬意を持って接し、いつでも誠実でなければならない。習慣や、特に伝統的な衣装や装身具は相手から勧められるまで、真似したり身に付けたりしてはいけない。
侮蔑と受け取られたら最悪だ。そこから信頼を取り戻すのは並大抵のことではない。
もちろん寛容を美徳とする文化が大半だから、そこまで極端な例はないし、共感と受け取ってもらえることのほうが多い。でも、というよりむしろだからこそ、相手が大切にしているところへは無遠慮に立ち入るべきではない。
というわけで、カルナはこころに思う。(いつか自然な流れで……)
セーグフレード領シモウサ総督府は香取神宮の社務所を間借りしている。関係はきわめて良好だ。巫女の若葉さんとは歳が近いこともあってとても仲がいい。
「お昼はどうします?」
「またご一緒させてもらえますか♪」
「もちろん! 木陰庵さんにお弁当をお願いしようと思ってるんです。自家製ハーブと新鮮なお野菜が自慢のところですよ」
「じゃあ、若葉さんと同じので。若葉さんのチョイス、もうばっちしだから〜♥」
「やん、カルナさんったらお上手なんだから! ではまたのちほど!」
「のちほど〜♡」
(木陰庵さんのお弁当……。楽しみ♪)
むふふん。神楽殿の奥にある社務所へ戻りながら、ふとカルナは思い出した。
(そういえばどうなかったかなん♥)
それは前日のことだった。
リバの背に揺られて防衛局オフィスに帰着したころには、ルクフェネはすっかり熟睡していた。
防衛局のオフィスは取手駅の西口、駅ビル横の坂道の途中にあった。正確にいえば、七階建ての建物のうち借り上げた三階から上がセーグフレード領シモウサ総督府防衛局で、三階がオフィス、五階がルクフェネの住居になっていた(ほかは予備)。住居はプライベートな空間だからルクフェネ以外は立ち入れないし、そもそもエレベーターが止まらない。
そういうわけで、圭から連絡を受けたカルナは遠隔操作でそのロックを解除してあげたのだ。




