#14 拒絶していたのは自分のほうだったのかもしれない
(すごい。これも天性の力なのかな……)
ルクフェネはあらためて感心して、そして少し寂しい。
物心ついたころにはすでに自分にはそれがないということに気がついていた。だから幼いルクフェネは頑張ることに決めた。ちょっとずつだっていい、努力を惜しまなければどんなことでもいつかきっとできることと知っていたから。
天より与えられたものがあれば、こんなにも苦労しないで済むのだろうかと考えることはある。だけど、ルクフェネはそれでもいいと思っている。
誰かが羨ましいのはその人のようになりたいと望んでいるから。誰かが妬ましいのはその人のようになれていない自分が悔しくてたまらないから。
いつかそうなれるように頑張ればいい。
圭の能力は正当に評価したい。与えられたものがあるのなら使うべきだ。あるものを使わずにわざわざ苦労するなんて馬鹿馬鹿しい。
少し胸が苦しいのは自分とは違うことに寂しさを感じるからだ。
ふと、圭は安堵したように表情を崩して、それから本当に嬉しくてたまらないように笑顔を見せた。
「よかった、またルクフェネの役に立てそうだね! 小さいころから思ったようにできないことばかりで、だから何度も何度も繰り返して、コツをつかむのだけは得意になれたんだ。なんだかこれからも頑張っていけそう!」
「まさか天性のものとしか」いいかけてルクフェネはやめた。
真実であるのなら同じ思いを分かちあえるかもしれないから。嘘であっても圭の優しさを感じられるから。どちらであっても嬉しい。
「うまくいくかはわからないけど、やってみる?」
「きっとうまくいくよ。どんなことにも可能性はあるから」
「うん……」
小文間の高台は東西に長く、中央を通る県道を軸に集落は分散している。
(リバは北東方向へ飛び出してくる)
圭は推測する。高台から離れるのなら県道を通るのが手っ取り早いが、交通量が多くて目立ち過ぎる。とすれば北側か南側となるものの南側は深い森で、どうにか抜けたところで利根川に行く手を阻まれる。つまりルートはおのずと北側に限定される。
もっともその北側も急斜面の樹林帯だ。最初わざわざ高台から離れる方向へ逃げたことからわかるように、モミョ族は狭いところを移動するのは得意としていない。ルクフェネの攻撃から逃れたときも道路を駆け上がっていったのだ。同じ道は避けるだろうから選択肢は数えるほどしかない。
ルクフェネと圭は二手に分かれて生い茂る木々の陰で息を潜めた。
(どんなことにも可能性はあるから)
圭の言葉をルクフェネはこころの中に繰り返した。夏の訪れを予感させる風がさやさやと鼻先をくすぐる。
士官学校での生活、ひとりぼっちの二年間。拒絶されたと思っていたけれど、でも拒絶していたのは自分のほうだったのかもしれない。何の苦労もなく入ってきたように見えるルクフェネの存在を、面白く思わなかった連中がいたのは事実だ。けれども全員ではない。
どんなことにも可能性はある。はじめからその可能性の蕾を摘んでしまったのは自分のほうだったのかもしれない。もう一度こころの中に繰り返す。
(どんなことにも可能性はあるから……)




