#12 わからないことは後回しにしたほうがいい
相手は猛烈な速度で突っ込んでくる。空中では自由が利かない。ルクフェネは大剣フォンティニーレを捨てて左手を空ける。
(風のように隼のように——)
瞬間的にスピードをアップさせるユーグネアだ。しかし指先で描いた紋様は大きく乱れる。
「ルクフェネ!!」
圭はとっさに覚えていたその紋様を指先で描いた。
(間に合わない……! えっ!?)
急接近したモミョ族の侵入者は切り裂き、叩き落とさんばかりに腕を振り上げた。その腕が空を切る。残像になって消えたルクフェネは圭の近くに降り立った。
「なにが……!!」
ふらついて片膝を突く。圭が駆け寄る。
「ルクフェネ!! だ、だいじょうぶ!?」
「ちょ……ちょっと力が抜けただけ……」
高台へ逃げる侵入者の後ろ姿をルクフェネは視線で追う。
「いったい何が……」ルクフェネは左手の人さし指を茫然と見つめた。「ユクルユフェーアは不完全だったのに……?」
「僕も思わず、風のように隼のようにって……」
圭は指先でユクルユフェーアを紡いで見せた。その軌跡は正確だった。しかし圭はアルテリウアではない。事実として、いま圭がユクルユフェーアを正確に紡いだところで何も起こらない。
それに力の根源が自分自身にあるという確信がルクフェネにはある。つまりユーグネアを発動させたのはアルテリウアであるルクフェネなのだ。
(でもわたしのユクルユフェーアは不完全で、圭が描いたユクルユフェーアは完璧だった。圭のユクルユフェーアが代わりになってくれた……?)
あり得ない。しかしそれ以外に説明できない。
「とりあえず侵入者を追おうよ」
「そうね……」
わからないことは後回しにしたほうがいい。ルクフェネも同意した。
それにしてもわからないことといえば圭の能力だ。
(あの複雑に絡み合って入り組んだユクルユフェーアを読めるのはもう受け容れたけど、それを覚えていて、さらにまったく正確に再現できるなんて……)
やっぱり少し寂しい。ルクフェネは思いを振り払うかのように首を振って、説明をはじめた。
「外見からよく誤解されるけれど、モミョ族はわたしたちと同じように知性と言葉を持った種族なの。数は少ないけどセーグフレードではふつうに暮らしてる。でもちょっとおっとりしたところもあって、ほかの国では蔑まされることも多いみたい」
「ずいぶん凶暴な印象だったけど、それは介在している力の影響……?」
「たぶん」
こんもりと島のように盛り上がった小文間の高台。古くからの民家と畑が入り交じって、それを林がぐるりと囲んでいる。その南の一角、鬱蒼とした森の中にモミョ族の侵入者の姿はあった。
黒いローブをまとってフードと仮面で顔を隠した男が近くにいる。
「治癒と回復」
仮面の男が手をかざせばモミョ族の侵入者の傷が癒えていく。苦しそうな表情が和らぐ。
(アルテリウア……?)
(でも実体はここにはいない)
圭はつぶやく。ルクフェネは頷く。
確かに男の見える部分はどこかぼんやりとしていて、ローブで全身を覆ってフードと仮面で顔を隠しているというより、服と仮面に憑依しているというのが正確なようだ。
そもそもユクルユフェーアを描く手は手首から先が浮いていて体とは繋がっていない。




