#11 なにをいまさら
水田の間を抜ける道路。降り立ったルクフェネは大剣を左手に持ってモミョ族の侵入者と対峙した。攻撃を受けた以上は正当防衛が成立するというわけだ。相手も逃げるのは諦めたのか唸りながら間合いを計る。
夏の匂いが混じった風に帽子の羽飾りが揺れる。左耳がもともとあったもの、右耳は圭と交換したもの。
ルクフェネはふと、返信しそこねたメールを思い出した。同窓会を知らせるメールだ。
(こんなときに……)
ルクフェネが蒼穹軍の道を選んだのはアルテリウアとして力を発揮できるからであり、人の役にも立てるからだ。
軍を名乗っているけれども蒼穹軍は防衛組織であり、特に星間国家間の関係が緩やかな平和的均衡にある現在、その役割は災害救助活動や医療活動、またその予防のための活動にシフトしつつある。
入学試験は正規のものだ。特別扱いなんてされたくない。特別扱いさせなかったことが、唯一行使した王族の特権かもしれない。
そうしてはじまった士官学校での生活。ルクフェネの周りには誰もいなかった。徹底的に拒絶されたとルクフェネはいまでも感じている。
ダントツの成績で試験を突破して一年早く入学することを許された王族の天才児——これがルクフェネに対する形容だ。
士官学校の合格率は一割にも満たない。現役で入れるのはよほど優れている者だけであって、ほとんどが二度三度の試験を経験している。難関をようやく越えてきた彼らにしてみれば、何の苦労もなく入ってきた——ように見える——ルクフェネの存在は面白くない。
心外もいいところなのだが、ルクフェネはわざわざ説明することもしなかった。説明したところで相手はまともに取り合わない。不愉快な思いをするのは結局は自分のほう。
修練に集中できるから都合がいいと、ルクフェネは士官学校での二年間をたった一人で過ごした。
そんなルクフェネに「同窓会のお知らせ」。
(なにをいまさら……)
侵入者は鋭い鉤爪を振り降ろした。
ルクフェネはフォンティニーレで受け流し、そのままの流れで懐に潜り込む。真下から切り上げる。侵入者は後ろへ飛び退く。
「ルクフェネ! やっと追いついた!」
かなりの猛スピードでやってきた圭がプランシェ(ケリンチョ・モード)を横滑りさせて近くに止まった。
「やっと慣れたよ!」
「(超簡易モードで通常モード以上の性能を引き出しちゃったのね……。うーん、圭はよくわからない)……。周辺の索敵をお願い!」
「了解!」
モミョ族の侵入者は再びルクフェネめがけて突っ込んでくる。ルクフェネは右手を開いた。持っていたセンテーレが大気に溶け込んで消える。左手で紋様を描く。
(強き熱き力よ、我が身に宿れ)
相手を受け流し、流れのままに蹴り飛ばす。侵入者はアスファルトに叩きつけられる——が、ダメージはそれほどでもないのか、そのアスファルトに爪を立ててにじり寄ってくる。骨張った翼を刃のように広げる。
(いま火と鋼の力を解き放つ、ロクティーレ)巨大な重火器が実体化して右手に収まる。(長引かせるとやっかいね)
向かってきた相手に大剣を振り下ろし、返す刀で薙ぎ払う。ひるんだ相手の鼻っ柱を蹴り上げ、回し蹴りを叩き込む。ルクフェネは高く跳び上がって、吹っ飛した侵入者にロクティーレを向けた——が。
照準の中、侵入者の向こうで子供たちが立ちすくんでいた。散歩中の園児たちだ。
(い、いけない……!!)
トリガーに添えた指を緩めて次の一手を考える。焦燥が動作を微妙に遅らせる。そこに間隙が生まれ、侵入者は起き上がってバッと翼を広げた。




