#7 頼りにしていいのな?
侵入者の存在が最初に検知されたのは、駅からほど近い常磐線の鉄橋付近だった。しかしそれは数分前のこと。ルクフェネは指先で紋様を描いて高く跳躍した。
(強き熱き力よ、我が身に宿れ)
張り出した小屋根を足がかりに駅ビルの屋上へ。すぐ足下は取手駅のプラットフォームだ。南端へ行けば、向こうに利根川を渡る長い鉄橋が見える。付近にもう侵入者の姿はない。かすかな痕跡でも残っていないかと、装着したゴーグルの画面に流れる情報を探る——と、右耳に圭の声が届いた。
「これまでの追跡記録とモミョ族の一般的な行動パターンからシミュレートしたよ! だいぶ幅はあるけど、東へ3.5キロの地点を中心にした半径100メートル以内にいる確率が90パーセント!」
「……」
(もう使いこなしているし……)詳細な地図に同期された情報がリアルタイムに書き込まれていく。(あとこれは『だいぶ幅がある』とはいわないし……)
ふと、まえにカルナに説教されたことを思い出す。
「キミはもう少し人に頼りなさい」
ルクフェネは苦虫を噛みつぶしつつも、柔らかく微笑んだ。
(頼っちゃおうかな)つぶやいて、それから表情をキリリとさせる。(さて任務遂行! オーデ、草原の空をともに渡ろう)
新しい紋様を指先で描けば、ルクフェネの前には大きな鳥の幻影が現れた。幅広で黒褐色の翼をふわりと広げて降り立つ。半透明に向こうの景色を通す、淡く仄かな光をまとった幻影のイヌワシだ。
オーデは振り返って、気高い黄金色の瞳でルクフェネを促した。
(うん頼んだよ、オーデ)
背中に飛び乗って乗って、首筋を優しく撫でればオーデは目を細める。
「圭、さきに行ってる。プランシェで追いかけてきてくれる?」
そういってからルクフェネはまだ説明していないことに気がついた。
(でもよくよく考えたら通信機も端末機も簡単に使いこなすわけだし。子供でも使えるようなものだから、かえって圭には申し訳ないかも)
圭はようやくバスロータリーまで下ってきたところだった。脇に抱えていたプランシェを地面におく。ゴーグルの画面を確認しながらリモートで指示を与えれば、プランシェは十数センチ浮き上がった。
形からすると車輪のついていないスケボーのようなものなのだが、マニュアルによればそのとおりらしい。
「うーん……」
圭はおそるおそる両足を乗せる。プランシェは自動的に動き出す。重心を変化させることで加減速も方向転換もできるものらしい。しかし圭は数メートルも進めず、派手にすっ転んだ。
「これ、無理かも……」
「(なぜにプランシェだけ!?)……。超簡易モードに切り替えてみる?」
ボードの一部が自動的に分離してT字型のハンドルバーが立ち上がる。車輪レス自走タイプのキックボード、もしくは〝ケリンチョ〟である。
「これならいけそう! ありがと!」
「無理しない範囲で付いてきてね……」
「了解!」
元気よく応えるものの、それでもまだ危なっかしい。ルクフェネは思い悩んだ。
(頼りにしていいのかな……?)




