#6 セグレンデの二つ耳
「そうだ、せっかくだから」
ルクフェネは自分の帽子を手に取った。
深い夜の色の帽子には、両側に雪色の大きな羽飾りが付いている。雪兎の両耳を模したものだ。ルクフェネはその片方を外して圭に手渡した。
「〈セグレンデの二つ耳〉っていうおまじない。交換すると、こころとこころがつながるんだって」
「セグレンデって、セーグフレードを創った神さまだよね」
圭も倣って羽飾りを取り外す。
ルクフェネは窓際に立て掛けてあった板状の何かを持ってきた。車輪のついていないスケボーのようなものだ。金属とセラミックの中間のような材質で反り返ってはいない。
「おまじないは小さなころにおばあちゃんが教えてくれたの。それからこれも。プランシェっていう簡易的な移動装置なんだけど」
——と、通信機から警告音が鳴り響いた。
「侵入者ヲ検知! 侵入者ヲ検知! タダチニ行動ヲ開始セヨ——!」
二人は視線を交わした。ルクフェネはオフィスから飛び出す。圭もプランシェを脇に抱えて通信機を装着しながらあとを追った。ゴーグルもリスト部分も自動的に変形して顔と手首にフィットして、さらに右耳と手の甲までカバーした。
ゴーグルの中に投影された画面は侵入者の情報で埋まっていく。昨日のグレイルに比べればまだずっと遠い。にもかかわらずかなり詳しいところまで分析できている。右耳にルクフェネの声が届く。
「生体なら遠隔でもわかるの!」
種族は「モミョ族」とあった。
見た目はずんぐりもっさりした長毛種の猫そのものだった。尻尾が三本あって背中にはコウモリのような大きな翼が生えているから、たぶん違うけれども。あとライオン並にでかい。
圭は階段を降り切って外に飛び出した。
取手市は利根川をのぞむ茨城県南端の街だ。北から東へはぐるりと小貝川も流れて利根川へ合流しているから、三方を川に囲まれていることになる。
市の中央部を南北に水戸街道と常磐線が縦断する。常磐線が利根川を渡ってすぐのところにあるのが取手駅、小貝川を渡る手前にあるのが藤代駅。街並みはこの二つの駅と取手駅から西へ分岐する常総線沿いに広がる一方、北部や東部にはまだ田畑が多く残っていた。
端的にいってしまえば、とりたてて珍しいものはない典型的な郊外の街だ。ただ住むぶんにはそこそこ快適なところだし、これといった特色が無かったところで困ることもないので、誰も気にしていない。
防衛局のオフィスは取手駅の西口、駅ビル横の坂道の途中にあった。坂を登れば高台の住宅地、坂を下りればバス乗り場だ。バス乗り場は歩行者向けのペデストリアンデッキで覆われ、デッキは駅の改札口と向かいの商業ビルなどを結んでいる——。
そのデッキの階段をルクフェネは一気に駆け上った。




