#3 記憶の場所
ルクフェネとアヤメちゃん、ツムギちゃんを乗せたオーデは深夜の空を飛んでいた。
ツムギちゃんを前に、それをアヤメちゃんが支えて、さらに後ろでルクフェネが抱きかかえている。
「そろそろ見えてくると思いますよ」
「よく覚えていましたね、アヤメちゃん。結城のほうがずっと近いのに、わたしはすっかり忘れていました」
「ふふふ、水辺のことはわたしや霞ケ浦にお任せを。それにツムギちゃんが忘れてしまうのは無理ないもの」
「兎谷津沼……素敵な名前だね!」
「でもいまはただの釣り堀ですよ。釣り堀にしてはやたら大きいですけど」
「アヤメちゃんにいわれてようやく思い出しましたが、確かに昔は蛍が舞う豊かな水辺でした。でもその姿が失われて久しいです」
「アルテリウア・ユーヴェやユクルユフェーアのお話を聞いて、そしてセヴァのみなさんが雪兎を大切にしていると伺って、兎谷津沼を蘇らせれば天地の力は強まると考えたんです」
「〝境〟と呼ばれる結界も弱まることでしょう」
「でも、もう失われてしまった自然を蘇らせることなんて可能なの?」
「わたしたちは精霊ですよ。精霊は自然や人の想いそのものです」
「なるほど……」
「それにツムギちゃんがいてくれるから、大船に乗った気分でいてください!」
「あらあら。でも紡ぐのは得意ですから安心してくださいね。……ルクフェネさん?」
「何か来る……。アヤメちゃん、ツムギちゃんを強く抱き締めて! オーデ、ごめん!!」
ルクフェネはアヤメちゃんを抱きかかえたまま、オーデの背中を強く蹴って跳躍した。そこへ立て続けに光弾が襲う。残像が交錯する。
(風のように隼のように)
左手自由にしてすばやく軌跡を描く。大気を切り裂いて一気に地面へ迫る。
(揺るぎなく確かな絆、ふんわりと)
どうにか着地する。ルクフェネはゴーグルを装着して画面を確認した。
(ローゲイル(無生物)八体、これ以外はわからない……)
そこは一本の道路をはさんで東西に大小の池が並ぶ場所だった。およそ自然の池だったころの面影はなく、はじめから人工のものだったといわれてもわからない。
ルクフェネはアヤメちゃんとツグミちゃんを残して走り出した。視線で八体を威圧する。
(わかってるでしょうね、こっちがあんたたちの標的だって!)
ローゲイルは重装備のロボットだ。極端に柄の短いランスのような巨大な円錐形の矛を両手に握って、その手許や肩口にはいくつもの銃口と鋭利な突起を見せていた。重そうな脚も同じで膝からは角、足の指先からは鋭い鉤爪が突き出す。全身を覆うのは甲羅のような鎧だ。
八体はそれぞれ無機質な赤い目でルクフェネを視覚にとらえた。
(強き熱き力よ、我が身に宿れ)
ルクフェネはこころの中で唱え、同時に指先を素早く空中に走らせた。加速する。適度に相手をしながら引きつけるように南へ。
一体へ接近する。相手は赤い目でその動きを見定め、素早く身構える。その鈍重な印象に反してローゲイルの動きは速い。ほかの七体がいっせいにマシンガンを連射してくる。
ルクフェネは体を返して翻った。とんぼ返りで背後に回る。光弾はその一体に集中するけれども、そのすべては弾かれた。
(集中砲火を喰らったのにまるで何ともない! やっぱり頑丈ね……でもそういうことなら……)
ローゲイルはすぐにルクフェネを見つけて巨大な矛を振り降ろした。ルクフェネはそれを蹴り上げて相手のバランスを崩し、全力の回し蹴りをたたき込む。
吹っ飛んだローゲイルは別の一体に激突して動きを止めた。
(結局その重量は諸刃の剣なんだよね……)




